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-GUY-  作者: TAKA丸
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ACT 6

【警告。 主反応炉の出力制御が出来ません。 炉内圧力上昇、爆発ノ可能性100%。 至急退避して下さい】

 コンピューターの警告メッセージが、ダイレクトにガイの脳に伝わる。

 情報はこの建物に触れている限り、無条件でガイの脳内に流れ込んで来る。

 だが、それだけだ……。

「リセル! 端末を僕の首の端子に接続して!」

 ガイは通路にあるコンソールの前で立ち止まると、背中に跨るリセルに言った。

 コンソールの脇からケーブルを引っ張り出すと、リセルはガイの長い体毛を掻き分け、その首筋にあるコネクタ部分にケーブルを繋げた。

「はい、繋いだわ!」

「まだ使えるといいが……α2899-1145-ΣZZORQ88-01! エマージェンシー! 『S』 をデリート! 『F』 を最優先だ!」

 コンソールパネルに 『F』 の文字が浮き上がった。

 ガイの認識コードは、まだ生きていたのだ。

 これで、このプラントのコンピューターは、全てガイの指揮下に置かれる。

【了解しました。 全管制システムは 『F』 を最優先します。 ご命令をどうぞ】

「よし!」

 ガイは爆発によって出来た瓦礫の山を避けつつ、シェルターへと走り出した。

 身体が徐々に思うように動かなくなって来ている……もう残された時間は少ないと、ガイは感じた。

「……見えた、シェルターだ!」

 ガイはシェルターの前でリセルを降ろすと、解除キーを入力し、ドアのロックを外した。

「リセル! 中に入って!」

「で、でも、このシェルターは未完成だって……」

「大丈夫、僕が何とかする!」

「ガイ……」

「全作業用動力を 『F』 を介してシェルターへ! ……再生プラント起動! シェルターのみを集中修復!」

 ガイが命令すると天井や壁からケーブルが伸び、次々とガイの身体とシェルターに勝手に繋がって行く。

 どこからか低く唸る音が聞こえると、ガイの身体は細かく振るえ、全身の毛が逆立った。

「ム……ゥ……!」

【了解。 作業終了まで残り2分15秒05です】

「崩壊までの残り時間は? ……大丈夫、間に合う」

「良かった……。 さあガイ、中へ入りましょう」

 だが、リセルの差し出した手をガイはすり抜け、リセルをシェルター内へ突き飛ばすと、そのまま扉を閉めた。

「完全ロック……手動による解除は無効に。 自動解除は1週間後。 変更は……無い」

【了解。 自動解除を1週間後に設定しました。 『F』 以外の変更命令は全て無視されます。 セキュリティシステム起動。 シェルターは完全防御体制に移行します】

 ガイの命令通りにシェルターのドア部分が頑丈にロックされ、数枚の合金が合わさったドアは完全に閉じられた。

『ガイ! 何をするの! 開けなさい!』

 リセルは、中からモニタ越しにガイに叫んだ。

 しかし……。

「シェルターに入る数は少ない程いい。 酸素も水も、それだけ長く持つ。 それに……」

『何を言うのガイ、開けなさい! ……開けて! お願いだから!』

「それに、僕が中に入ったら修復が間に合わない。 崩壊までは、あと2分しか無いんだ……」

『そんな……。 だって……だって、さっき……ガイ! あなた嘘を……』

 ガイは扉に背を向けて立ち、作業を続ける。

『待って! それなら出口まで走れば逃げられるじゃない! あんなに速く走れるんだもの、外に出れば……!』

「無理だ、爆発の余波に巻き込まれてしまう。 何より……」

 そこまでの力は、もうガイには残されていないのだ……。

「傷を治している暇は無い……加速剤過剰投与! 限界完全無視! 全ての作業をシェルター修復のみに集中! シェルター周辺を完全シールド! 隔壁閉鎖! 自己修復モード最速に移行!」

