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KIds Panic  作者: 詩夜
2/5

嵐の前の静けさ

目覚まし時計級の大きな奏斗の泣く声で目が覚めた。

「奏斗……おはよう。えっと、ミルクか?」

 奏斗のオムツからは臭いにおいはない。俺は温めておいたぬるま湯に粉ミルクを適量入れ、軽く上下に振ってから温度を確かめ、適温だと分かると椅子に座り、奏斗を抱き上げ、哺乳瓶を奏斗の口元に近づけた。奏斗は哺乳瓶に夢中で吸う。

「ふあ。奏斗、飲み終わったか? 」

 俺は奏斗がミルクを飲み干すのを見ると奏斗を抱きながら軽く背中を叩く。げっぷをさせた。奏斗は 飲み終えて満足するとすぐに眠り始めた。

「しゃあない。起きたからには俺も勉強するか」

 俺は教科書とノートを広げ勉強を始めた。

 一時間経ち、7時になる。奏那も目が覚めた様だ。

 俺は朝ごはんを作り始めた。ご飯を茶碗に盛りつける。俺が小さい頃使った器が幾らか残っていたのを使った。

「おはよぉお兄ちゃん」

「おはよう、奏那。ご飯出来たから食べな」

 奏那はスプーンでご飯をすくい食べている。俺も食べようかな。

 食卓に着き、俺も食べ始める。テレビの電源を入れ、いつも見ているニュース番組をつけた。

 比較的俺はご飯を食べるのが早い方で10分もすれば皿は空になった。しかしまだ奏那は小さいからゆっくり食べている。俺は自分が食べたものと朝の奏斗の哺乳瓶を洗う。少し心配になったりして奏那が食べているのを見たりしながら奏那が食べ終わるのを待つ。奏那以外の洗い物を終えると今度は二人の着替えを出す。着替えと言っても俺が小さい頃に来ていた服で女の子の奏那には少し似合わない気もする。最後に自分の制服を出した。

「ごちそうさまでした」と奏那が食べ終えたのを見ると今度は奏那の歯を磨く。自分も歯を磨きながら。歯を磨き終えると今度は着替えだ。

「おにいちゃん、着替えさせてー」と両手を揚げ、服を脱がしてのポーズをする奏那。パジャマを脱がし、Tシャツを着せた。少し時間が空いたが奏那の茶碗を洗った。

 俺はまずパジャマを脱いで学校指定のワイシャツを着て、ズボンをはく。最後にネクタイを締めブレザーをはおれば俺の着替えは完了。

 奏斗が丁度起きた様で「あー、うー」と言っている。起きたばかりの奏斗のパジャマを脱がせ着替えさせて最後によだれかけを着ければ完成。

 時計を見れば7時半を回っている。奏斗を抱え奏那の手を引き玄関で靴を履く。奏那の靴を履かせて鞄を持ち外へ出て家の鍵を閉めた。

「つ、疲れた……。親って大変なんだな」

 ぼそりと言って学校へ向かう。

 学校の校門前に来るとクラスメイトが俺の事を見ている。そりゃ、なんか変だよな。学校に赤ちゃん連れてくるの。

「奏君」保健室の先生が俺を呼びとめる。

「あ、先生。あ、コレ粉ミルクと哺乳瓶とオムツとお尻拭きです。じゃあ、授業の間、お願いします」

「わかったわ」

 先生に二人を預けて少し、肩の荷が下りた。

「あ、奏くんだー。おはよー」

 軽く会釈をして通り過ぎた。数名の女子が話しかけてくる。ただ、そういう女子は苦手。ちゃらちゃらしてて、何にも考えてないし、女子のくせに変態の奴だっている。それに、俺だって好きな人くらいはいる。

