家族
そして下校時間。
友樹達と別れていつもなら俺と奏斗達だけだけど、今日からは音葉も居る。
「奏。お前はずっとあの家に住んでいるのか?」
「あったりめーだ」
駄目だ。会話が続かない。終始無言のまま家へ到着した。
今日からは家族っぽくなるなあ。
「お兄ちゃん、それなーに?」
奏那の視線の先に居るのは音葉だ。
両方ともお兄ちゃんだとわけ分かんねえな。いっそ呼び方は変えたいな。
「なあ、二人ともお兄ちゃんって呼ばれるとどっちがどっちか分かんないよな。なんか呼び方決めようぜ」
少し音葉は悩んだようだが、頷いた。
「じゃあ、俺が奏にいで、お前が音葉にい、な。二人とも分かったか?」
って奏斗は分かんないかな。そう思った時だ。
「か…に…かにぃー」
「かに?」
「お前の事を読んでるようだそ奏」
「あ。かなでにいって言おうとしたのか!? すっげー! 奏斗が話せるようになったー! やっぱ嬉しいよな、家族が成長するのって。な、音葉」
「家族、か。今までそんな事は考えた事無かったな。確かに嬉しいもんだな」
「音葉は母さん家で暮らしてたんだろ? だったら家族が周りにいたんじゃないのか?」
「いや、はっきり言うと俺はおじい様に育てられたものだ。母親になどめったに顔を合わせた事も無い。母親とろくに話したこともないな」
「でもさ、俺はよく話したよ。学校の事とか友達の事とか。どうして俺と音葉の育て方が違ったんだ?」
「おじい様が言うには、お前を巻き込みたくなくてわざと普通の人生を歩ませることにしたんだと言っていた。それに比べて俺は、英才教育を受けていたようだ。普通じゃない道まっしぐらってとこだな」
最後にフッと音葉は笑った。
「音葉、笑えるんじゃん。何で笑わないんだよ。人生笑ったもん勝ちだぞ」
言ってみると何だか笑えた。笑ったもん勝ちって。なんか変だなと思った。笑って済む問題ばかりじゃないとも分かってる。けど笑う門には福来るって言うし。そう思うと何故か吹き出してしまう。どうしたんだよ俺!?
「奏斗達の教育のためにも笑え!」
むにー、と音葉の頬を引っ張ってみる。
「やめろ、奏。やめなきゃ俺だって…」
音葉も負けじと俺の頬を引っ張る。
「ふふふっ。っはははっははは」
「ど、どうした!? っははっっははあっははは」
急に爆笑し始めた音葉につられ俺まで爆笑してしまう。
俺達、どうかなっちゃた!?
と一瞬思ったが急に音葉がまたいつもの真面目な顔つきに戻る。
「…そうだ、奏斗達で思い出した。なぜ、俺がここに来たかというと奏と奏斗達を守るためらしい。だから俺もこの子たちを育てるのに協力しよう」
「二人で育てるのなんて当たり前だろ。だって俺達、家族だし。それに俺らを守るのは口実で実は音葉も普通の生活にさせようと思ってんじゃないの? 期間とか言われてないんだったらそうだとおもうぜ」
あ、閃いた。
「なあ、俺達だけの家族だけの約束をつくろうよ。ほら奏のおきてみたいな感じで」
「それ、マ○モのおきてだろ。まあ、楽しそうじゃないか。賛成だ」
「だろ。俺らの教育方針を決めようじゃんか!」
急きょ野嶋さんに二人の面倒を見てもらっている間に会議をすることにした。
「これから…あ、よし。四ツ葉家第一回の会議を始めるぜ。じゃあ最初の議題。教育方針の決定から決めるぞ」
100円ショップのホワイトボードを用意した。
「ちょっと思ったんだけどさ、うちの実家って何やってたの? まずそこからでしょ」
「探偵だ。とはいえ、ちっさい事件を扱っているんだ。世間で言う大きな事件なんて滅多に無い。ただ、俺がそれを変えてしまったんだ」
音葉は少し遠くを見てから俺に視線を戻す。
「お前が頭がよかったんだろ。だから、じいちゃんがお前を凄い探偵にしようと頑張っているっつうことだろ。そうだろ?」
「ああ。案外奏も、よく頭が回るんだな。しかし、何があったのか恨まれる、狙われるようになったってことだ。理解できたか」
かちん。少し俺は頭に来たがそこは抑える。
「んじゃあ俺らもその狙ってる敵を倒すっつうわけだ。違うのか? それとも気にすんなっていうのか?」
ん……、と音葉は黙りこむ。少し悩んでいるようだ。
「お前は、どうなんだ? 突き止めたいのか?」
「俺は……やる。もやもやするのは嫌だし、俺らだけじゃなくてちび達も狙われてるんだろ。俺はちび達を命がけで守るって決めたんだよ。ちび達のためなら何でもするぞ」
「お前の気持ちは分かった。言っとくけど簡単じゃないのは分かるよな? 」
「あったリまえだっつーの。で、本題だけど、音葉はあの子たちを探偵にしたいか? 俺は嫌だよ。でも、あいつらが大きくなって、自分で決める事だろ。その事に関しては俺らが関わる必要は無い。ただ、普通の子として育てばいいと思ってる。なんか言いたいことはあるか? 」
「俺もそう思う。まあ、教育費とかはじいちゃんが全て出すらしい」
それから半日経つ。俺は野嶋さんが戻って来るまで俺らの話は続いた。
帰って来たばかりの奏斗は俺の膝にすり寄って来る。俺は奏斗のオムツの近くのにおいを嗅ぐ。
「く、臭い……」
音葉は声を潜めて笑う。
「ちょっ、逃げるなって」
ハイハイで逃げ回る奏斗。「奏斗をつかまえて!」と音葉に言ったものの音葉は奏斗を捕まえようと
サカサカ動く奏斗を捕まえようとする。しかし、簡単に奏斗は捕まるわけもなく。結局俺が捕まえてオムツを替えた。
「数日しか経っていないはずなのに、まるでベテランの母親みたいだな」
「じゃあ俺晩飯作るからこいつら見てろよ。あ、ただじーっと見うんじゃなくて面倒をみるんだぞ。ちび達を育てるのは俺じゃなくて俺らなんだぜ?」
「ああ。頑張ってみる」音葉はそっと奏斗を抱こうとする。
「待てよ。奏斗寝てるだろ、起こすなよ。奏那を見とけってんだよ」
奏那の方に視線を移す。
俺は買ってきた野菜を切る。今日の晩飯はサラダだ。