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プルプルスライム魔獣に転生した私は、イケメン王子にプニプニ可愛がられるだけのスローライフが待っていました。  作者: 逆立ちハムスター


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人生、何が役に立つかわからない。

 それが私の座右の銘だった。

 

 私は、自他共に認める資格マニアだ。しかし、だからと言って、なんということもない。ただ楽しいからやってきただけである。

友人達は普通に、旅行やファッションに時間を費やしている。


私は「秘書検定」「宅地建物取引士」といった実用的なものから、「夜景鑑賞士」「定食検定」「飾り切り技能検定」、果ては「ひよこ鑑定士」に至るまで、履歴書の特技欄が別紙参照になるほど、ありとあらゆる資格を取得してきた。ギネス取れるんじゃないかと思うほどに。


 いつか何かの役に立つ。その「いつか」のために、私は勉強と受験料に人生を捧げてきたのだ。


そんな私が最後に手を出したのが、絶滅危惧種の「自動車運転免許」だ。


「わざわざ課金して、税金の支払い増やすなんて。物好きね」なんて。

友人にも家族にも散々言われた。今の時代、移動は自動運転の公共ポッドで十分だ。わざわざ自分でハンドルを握るなんて、化石燃料時代の酔狂でしかない。


でも、今日は違う。

潰れかけの教習所の箱庭を卒業し、初めて公道へ漕ぎ出した記念すべき日。


「……あ、またウィンカー出しっぱなし」


カチカチと虚しく響く音を消しながら、私は苦笑いした。視界良好、エンジン音は心地よい。自分で操作しているという万能感が、脳をじわじわと麻痺させていく。

いいじゃない、少しくらい不格好でも。誰かを轢くよりは、ウィンカーの消し忘れなんて可愛いものだ。


そう、誰かを傷つけなければ、私は幸せな「物好き」でいられたはずだった。


――異変は、前を走るセダンのテールランプが不自然に沈んだ瞬間に起きた。


「えっ?」


アスファルトが、生き物のように口を開けた。

私の視界からも、見慣れた道路が消える。ガクンと車体が前のめりに傾き、フロントガラス越しに、先行車が何台も暗い穴の底へ吸い込まれていくのが見えた。


心臓が跳ねる。思考が真っ白に弾ける。

「嘘、嘘嘘嘘!」

そう、まさか自分の見慣れた道路が映画のように消滅していくとは、夢にも思わなかった。


ブレーキ。ブレーキを踏まなきゃ。

パニックに突き動かされた私の右足は、あろうことか、一番踏んではいけない場所を全力で踏み抜いた。


――ブォォォォォン!!


猛烈なエンジン音が鼓膜を突き刺す。

車体は制動を失い、加速しながら、奈落の底へ落ちる寸前の前の車に向かって――弾丸のように突っ込んでいった。調子に乗ってサポート運転をオフにしていた。


心臓が口から飛び出しそうだった。人生初めての公道で、エアバックを食らった。


フロントガラスの先には、アスファルトの断面と、底の見えない暗黒が広がっている。前の車を追撃し、自分の車が落ちる寸前、私の右足は奇跡的に、狂ったようにブレーキを踏み抜いていた。


「はっ、はぁ……っ、死ぬかと思った……」


ハンドルを握る手が、自分でも引くぐらいガタガタと震えている。

前の車達は落ちてしまった。助けを呼ばなきゃ、でもまずは車を下げないと私も危ない。

冷や汗で滑るレバーを「R」に入れ、バックモニターに目を移した。


そこに映っていたのは、自分と同じ、これでもかと貼り付けられた「初心者マーク」の群れだった。


後続車もパニックになっていたのだろう。

あるいは、私と同じようにアクセルとブレーキを履き違えたのかもしれない。

モニター越しに、猛スピードで迫りくる軽自動車のフロントグリルが巨大化していく。


「あっ、ちょ、待っ――!!」


言葉は、衝撃にかき消された。

ガシャアァッ! という無機質な破壊音とともに、私の車体はふわりと浮き上がる。

せっかく踏みとどまった縁から、ゴミのように弾き飛ばされた。


バックモニターに最後に映ったのは、ぶつけてきた車の運転席で、顔を真っ青にしてハンドルにしがみつく「かつての自分(数秒前)」のような初心者の姿。


……嘘でしょ、私の三十万、返してよ……。


宙に浮いた車内で、更新したての免許証がひらりと舞った。そして、首が猛烈に痛い。

誰かを轢くことはなかったけれど。

よりによって自分と同じ「マニア」な初心者に突き落とされて終わるなんて、笑えない。


重力に引かれ、真っ逆さまに落ちていく感覚の中で、私は自分の運のなさを呪うことすら諦めた。

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