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-GUY-  作者: TAKA丸
6/8

ACT 5

「きゃあっ!」

 リセルは悲鳴と共に引き金を引いた。

 ライフルから発せられた弾丸はガイの胸を貫き、壁に当たって弾け跳んだ。

(グッ……!)

 想像を絶する苦痛がガイの全身を駆け抜けた。

 だが、それに構う事無く、ガイはリセルの肩を支点にして、更に高く跳躍した。

 と同時に、コピー達との戦いの時のようにガイの身体が一瞬光ると、その姿が消えた。

「何っ!? まさか……!」

(『S』 ……。 これが……僕の最後の一撃だ!)

 次にガイの姿が見えた時、その牙は 『S』 の首筋に突き立てられていた。

 だが、ガイの牙は 『S』 の皮膚に食い込む事無く、ただその表面でギシギシと軋んでいるだけだ。

「加速剤を持っていたとは……だが残念だったね。 どうやら君の牙では私の皮膚は貫けないようだよ?」

「承知の上さ……狙いはそれじゃない!」

 パキ! っと何かが砕ける音がすると同時に、 『S』 が苦悶の表情を浮かべた。

「ファースト・ボーン! 今、何を……!?」

「劣化促進剤を注入した……君は、もう生きられない!」

「そうか……今まで牙を使わなかったのは!」

「そう、口の中にしか入れておけないのでね……僕は」



「博士、無駄だ何て言わないで下さい! 活性化しますから、もう少し頑張って……」

 何とかノイの傷口を塞ごうとするガイを制し、ノイは服のポケットからカプセルを一つ取り出した。

「もう時間が無い……これを……」

「これ……は?」

「分子結合の劣化を促進する薬品だ……これを 『S』 の首にある接続端子に入れろ……。 剥き出しになっているそこしか 『S』 に弱点は無い。 あれの能力は全てにおいてお前を上回る……勝機は一瞬だぞ……」


「行け……ガイ……」



「ノイ博士が最後に僕に託してくれた武器だ……」

「愚かな……少量とは言え、君も摂取してしまったぞ!? 私と心中するつもりかね!」

「それも仕方の無い事だ……。 このまま時を待てば全てが終わる!」

「冗談ではない! 放せ! 私は生きる……私は……グアァァッ!」

 『S』 の身体に徐々に異変が現れ始めた。

 体毛が抜け始め、爪や牙が、 『S』 がガイから逃れようと動く度に、まるで砂の塊のように崩れ落ちて行く。

 加速剤によって身体機能が加速されている今、その劣化も通常より遥かに早く進む……。

「り……理想の世界……。 私の……私達の……」

「終わりにするんだ! もう……悪夢はここで……!」

「嫌だ……嫌だぁぁーっ! 私はまだ遂げていない! 復讐を……兄弟達の恨みを晴らしていないっ!」

 ラボで創られた 『S』 が起動した時に目にした物。

 それは自分と同じ形をした者達が幾つも廃棄されている現実だった。

 『F』 を上回るように……全てにおいて優れた存在であるように。

 そうやって何度も何度も研究を重ねられ、何体もの実験体の犠牲の上に生まれて来た存在……それが 『S』 と呼ばれる自分なのだ。

「私は……たった一人で耐えて来たのだ……。 今日のこの日をどんなに待ち焦がれたか、君に解るのか! ファースト・ボーン!」

 『S』 は崩れ行く身体を厭う事無く激しく暴れるが、ガイは渾身の力を振り絞って 『S』 を押さえ続ける。

 ガイが力を込める度、リセルに撃ち抜かれた傷口からは血が噴出した。

「『S』 ……僕も一緒に逝く。 君を独りにはしない……」

「あ……あああ……! 身体が……身体が崩れる……私の身体がっ! ファースト・ボーン! 助けて……助けて……た……」

 『S』 の尾が、右前足が、まるで石膏細工のように、血も流さずに身体から離れて砂塵と化して行く。

 ガイは静かに口を放し、 『S』 の身体を横たえた。

「さらば 『S』 ……もう1人の僕……」

「ガイが……どうして2匹も……? しかも喋って……ガイが特別種……!?」

 暫く呆然と事の成り行きを見ていたリセルが、やや混乱しつつ口を開いたが、やはり事態を飲み込めてはいないようだ。

 ガイは細々した説明は省き、自分の伝えたい事だけを言う事に決めた。

「君の誤解だけは解いておきたい……博士を殺したのは僕じゃないよ」

「そう……みたいね……。 それより大丈夫なの? その……」

 リセルは、自分で傷付けたガイの身体を見た。

 素人にも傷の深さが判るほど、ガイは激しく出血している。

「そうだね……そんなに長くは持たないと思う。 活性化したところで、劣化促進剤を摂取してしまった今となっては、逆に劣化を早めるだけから。 でも、これでいいんだよ、きっと……」

