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File10:生命なきモノ

「国が成り立つ条件は、領土、国民、そして……主権」


 ぶつぶつと、シィが呟きながら端末へ向かっている。昨日バードマンのところから戻ってからずっとこんな感じだ。色々と刺激を受けたらしいのでその点は良かったのだが、何か思い詰めていないか心配になるソフィアである。


「シィちゃんどしたの? なんか悪いものでも食べた?」


「先輩。いえ……大丈夫です。ちょっと、先輩の夢を叶えるために具体的に動かないとな、と」


「ははぁ、それで国。まぁ確かに、共に暮らすのなら共通のルールが必要だから、国を造るってことになるか。……でも、そのルールって私たちが決める権利、あるのかな? 共通言語は今各種族の皆さんの好意で覚えてくれてるけど、例えば暮らしていくためのルールなんて、自分達で決めたいもんじゃない? ――普通なら、戦争に勝った国がルールを作るんだろうけどさ」


 例えば今は種族ごとの小国がたくさんあるような状態である。過去の歴史を鑑みると、その中で戦争に勝った一国が統一をしてルールを敷いていくのがセオリーなんだろう。だが、今はソフィアたちのような特殊な存在がルールを決めていこうとしている。――それは、果たして正しいのか。


「……考えてもいませんでした。私たちには過去の積み重ねによるデータがあるから、()()()()()()()()()()()()()と思い込んでいましたが、確かに……」


「そもそも今回って、そもそも過去の歴史を踏襲するのが正しいかも難しいんだよね。――旧人類は、思想や民族の違いはあれど、大きく見れば同一の種だから、混じり合うことができたから、最終的に共同体となれたんだけど……今回はさ、みんなそれぞれ生活様式から特性、そもそもの大きさまで全部違うし、基本的には一生交わらないわけだ」


 要するに旧人類史は、アリの巣を合体させるようなもので、女王が受け入れられれば共同体、一つのコロニーとして成り立つことになる。だが、この新世界においてはアリと、ハチと、バッタと、蝶とカブトムシを同時に飼育するようなもので、そもそも同じケースで飼うこと自体が間違っているのでは、とさえ思う。


「なるほど……過去のやり方を踏襲していても、うまくはいかなそうですね……そもそも共通の法律なんて決められないか」


「まぁ、ガチガチに縛るのは無理だろうね。生物的にできるできないもあるだろうから。――でも、だからこそ、私達みたいな、《《生命じゃない存在》》が決めるのは、間違っていないのかもしれない。誰が決めてもうまくいかないなら、みんなの意見をまとめてできることを考えたらいい。過去の人類史の知見も、完全には無理でも一部は活用できると思うし」


 過去、人がAIに頼った場面は数多くあった。事例としては似ているだろう。


「でも、皆さんそれに納得してもらえますかね……?」


 シィは眉根を寄せている。かわいらしい表情だが、口には出さず変わりに指を一本立てた。


「そこはほら、みんなさ、言うて動物だから。どんな種族にも分かりやすい、納得いく方法で示してあげればいいでしょ」


「それは――?」


「――さっき言ってた通り、戦争。強いものが弱いものを従えるなんて、あらゆる生き物の常識だ」


「……各種族を、武力で叩き潰す、と?」


 正直、そうする必要があるかは悩ましいところだ。国など作らず、そのまま各種族に任せておくのがおそらく世界の在り方としては正しい。でも、そうなった場合強い種族だけが残り、弱い種族は絶滅する。それは過去の歴史を見れば明らかだ。――私は、それを認めたくない。だから、介入することを選択する。


「まぁ、さすがに私たちが本気でそんなことしたら、知的生命体いなくなっちゃうからさ。ルール決めて、その中でやればいい。まぁでもね。やっぱりオリンピックは、戦争の代わりにはならんからさ、本気の殴り合いして、強さを示すのが、手っ取り早いかな。怪我しないように、状況を整えたうえでさ」


 それこそ、ソフィアが今までやってきたアクティビティの活用も考えはしたが、やはり娯楽と戦いは別物だろう。――少なくとも、現状の文化レベルでは。ボーリングチャンピオンお前らの王様ですって言っても納得はされない。


「なるほど。じゃあ、やりますか。パーティの場で?」


「各種族、無線配ってるし、通達しよ。『最強決定戦』やりましょう、ってね」


 色々過去の物語を読んでいると、武道大会は定番だし、催しとしても盛り上がるだろう。


「そこで私たちの武力を示すんですね。でも、正直今見えているメンツ、私たちを除くと、サイズ的にもドラゴン一強では?」


 見上げるほどの大きさで、翼を持ち飛行するうえブレスも吐けて、頭も良い。確かに、生物としての強度が異なる。


「そうだね。でも、ドラゴンと私たちが戦うだけになっちゃうと、面白くない。だから――」


 ちょうど、研究所の中にアラームが鳴り響く。『知的生命体発見』と。


「あんまり時間はないけどさ、強い種族、探しに行こうか。――ドラゴンに、匹敵するくらいの、ね」


◇◆◇◆◇◆


「――さすがに、暑いですね……」


 ソフィアとシィはとある山岳地帯にある洞窟に来ていた。この山は活火山であり、中心地にはマグマが存在してる。結果として、洞窟内の温度は非常に高く、空気も乾いていて生物が暮らすことは非常に困難だ。