【了解。 シェルター修復以外の全てを無視します。 加速剤注入開始。 隔壁完全遮断。 自己修復最速モードに入ります】

 幾重にも重ねられた防御壁がシェルターを覆い隠す。

 だが、それだけでは完全にシェルターを護る事は出来ない。

「もっとだ……もっと防御を厚く……もっとだっ!」

『ガイッ!』

「おぉぉぉ……うおぉぉぉぉーっ!」

 リセルの見つめるモニタ画面には、体毛が全て逆立ち、輝きがシルバーからゴールドへと変わったガイが映し出されている。

 先程、自分が撃ったガイの傷口から大量の出血が迸るのを見て、リセルはたまらず画面から目を逸らした。

「ふふ……まだ僕の身体には血が流れているの……か……。 人と同じ、赤い血……が……」

『ガイ……ガイ……』

「死なせはしない……リセル、君を死なせはしない! 僕は君を護ってみせる!」

『ガイ!』

「僕は……君を……」

『……!』

 未だかつて無かった規模の爆発が起こり、高さ数kmに及ぶキノコ雲が湧き上がった……。




「酷いもんだな……10年前の時とは比較にならん規模だ」

 調査団の一人が、その惨状を目の当たりにして呟いた。

 この一週間の中和作業で、周囲の放射能は、ほぼ除去されていた。

 当然その作業を行ったのは人間では無く機械だ。

 それでも調査団は全員スーツを着用している。

 どこまでも臆病……いや、今の人類には、それだけの慎重さが求められているのだ。

 種を絶やさない為に……。

「隊長! 2km先に生体反応! 6つです!」

 生存者の確認の為、周囲をモニタしていた隊員の一人が叫んだ。

「何? そんなバカな……ここはまだ本稼動前だったんだぞ! 作業員の生存報告も無いというのに、こんな所に生物など……識別は!?」

「ここからでは……あれ?」

「今度は何だ!」

 いちいち不明瞭な報告に、隊長の男性はイライラして怒鳴った。

「生体反応消失……いえ、1つになりました……」

「確認の必要があるな……。 ここには2名だけ残り、他の者は確認に向かう!」

 調査団一行が車を移動させ、反応のあった場所へと到着すると、そこには正方形のシェルターが完全な形で残されていた。

 隊員達は全員が唖然とした表情でそれを見つめている。

「信じられない……10年前の規模でさえ、シェルターなんて跡形も無く消し飛んだのに……」

「目の前に現実がある! 認識したら行動しろ! 反応は?」

「間違いありません、反応はそこからです」

「生存者の救出を開始する! 全員配置に……」

 隊長の男性が指示を出そうとすると、バクン! という音と共にシェルターの扉が開いた。

 余程厳重にシールドされていたのだろう、扉が開く際に周囲の部品の幾つかが一緒に飛び散った。

「開いた? セットされていたのか……おーい! 中にいるのは誰だ! 認識コードを言え!」

 だが中からの応答は無い。

「反応は?」

「あります、生きてます」

「気絶しているか、自力で動けない状態か……装備の再確認はしたか? 入るぞ!」

「……何だこれ? オブジェか?」

 隊員の1人が奇妙な形の石を触って呟いた。

 それはどこかで見た事のある形だった。

「おい、何をしてるんだ。 さっさと中に入れ」

「あ、はい!」

 隊員達がシェルター内に入ると、女性が一人、ベッドに見立てた箱の上に横たわっていた。

「ふむ……怪我や病気では無さそうだな。 君! しっかりしろ!」

 肩を掴まれ、身体を揺さぶられて、リセルは静かにその目を開いた。

 今までは小さな照明だけだった為、外から差し込む光が眩しく感じられて、リセルは一瞬だけ目を閉じた。

「ん……あ……扉が開いてる……?」

「大丈夫か? 君の認識コードは? いや、それより何故ここにいるんだ? ここのスタッフじゃないんだろう?」

「何故……? 私は……」

 少し考えて、リセルの目がハッと開いた。

「ガイ! ガイはっ!?」

「ガイ? 誰か他にもいたのかね?」

「犬が……いえ、狼がいるはずなんです! 私の大事な家族なんです!」

 リセルが隊長にそう言うと、隊員達はみんな同情するような目でリセルを見た。

 恐らく何かのショックで気が動転しているか、或いは発狂しているのだろうと。

 今の時代に、民間人が犬など飼える訳も無いのだから。

 ましてや狼など……。

「……ああ! あれって犬だ、今思い出した。 1度、シティのイベントでやってた、絶滅種の歴史ってので見たんだ」

 隊員の1人、先程ドアの所で隊長に叱られていた男性が言った。

「見たんですか!? どこで!」

「え? ああ、扉の傍だけど、でも……」

「本当ですか!? ああ……ガイ……無事だったのね、ガイ!」

 リセルが外へ駆けだし、扉の陰を覗き込んで……その場にへたり込んだ。

 そこにはシェルターを守るように、雄雄しく立ったまま石化したガイの姿があった。

「ガイ……」

 リセルはそっとガイの身体を抱きしめ、その硬い身体に頬を寄せた。

「私の為に……私のせいで……!」


 遠くで、ガイの遠吠えが聞こえたような気がした……。

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