 サラサラのストレートヘアーでこれぞ大和撫子、って感じの子で眼鏡をかけてる。優しくて、何でも一生懸命な子。

 実は同じクラスっだったりする。

「おはよう。野嶋さん」

「あ、おはようございます。奏さん」

 少し照れながら挨拶を交わす。照れたのか少し、顔を俯かせる野嶋さん。

「おはよー、奏っ!」

「朝からテンションたけーよ、雨衣」

 雨衣は俺の幼染みのひとり。こいつにはれっきとした彼氏がいる。後ろにいる少しチャラそうに見える渉だ。実際チャらくなんてない。真面目な性格をしている、いい奴だ。


 午前の授業が終わり昼休みの時間。生徒それぞれがおもいおもいの過ごし方をする。

 俺は保健室へと猛ダッシュした。

「先生、居る―?」

 そこにいたのは先生ではなく野嶋さん。

「あ、奏さん。この子たち奏さんの姉弟なんですね。先生から聞きました。でも、先生今トイレに行ってます」

「そっか。じゃあ、とりあえず昼食わないとな。時間無くなるし」

 鞄から二つ弁当を取り出し、一つは奏那に渡す。

「いただきます」俺ら三人は手を合わせ食べ始めた。

 今日の弁当の中身はいつもと変わらない。前日に詰め冷やしておいたものを朝温めたものだ。

「二人とも、可愛いですね」

「そう、だね。あ、野嶋さんは兄妹とかいる?」

「あ、はい。2歳の女の子と6歳の男の子です」

 話しながら、でも食べる手は止まらない。しばらくするとほぼ同じ速さで食べ終えてしまった。

 ごちそうさま。と手を合わせる。

「あの、私……奏さんの家に行ってみたいです。いきなり言って変でしたか?やっぱり迷惑ですよね……?」

 食べ終えた後野嶋さんが、少し頬を赤らめながら言った。

 野嶋さんが勇気を出して来たいって言ったんだ。俺だって思い切って家に招待したい。そう思った。

「いいよ。来ても。けど、何も面白いものないし。それでいいのか?」

 野嶋さんは軽く頷く。その時だった。急に雨が降り始めた。窓にぽつぽつと雨滴が落ち始めた。

「雨衣、来たか」

「え? 何で分かるんですか!?」

「幼なじみだかんな。あいつが来る場所には一分前に小雨が降るんだよ。よく分かんないけどさ、昔からなんだよ。あ…あいつには渉っていう彼氏がいるらしいぜ」

「あ…そうなんですか。よかった」

 少しずつ、気まずい雰囲気になっていく。そしてこの静けさを破ったのは雨衣が来たときに開け放った保健室のドアだ。

「おっすー。奏と…あ、野嶋さん? あたし邪魔したか? 」

「いや、3人で話さないか? 皆で話した方が楽しいだろ…な? 」

 雨衣は、ちゃんと何かを察知してくれたようだ。微笑み、椅子に座った。

少しホッとした気がしたのは気のせいか?

「奏さん、本当に私が家に行ってもよろしいのでしょうか」

「いいって」

「なぁ、邪魔じゃなかったらあたしも行っていいか?」

「お前なぁ…。野嶋さんのことも考えてないのかよ」

「あの……。私は、皆さんと仲良くなれればいいだけですので。私は嬉しいです」

「そう……か。じゃ、今日の帰り門の前で待ってろよな。あっ!あいつのことすっかり忘れてた」

「友貴、居たね。野嶋さんは友貴居ても大丈夫だよね?」

「はい。大丈夫ですよ。楽しみです」

 野嶋さんは楽しそうに雨衣と話している。

 俺は……雨衣に来てほしかったのか?

 それとも二人きりになりたかったのか? 

 また、保健室のドアに入って来る奴がいる。そいつはいつものように楽しそうな顔をして入ってきた。

「あっれー? 二人だけずるいよー。僕も野嶋さんとお話したいっ。僕も入れて―」

「大丈夫、いまさっきお前の事思い出したから。忘れてはいない……はず。じゃあ、今日の帰りにみんなで俺んち来いよ。あ、友貴もだぞ。もちろんな」

「だよね。忘れられてるかと思った。やっぱり奏が僕の存在忘れるはず無いもんね」 

 友貴の最後の一言は気付かないふりをしておこう。

 休み時間が終わる。廊下から生徒たちの足早に歩く音が聞こえた。

「じゃ、教室戻るか」


 そして、放課後。

 下校を促すチャイムが鳴る。

 帰宅部の奴らが一斉に校門から出ていく。俺らもその一部だ。

「野嶋さん、奏の家はほんとに何もないからね。それでいいの?」

「私は構いませんよ。皆さんともっとお話が出来て仲良くなるには変わりないですから」

 野嶋さんは一瞬、手を繋いでいる奏那に目線を移し、微笑んだ。

 俺の腕の中ですやすや眠る奏斗。隣で楽しそうにしている友貴。野嶋さんと何やら女子トークで盛り上がる雨衣。そして雨衣の話に耳を傾けながら談笑している野嶋さん。そして俺の手を小さな手でぎゅうっと握る奏那。

 俺はこの瞬間がとてつもなく楽しい。

 この時間がずっと続けばいいと、思った。けど、俺の楽しい日々は続かなかった。

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