「うん。まぁ普通の生き物は生存難しいだろうね……たまに、こういう場所に適応しちゃう強者もいるけど、知的生命ってなると結構ハードルは上がりそう」


「そもそも、生き物の気配もあまり感じられません。……本当に、ここから反応が?」


「うーん。多少特殊な反応ではあったんだよね、なんかこう、知的ではあれど生命ではない、みたいな……」


「なんですかそれ……あ、下にマグマが見えますね」


 シィが指示した方向に巨大な穴が開いており、下には赤く輝くマグマが広がっていた。温度も急激に高くなっている。


「うわ、ほんとだ。さすがにこんなとこに生き物はいないよね……センサーの故障かな」


 ソフィアがマグマを眺めながらため息をつくと。


『――何をお探しかな? お嬢様方』


 肉声ではない。ドラゴンが使っていた意思をそのまま伝える手法だ。


『誰!?』


 気配は全く感じなかった。それはつまり、ソフィアとシィのセンサーにも全く反応がなかったことを示している。慌てて振り向いた二人の前にいたのは……真っ赤に光輝く、日本の角が生えた筋骨隆々の男性だった。上半身は裸である。


「ギャー!!!!! 暑苦しい変態!」


 思わずソフィアは声を上げた。いや、だってでっかいんだもの。二メートル以上は余裕である。なんか燃えてるし。


『変態とは失礼な。私は炎の精霊である』


 精霊……? ソフィアは混乱する。今までも理屈に合わない存在とは多数邂逅した。ドラゴンが良い例だ。アレは普通の進化を辿っても絶対にたどり着かない。だが、心臓は動き、骨があり、筋肉を使って動いている、生き物なのだ。しかし、目の前の変態は……。


「せ、精霊……? ってなんですか。り、理解不能です……。なんか、見えるのに、そこに存在してない、ですよね……? お化け? お化けなんですか? 手で十字架作れば、消えます?」


 シィはお化けが怖いらしい。……まぁ確かに、なまじセンサーがある分、見えるのに検知できない存在というのは、機械人形にとっては恐ろしい存在なのだろう。ソフィアは様々な物語に触れてきたせいで、妙な耐性があるが。


「大丈夫だよシィちゃん。目で見たものを信じて。ただの半裸の赤光りするおっさんだよ」


「それ……なにも大丈夫ではないですよね。センサーに映らない半裸のおっさんちょっと怖すぎるんですけど……と、とりあえず手で十字架を……」


「なんだろう。怪獣には効きそうだね。ビームとか出て」


 大昔の映像記録で見たが、アノ巨人の必殺技は、やっぱり悪魔祓い的な意味を込めて十字架を作っていたのだろうか。


『まぁ待て、落ち着け。精霊は別に死者の魂などではない。私は、炎という現象が人の形を取っている存在。生物の機能は有していないが、身体を構築する『魔力』によって、疑似的な生物の機構を手に入れている』


『何そのでたらめな存在……というか、『魔力』? なるほど……ドラゴンとか、一部種族がそういうニュアンスのことを話していたけど、やっぱり存在するのか……』


『ほう。『魔力』を認識しているのか。……ん? よく見ると貴様らも普通の生命ではないな。私と同じ、生物を再現した存在だろう』


『うわ、観察眼もめちゃくちゃ優れてる。少なくともドラゴン並みの知性と……たぶん、力も持ってそうだな……しかたない、見た目がだいぶヤだけど、腰を据えて話しますか……』


『ええ!? やっぱり話さなきゃダメですか? まぁそうですよね……というか先輩『魔力』って知ってたんですね』


『まだ実験段階だから、結果が出たらちゃんとまとめて伝えようとは思ってたんだけど……とりあえず観測はできてる。今どういう存在か、色々調査中……だけど、この燃えおっさんに話を聞いたら色々研究進みそうだね……』


『ちょっと呼び名ひどすぎんか。一応アレだ、イフリートとか、名乗ってるぞ。私』


『じゃあイフリート。詳しいことは色々これから聞くとして――とりあえず私たちの『最強決定戦』参加する気はない?』


 ソフィアの言葉に、イフリートは少し目を丸くした後、ニヤリと笑みを浮かべた。


◇◆◇◆◇◆


 レポートFile10:精霊(炎)


 知能はかなり高いが、厳密には生命体ではない。精霊という、現象が具現化した存在。他にも水や風や大地など、様々なものに宿っているらしい。身体のほとんどが『魔力』でできており、疑似的に生命を模した存在。そのため、食事や睡眠、排泄といった生理現象は存在せず、形も自由自在である。


 『魔力』というのは旧世界で一般的には認知されていなかった粒子であり、この新世界においては空気中に多く含まれているらしい。詳細は現在調査中となる。


 彼らは『魔力』によって形作られた存在であるが、その密度によって姿が異なる。イフリートは精霊の中でも『中級』の存在らしく、人を模した形を取り意思の疎通も可能だが『低級』の精霊たちは基本的には知覚も困難らしい。その中で魔力を身体に蓄え、成長し続けたものは生物的な形を取り、認識されるようになっていくとのこと。


 一般的な生命と仕組みは大きく異なり今後研究が必要ではあるが、彼ら曰く、ソフィアたち機械人形とは割と近い存在であるのでは、ということだ。……確かに、生物を模した、別の物質から作られた存在である、という点においては似ているのかもしれない。


 推しポイント:『魔力』を渡すとその分働いてくれるらしい。ゴミ燃したりとか。


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