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-GUY-  作者: TAKA丸
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ACT 3

「え〜っと……買い忘れた物は無いわね」

 買い物を終えたリセルは、店を出て帰路に着いた。

「中途半端な距離にお店があるのも考え物ね。 車を使うには近過ぎるし、かと言って歩くのも面倒だし……」

 しかし、結局いつも、リセルは歩いて買い物に行く。

 自分で運転するのがあまり好きでない事もあるが、元々車自体が好きでは無いからだ。

「お爺ちゃんの教育の賜物ね、きっと」

 立ち止まり、 「よいしょ」 と荷物を持ち直すとクスリと笑って、リセルは再び家への道を歩き出した。



「ガアァァァッ!」

 ガイの牙がコピーの一匹に食い込むと、他の何匹かがガイの背後に回り、飛びかろうと身構える。

 が、ガイは咥えた一匹を振り回すと、背後のコピーに向かってその身体を叩き付けた。

「さすがに僕のコピーだ……タフにできてる」

 叩き付けられたコピーはムックリと起き上がり、再びガイを威嚇するように低い唸り声を上げた。

「どうする……グズグズしていたら 『S』 が……!」

 その時、突然ドン! と重い破裂音がしたかと思うと、コピーの一匹が 『ギャン!』 と悲鳴を上げて後ろへ跳んだ。

「ノイ博士!?」

「退がれ……次は脳天を撃ち抜くぞ……」

 倒れたままの姿勢のノイの手には、旧式のライフル銃が握られていた。

「退がれ……! こんなオモチャでも当たれば死ぬぞ……!」

 ノイの気迫に気圧されたコピー達は、脱兎の如く家の外へと逃げ出して行った。

「ノイ博士!」

「ガイ……無事か? 良かった……」

「しっかりして下さい! 今、活性化させます!」

 活性化……再生プラントの試験的な意味合いも含め、ガイに埋め込まれた代謝機能を加速するシステムである。

 これのお蔭で、ある程度の傷は瞬く間に完治する。

 ラボにいた頃、自分の身体の中に特殊な機械が埋め込まれている事を疎ましく思った事もあったが、それを使ってリセルの怪我を治した事もあった。

 その時には役立てた自分を嬉しく思うのと同時に、機械に感謝したものだった。

「はは……無茶を言うな、もうワシは助からんよ……。 活性化だけでは、失われた血液を作る事は出来ん……」

 噛み裂かれた喉は大きく口を開け、そこからは夥しい出血がある。

 こうして喋っていられるのが信じられないくらいだ。

 恐らく、ガイの言う活性化のお蔭なのだろうが……。

「そうか……お前が 『F』 だったのか……あの小さな狼の子が……」

 言葉を話す自分に、ノイは特別な反応を示さない。

 それは、ノイがラボの人間だった事を示す何よりの証拠だ。

 出来れば、それは否定したかった……。

 ガイにとって、ノイは単なる普通の老人でいて欲しかったのだ。

「僕を創ったのは……貴方ですか?」

「いや……お前は純粋な突然変異だよ、ガイ」

「突然変異……?」

「ガイ……お前の記憶の中に、生物の進化についての物があるだろう? それはワシの自説だ。 生物はゆっくりと進化したのではない……。 何度も何度も突然変異を繰り返し、その時々に合った形の者が生き残って来た……それが進化だ」

