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白い結婚を宣言した夫、妻の仕事だけは白くしなかった

掲載日:2026/05/03


「白い結婚にする」


結婚初夜。


夫は、そう言いました。


隣には、夫の幼馴染の女がいました。


「お前とは、家のために結婚しただけだ」


夫は当然のように言いました。


「俺が愛しているのは、彼女だ」


幼馴染の女は、夫の腕にすがりました。


「ごめんなさい。でも、私たち、本当に愛し合っているの」


わたくしは、うなずきました。


「そうですか」


夫は、ほっとした顔をしました。


「分かってくれるか」


「はい」


わたくしは笑いました。


「では、離縁しましょう」


夫の顔が止まりました。


「なぜそうなる」


「白い結婚なのでしょう?」


「そうだ。だが、お前には屋敷に残ってもらう」


「何のために?」


「仕事だ」


夫は、少しも迷いませんでした。


「屋敷の管理。領地の帳簿。王妃様への返答。夜会の席順。そういうものは、今まで通りお前がやれ」


なるほど。


妻ではない。


けれど仕事は続けろ。


そういうことのようです。


「つまり、わたくしは妻ではなくなる。でも、便利な係としては残れ、ということですね」


夫は黙りました。


幼馴染の女が、眉をひそめました。


「そんな言い方、ひどいわ。お仕事くらい、私にもできます」


「そうですか」


わたくしは腰の鍵束を外しました。


机に置きます。


じゃらり、と音がしました。


「では、お返しします」


「何をしている」


「屋敷の鍵です」


次に、帳簿を置きました。


「領地の帳簿です」


次に、封筒を置きました。


「王妃様への返答です。明日の朝までです」


次に、名簿を置きました。


「夜会の席順です。間違えると、侯爵家が三家、敵に回ります」


最後に、小さな銀の印を置きました。


「王妃様から預かっていた印です」


夫の顔が青くなりました。


「待て。それはお前が持っていろ」


「なぜですか」


「俺には分からない」


「では、正妻になさる方に」


わたくしは、幼馴染の女を見ました。


彼女は目をそらしました。


夫が机を叩きました。


「意地を張るな」


「張っていません」


「感情的になるな」


「なっていません」


わたくしは、指輪を外しました。


机の上に置きます。


「感情で動いていたのは、昨日までです」


夫が眉を寄せました。


「何?」


「あなたに愛されたいと思っていました」


部屋が静かになりました。


「でも、もうやめます」


「待て」


「待ちません」


「命令だ」


わたくしは、夫を見ました。


「もう、あなたの妻ではありません」


翌朝。


わたくしは離縁届を出し、屋敷を出ました。


昼。


王宮から使者が来たそうです。


「王妃様への返答が届いておりません」


夫は言いました。


「妻に聞け」


使者は答えました。


「奥様は、もう屋敷を出られました」


夫は固まったそうです。


夕方。


また使者が来ました。


「明日の夜会の席順が届いておりません」


夫は言いました。


「妻に聞け」


「ですから、奥様はもう」


夜。


三人目の使者が来ました。


「王妃様がお怒りです」


夫は叫びました。


「なぜだ!」


使者は冷たい目で見たそうです。


「結婚初夜に白い結婚を宣言し、愛妾を同席させたとか」


幼馴染の女は泣いたそうです。


「ひどいわ。私は愛されているだけなのに」


翌朝。


王宮の掲示板に、紙が貼られました。


【悲報】


白い結婚を宣言した夫、

妻の仕事だけは白くしなかった件。


貴族たちは笑いました。


「奥様が全部やっていたのか」


「夫は署名しかしていなかったらしい」


「愛妾を置く前に、仕事を覚えなさい」


「奥様、逃げて正解」


その日の夜。


夫から手紙が来ました。


戻れ。


わたくしは返事をしませんでした。


次の日。


また手紙が来ました。


頼む。

一度だけ話したい。


わたくしは返事をしませんでした。


三日目。


また手紙が来ました。


悪かった。

君が必要だ。


そこで初めて、わたくしは返事を書きました。


必要だったのは、妻ではなく便利な係でしょう。


その係は、もう辞めました。


手紙を閉じたあと。


王妃様が、わたくしのもとへ来ました。


「あなたを探していたの」


わたくしは驚きました。


「王妃様」


王妃様は、やさしく笑いました。


「あなたが十年、あの家と王宮を支えていたことは分かっています」


わたくしは、何も言えませんでした。


「今度は、夫の名前ではなく、あなたの名前で働きなさい」


胸の奥が、少しだけ熱くなりました。


わたくしは、うなずきました。


「ひとつだけ、お願いがございます」


「何かしら」


「誰かの妻としてではなく、わたくしとして扱ってください」


王妃様は、すぐに答えました。


「もちろんよ」


わたくしは新しい鍵を受け取りました。


王妃様の執務室の鍵でした。


前の鍵より、ずっと軽い鍵でした。


夕方。


夫が門の前まで来たそうです。


「会わせろ!」


けれど、わたくしは会いませんでした。


門番が伝えてくれました。


「奥様は、もうお戻りになりません」


夫は何かを叫んでいたそうです。


でも、わたくしは聞きませんでした。


もう関係ありません。


もう仕事ではありません。


もう妻ではありません。


だから、戻りません。

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― 新着の感想 ―
あ、私も『かいらぎ』さんと同じで結婚初夜で離婚なのに家の仕事を10年とはどういう事なのか気になってしまいました。 また、離婚した後は夫ではなく元夫ですよね。 なんか未練があるように感じてしまいました。
結婚初夜で離婚して、家の仕事を10年していたとはどういう事でしょう?
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