「だめ……だめ! 死なせない!」

 リセルはガイに近付くと、その大きな身体を抱いた。

 ガイは力無くリセルに凭れ掛かり、そのまま目を閉じ、身体を横たえた。

「結局……私は貴方を信じてなかった! 家族みたいになんて思ってなかったんだ……私は……」

「……そんな事は無いよ。 小さい頃、リセルはいつも僕の傍にいてくれた……こんな風に優しく抱いてくれた……嬉しかったよ」

「ガイ……」

「僕はラボにいた頃から、ずっと探してた。 父を、そして母を……。 でも最初からいなかったんだ、僕は創られた者だから。 それでも僕は見る事が出来た……父や母が遥か昔に駆けていた大地を……森を……。 そして君に出会えた……満足だよ」

 リセルは、ただ首を振りながら、ガイの話を聞いていた。

 抱きしめる腕に力は込められない。

 『S』 のように崩れてしまったら……そう思うと恐怖心が湧いてしまう。

 リセルがそう考えて 『S』 に目を遣ると、

「いない……? ガイ! あの犬がいない!」

「!?」

 ガイが目を開き、視界の全てを使って 『S』 を探すと、ボロボロと崩れる身体を引きずりながら、メインコンピュータへと這い寄る 『S』 が見えた。

「『S』 ! 何をする気だ!」

「知れた事……。 創造が叶わぬなら……破壊するのみ……!」

「プラントを……反応炉を暴走させる気かっ!」

「灰塵と帰するがいい……呪われし我が身と共にっ!」

「よせ! 『S』 !」

 ガイの静止を聞き入れる訳も無く、 『S』 は全ての動力を一気に最大にする。

 まだ全てが完成してはいなかった反応炉は、すぐに悲鳴を上げ始めた。

「……ファースト・ボーン! 見事その人間……護って見せろ。 護れなければ……私の……勝ち……だ……」

 『S』 はそれだけ言い残すと、身体の全てが崩れ落ち、砂の小山のようになって……。

「『S』 ……!」

 ガイは崩れそうな身体を引き摺り、元は 『S』 だった物が使っていた端末を自分に接続した。

「コンピューターは……まだ生きてる! 全回線接続! 崩壊回避の可能性及び方法の想定! ……最短脱出ルート検索! ……崩壊までの時間想定!」

 ガイはコンピューターに指示を出し、全ての可能性を弾き出す。

 が、出た答えは否定的な物以外、何も無かった。

 今から出口に向かったとしても、反応炉の爆発に巻き込まれずに済む訳が無い。

「くそっ……! 何か無いのか……何か……!」

「ガイ……」

「……そうだ、シェルターは!? シェルターまでのルート検索!」

【シェルターの完成度は現在60%。 シェルター内での生存率は2%。 別の方法を選択する事を勧めます】

「相変わらず融通の利かない奴だな! いいから最短ルートを早く出せっ! 直接、僕の脳に書き込むんだ!」

 退避シェルターの全データを把握すると、ガイはよろめきながら立ち上がった。

「リセル、僕の背中に乗って!」

「そんな……無理よ! だって、そんなに……」

 少しずつではあるが、確実にガイの身体は崩壊を始めている。

 耳の先端や尻尾は、すでに崩れ落ちてしまっているのだ。

「グズグズしてる暇は無いんだ! 早く乗ってっ!」

 ガイに怒鳴られ、リセルは恐る恐るガイの背中に乗り、その首にそっと手を回した。

「大丈夫。 身体はまだ崩れたりしないから、しっかり掴まってて」

「うん……」

「行くよ……!」

 ガイの身体が輝き始め、やがて体毛の全てが銀色に変わると、頭の中に書き込まれたシェルターへの最短ルートをガイは走り出す。

 その時、プラント各部で爆発が始まった……。

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