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-GUY-  作者: TAKA丸
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ACT 4

 再生プラントに到着したガイは、周囲を警戒しつつ中へと入った。

 作業員の姿が一人も見えない……血の匂いが充満しているという事は、恐らく全員殺害されてしまったのだろう。

(静かだな……プラントの火は入っているようだが、 『S』 が本来の目的のままにプラントを使うとも思えない。 目的は何だ……?)

 反応炉は起動しているらしく、低い音が微かにガイの耳に届く。

 しかし、各セクションはスタンバイ状態のままなのか、稼動している様子が無い。

(『S』 だけでもここを動かす事は可能な筈だ。 なのに……)

 ガイは 『S』 が何を企んでいるのかを考えつつ、通路を進んで行った……。


「フム……現状で機能は100%出せるか……」

 『S』 は自分とコンピューターを繋ぎ、データの転送をしている。

 情報の選別をし、必要な物だけを直接脳に書き込んでいるのだ。

 大量のデータのやり取りも、 『S』 にとっては然程の苦も無く出来る。

 『S』 はそう造られているのだから……。

「システムの掌握は完了……ん? 始まったか」

 通路を映すモニターには、ガイとコピー達の死闘が映し出されていた。

 一匹が襲い掛かり、ガイがそれを相手にしようとすると、死角になる方向から他の数匹が同時に襲い掛かる。

「ククク……成る程? 役立たずと思っていたが、そこそこの学習能力は有しているようだな。 さすがは 『F』 のコピーだ……」

 しかしモニター画面を見る 『S』 は、何か納得が行かなかった。

 何故かガイは一度もその牙を使おうとしない。

 硬く口を結び、体当たりでのみ応戦しているのだ。

「呆れたものだな……そこまでしてコピーを傷付ける事を拒むか。 フ……まあいいさ、いつまでそうしていられるかな?」

 『S』 はモニターから視線を外すとセキュリティシステムを切り、再びコンピューターとの会話を始めた。

(クッ……! このままだと、僕の体力が先に尽きてしまう!)

 攻撃を避け続けるにも限度がある。

 コピーとは言え、身体能力は殆どガイと変わらないのだ。

(時間が無いんだ……許してくれ!)

 一瞬、ガイの身体が光ったように見えた後、コピー達は次々と壁に叩き付けられ、低く呻いて動きを止めた。

 そのコピー達を、ガイは慈愛に満ちた目で見つめる。

(もうよせ……君達は僕には勝てないんだ、解るだろう?)

 五匹のコピー達は暫くガイを取り囲んで唸っていたが、やがて静かになるとガイに背を向け、プラントの外へと出て行った。

(ここにコピー達がいるという事は、この先に 『S』 がいるという事か……。 つまり、僕を待っているという事だな)

 ガイは目標を定め、走り出した。



「所詮、コピーはコピーか。 だが、余興までの時間は稼げたようだな……」

 『S』 は中央管理室のドアロックを外した。

 すると即座にドアが開き、ガイが中へと入って来た。

 室内にある数本の巨大な柱は単なる支柱ではなく、内部に記録装置や演算処理装置が埋め込まれている。

 つまり、その一本一本がコンピューターとしての機能を有しているのだ。

 『S』 は階段状になったメインコンピューターの台座の上で、ケーブルによってコンピューターと繋がったまま、ガイに向かって言った。

「待っていたよ、ファースト・ボーン」

「……」

 ガイは無言で部屋の隅にある端末に近付くと、鼻先でスイッチを押した。

 スルスルと端子が伸びて来て、ガイの首筋にあるコネクタに装着される。

 使い方は昔と変わっていない……ガイはそれを懐かしく感じるのと同時に、やはり自分は 『創られた者』 なのだと思った。

「おやおや、私と直接言葉を交わすのはお嫌かな?」

 ガイは 『S』 のその質問には答えず、代わりに音声出力のスイッチを入れ、スピーカーから 『S』 に問いかけた。

 ガイが発しようと頭に浮かべた言葉は、全て忠実にシミュレートされ、音声に変換される。

『……僕を殺す為にコピー達を差し向けたのでは無かったのか?』

 変換装置は完璧に作動した。

 どうやらガイに関するデータの全ては抹消されず、中央の管理コンピューターに残されているようだ。

 各施設のコンピューターは各々独立しているとは言っても、コンピューター間でのデータ交換は常にされているのだ。

「そうではないよ……君に準備の邪魔をされたくなかっただけさ。 たかがコピーごときに君がやられるとも思えないしね」

『単なる時間稼ぎ? 何故?』

「君を認めているからさ……。 さあ、私と共に来たまえ、新しい世界へ。 在るべき者が、在るべき姿で暮す世界へ」

『プラントを何に使うつもりだ……再生か?』

 ガイのその言葉に、『S』 は苦笑したようだった。

「私を失望させるような事を言わないでくれたまえ。 ……それとも今のはジョークかい? だったら、君はセンスが無いね」

『では、全てを破壊するか? しかし、ここにある一基だけでは不可能だぞ。 ネットワークを繋ぎ、世界中で一斉に使うのならともかく……』

「いや……私は全てを創るつもりでいるんだよ。 水も空気も、虫も動物も植物も……人間以外の全てをね。 ここがその第一歩になるのさ」

『馬鹿な! 神にでもなるつもりか!』

「まさか……神など人間の勝手な妄想だよ。 私は、そんな物に身を堕とすつもりは無い」

 『S』 はガイに背を向けると、コンピューターに何かを命じた。

 すると、管理室内の中空に幾つものホログラフィの画面が現れ、そこに様々なグラフィックによるデータが映し出された。

「わたしが手を下さなくとも、そう遠くない内に人類は滅ぶだろう……だが、ただ待っているというのも芸が無い。 そういう事さ」

『……』

「ところで、ファースト・ボーン。 君は、この惑星の歴史をどの程度知っているかね?」

『データバンクに入っている物の殆どは記憶している』

「なら解っているね? 人間が何をして来たか……。 そしてその結果、何をもたらしたか……」

 ガイは辛そうに頷いた。

「そう! 吸わなければ生きられないくせに大気を汚染し、命を生み出す母なる海を汚染し、他に逃げ場も求められないくせに大地を汚染する……私には人類が滅亡したがっているように思えて仕方ないんだよ」