「でも、僕は……」

 確かに記憶の中にはその情報がインプットされている。

 だが、突然変異と言うには、あまりにも自分は生物の進化形態とはかけ離れているし、体内には様々な機械が埋め込まれている。

「確かに、途中までのプロセスを担当していたのはワシだがね……。 ワシは、お前の完成を見ずに……逃げ出した……」

 怖かったのだとノイは言った。

 惑星規模の開発技術も、人類以上の優れた存在を創り出す事も。

 それが人類の存在を否定する事に繋がるような気がして……。

「しかし、 『S』 を創ったのは貴方だと……」

「この惑星に住む人間は少ない……。 どこへ隠れても容易く見つけられてしまうのさ……木を隠すには、森の中でなければな……」

「リセルを……人質に捕られたんですね?」

 ノイは力無く肯くと、静かに目を閉じた。

 結局、人間は無機質な物の中では生きられない。

 人間が生きる為には、様々な有機物が必要なのだ。

 だが、その全ては政府によって管理されている。

「滅ぶべき時に滅べなかった者は哀れだ……だが、お前の中には、その哀れな者の血も流れている。 そして、狼の誇り高き血も……な……」

「博士……」

「生まれ来る者は、やがて死に逝く……当たり前の事だ。 それを解ろうとせぬから……人は……。 ガイ……お前と暮らした10年が……その10年間だけが、ワシの……」

 ガイの口元に手を伸ばし、ノイは静かに微笑んだ。

「行け……ガイ……」

 そして1つ大きく息を吸い込もうとして、2〜3度咽込むと、そのまま動かなくなった……。

(ノイ博士……貴方をこのままにしておくのは心苦しい。 けれど、僕は行きます…… 『S』 を、このままにしてはおけない!)

 ガイの四肢が床を蹴ると一陣の風が巻き起こり、その姿は、あっという間に見えなくなった……。



 荷物がバサっと音を立てて落ちると、リンゴが1つ、足元を転がって行った。

「何、これ……。 そこにいるの、シロタ……さん……?」

 家の入り口に倒れている、物言わぬシロタ。

 その向こう、滅茶苦茶になった家の中には、ノイも倒れている。

「お爺ちゃんっ!」

 外から見てもノイが絶命しているのは明白だったが、リセルは駆け寄らずにはいられなかった。

 年老いて小さくなっていた身体を、リセルは跪き、その膝に抱きかかえる。

「何故……どうしてっ!? 何があったのっ! お爺ちゃん!」

 ゴトリという低い音と共に、ノイが手にしたライフルが床に落ちると、リセルは視線を落とし、その側に落ちている血痕と体毛を目にした。

「黒い……犬の毛? それに、この血は……まさか!」

 点々と家の外へ繋がる血痕……シロタの物ではない。

 どう見ても、シロタは家に入る前に殺されている。

 では、この血は……。

「……ガイ……!」

 リセルはノイのライフルを持つと、血痕を追って家を出て行った……。



(『S』 はどこへ向かった……ラボ? いや、違う……ラボはもう機能していないだろう)

 ガイは全力で駆けながら 『S』 の行方を考えた。

 『S』 には体臭が無いらしく、臭いの微粒子を探知出来ない。

 今は微かに残るノイの血の臭いを頼りに進んでいるのだが、それも 『S』 の能力なのか、臭いが殆ど薄れてしまっている。

(ん? この血の臭いは……博士に撃たれた、僕のコピーの血か……。 奴らは 『S』 の所に戻るんだろうか?)

 あまり確実な考えとは思えなかったが、他に手掛かりになる物が無い以上、それに賭けるしかない。

(この方向は……再生プラントか!)

 ガイの足は更に強く地面を蹴り、その大きな身体を加速させる。

 しなやかな身体がまるで流星のように、一直線に再生プラントへと向かって行く。

 その様子をモニターで見つめるのは…… 『S』 だ。

 プラントの周囲には警戒網が張り巡らされており、近付く対象物の情報を逐一送って来るのだ。

「ほう? さすがは 『F』 ……と言いたい所だが」

 『S』 がゆっくりと振り返る。

 その冷徹な視線を浴びたコピー達は、尻尾を丸めて耳を下げ、完全に怯えていた。

「要らぬ手間が増えてしまったよ……? どうすれば良いか考えろっ!」

 『S』 に一喝されたコピー達は、ガイを迎え撃つ為、入り口へと一斉に走り出した。

「まるで人間だな……命令が無ければ動けんとは。 時間があれば、もう少し使える物を創れたのに……!」

 一瞬、苛ついた様子を見せた 『S』 だったが、すぐに冷静さ取り戻すと再びモニター画面に眼をやり、微かに口元を歪めた。

 そう…… 『S』 が 『笑う』 時に見せる仕草だ。

「これはこれは……面白いショーが見られそうだ。 早く来たまえ 『F』 。 君の望む未来が、ここにあるかも知れないぞ?」

 『S』 はその場に寝そべると静かに目を閉じ、 『F』 を待つ事にした……。

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