資格マニア。異世界の森で、歩く水たまりになる
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死んだら無。
私は公認心理師、遺品整理士の資格を習得した時の事を思い出しながら、無に……無に行くはずだった。と思い返していた……。
……けれど。
そうはならなかった。
「……さすがの私でも、『スライムとして生き残るための資格』は持ってないわよ……ッ!」
────
視界が、異様に低い。
というか、そもそも「視界」という概念自体が怪しい。全方位がなんとなく見えるような、それでいてピントが合わないような、不思議な感覚。
ポヨン! ポヨン!
少し動くだけで、体から常に妙な水音、いや、ゼリー音が聞こえてくる。
私は今、鬱蒼とした森の中にいた。
見上げるような巨木が立ち並び、空を覆い隠している。足元……いや、私自身の「下」にあるのは湿った土と苔だ。
おかしい。私は確かに死んだはず。
私は混乱を鎮めるため、深呼吸をしようとした。
――が、肺がない。
代わりに、全身が「ぷるん」と大きく震えた。
えっ、何。今の新しい音。
私は必死に体を動かそうとした。手足を動かす感覚で、よじよじと、あるいはズリズリと這い進む。腕がちょこんと伸びた気がした。 しかし短すぎて頼りにならない。
私の目の前を、名もなき蛙が追い抜いていった。待って! いや遅い! なにこの体!!
幸いなことに、近くに小さな池が見えてきた。ズリズリと方向転換し、私は決死の覚悟で体を引きずり、池へ向かう。
なんか黄色く光る物体が飛んでいるような……。蛍? いえ、妖精さんみたい。
襲ってきたりしないわよね……。
なんとか池の水面近くまで着き、その水面に映る自分を覗き込む。
「………………歩く水たまり?」
いや、違う。
そこにいたのは、透き通るような真っ白な、プルプルした不定形の物体だった。
サイズは、学生時代やった覚えのあるバスケ故に、バスケットボールより一回り大きいくらいだろうか。
こ、これが、いまの私!?
どこからどう見ても、島国ファンタジーにおける最弱モンスターの代名詞、スライムである。
だ、大丈夫。本来は……そこそこのモンスターだから。
自己暗示も虚しく、絶望が押し寄せた。
「世界遺産検定」で覚えた知識も、「小型船舶操縦士」の免許も、この体では何の役にも立たない。この森で不動産売買をする予定もないし、重機を運転する指スラない。
せめて、せめて「スライム検定」があれば……!
いや、あっても多分「塩分に注意」くらいのことしか書いてないだろうけど!
「ぐうぅぅ……」
あら、お腹が鳴った? ……気がした。
肺どころか、内臓スラないのに、空腹感は、どうもあるらしい。この体の燃費はどうなっているのか。資格マニアゆえに興味が湧いてくる。
一先ず私は、生き延びるために、食べ物を探すことにした。
落ち着いて見渡せば、この森には奇妙な植物が溢れている。
特に目立つのは、あちこちに群生しているキノコ。それも、ぼんやりと青白く光っている。こっちは黄色く……、あっちは……。
「きのこ検定」の知識が脳内を駆け巡る。
――えーと、発光するキノコ、発光するキノコ……。ヤコウタケにシイノトモシビタケ。
ツキヨタケは毒だったかしら。いえ、これは地球の知識。ここは異世界。
この際、毒かどうかなんて言っていられない。もう限界。餓死するか、毒死するか。二択なら、食べてから後悔する方が、資格マニアとしての探究心を満たせるというもの。
「……いただきまーすっ!」
私は意を決して、一番近くにあった大きな発光キノコにのしかかった。
包み込むように、体内に取り込む。
……あっ。
味覚は、ある。
あら!? 意外と美味し…………。
「………………まずぅ゛ーーーーーーーーーーー!!!!」
衝撃が走った。
苦いとか渋いとか、そんなレベルじゃない。
例えるなら、腐ったゴムに、十円玉の錆を擦り付けたような、強烈な化学反応的悪臭。
それが体中の粘膜(全部粘膜みたいなもんだけど)を刺激する。
「おえっ、あ、うぐぅぅぅぅ!」
は、吐き出し方が分からない……。
い、意識が遠のく……。
体の芯から力が抜け、保っていた「ボール状」の形態が崩れていく。
そして私はドロリと地面に広がり、ただの白い水たまりと化した。
ああ……。
終わった。
私の人生……いや、スライム生、開始五分で終了。森を歩いて、キノコ食べただけ。
「葬祭ディレクター」の資格も持っているけど、自分の葬儀を自分で行うスキルは、さすがに身につけていなかったわ…………南無。