『……』

「しかも、このプラントの動力源は何だ? 核だよ? ……史上最悪の汚染物質だ! ここまで愚かで下等な生物が、有史以来この惑星上に存在したかね? 人間以外にっ!」

 完璧に制御し切れない物を、まるで自分の意のままに出来るとでも言うように人間は使う。

 何もかもが計算通りに動くと、人間は考える。

 しかし、いつでも大きな事故を起こし、それでも同じように使い続けるのだ。

 時には、それを武器にさえする……。

『それは……確かにそうだろう、人は愚かだ……君の言う通りに』

「ならば!」

『だからと言って! ……それを滅する権利も資格も君には無い! 誰にも無いっ!』

「いいや、あるっ! あるのだよ、ファースト・ボーン!」

 『S』 は興奮している。

 ガイが自分の意見に賛同してくれない事。

 人間が愚かだと言いながら、その人間に肩入れしている事。

 人間を憎もうとしないガイの態度が 『S』 のカンに障るのだ。

「君に問おう、ファースト・ボーン。 ……私達は何者だ?」

『……』

「答えたまえ……私達は何者かね! 犬か? 人か? それとも機械かっ! 私達は一体 『何』 として存在している!」

 ガイは答えない……いや、答えられない。

「そう……答えられないんだよ、ファースト・ボーン。 私達は何者でもないのだ……この惑星が生んでくれた存在ではないのだよっ!」

『それでも……それでも僕達は生きている! 産まれて! 生きて! ……死んで逝く存在なんだ』

「君はそれで満足か……? だが、私は御免だ! 私は私の理想の世界を創る! 私が私として生きられる世界を創る!」

『それは君のエゴだ! それこそ人の愚かしさその物だろうにっ!』

「無礼だぞ、ファースト・ボーン! 私と人間を同一視するな!」

 『S』 は、ガイの使っていた音声出力装置を切った。

 これ以上ガイと会話する気は無いとの意思表示だろう。

「最早、君と語るべき時間は終わった……。 君は私を受け入れず、私も君を受け入れない。 私を止めたければ……私を殺せっ!」

 プシュ! と音がして 『S』 の身体からプラグが外れると、瞬時に 『S』 はガイの背後に現れた。

(……加速剤!?)

「反射、反応速度だけではない。 加速剤は身体機能……運動能力も加速させる! それに耐えられる私は選ばれた者だっ!」

 『S』 の牙が深々とガイの背中にめり込むと、そのまま天井高く放り投げられる。

 その後を追って高く跳躍すると、 『S』 はガイの身体を蹴り落とした。

「どうしたね? ファースト・ボーン……そのまま死ぬのかい?」

(クッ……!)

 クルリと身体を反転させて着地すると、ガイは 『S』 の第二撃に対して身構えた。

 だが……。

「どこを見てるんだい?」

 やはり、また背後に回られ、今度は壁へと弾き飛ばされる。

 物凄い勢いでガイのぶつかった壁は、大きくその形を歪めた。

 いくら頑丈に造られているとは言え、ガイには相当のダメージがあった筈である。

「ファースト・ボーン……私に情けをかけているのかい? 先程から君の牙が見えないが?」

 何を言われても無言のまま、ふらつきながらガイは立ち上がり、 『S』 と対峙した。

 しかし、やはりその口は固く閉ざされたままだ。

「……君にはつくづく失望させられるよ。 仮にも 『創めに産まれし者』 の名を冠しているのだろうに、その程度とはね」

 『S』 は、ガッカリしたように首を下げ、ガイから視線を逸らした。

(……今だ!)

 ガイが四肢を踏ん張り、 『S』 に飛び掛ろうとした時、銃声と共にガイの腹部を銃弾が貫いた。

 過去に幾度も経験したどの苦痛とも違う痛みが、ガイの身体を突き抜けた。

(な……リセル!?)

 冷たい床を滑るようにして飛ばされたガイが見た物は、管理室の入り口でライフルの銃口をガイに向けているリセルだった。

「ガイ……よくも……よくも、お爺ちゃんを! あんなに可愛がってあげたのにっ! 家族みたいに思ってたのにっ!」

 リセルの姿を確認した 『S』 は静かに後退ると、柱の影へとその身を潜めた。

(いけない……リセル、今こっちに来ちゃいけない!)

 ガイは必死に首を振って意思表示をするが、リセルには伝わらない。

 丁度リセルからは死角になっていて見えない位置まで行くと、 『S』 はその様子を見て口元を歪めた。

 リセルはライフルを構えたまま、徐々にガイとの距離を詰めて行く。

「ここまで近付けば外れないわ……殺してやる!」

(そうか…… 『S』 はリセルが来る事を知っていて……。 これを待っていたんだな……!)

 ガイはヨロヨロと起き上がると、リセルに向かって攻撃態勢をとった。

「私も殺す気なのね……? お前なんかに殺されるもんかっ!」

 リセルがライフルの引き金を引くと同時に、ガイはリセルに飛び掛って行った……。

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