第9章 それぞれの想い ③ アフカの停戦
マシン人間のおじさんが エリック・マグナ―の心を動かしたようです。
「・・・ご協力に感謝する。本当に、ありがとう。
あなたやあなたの民族としての決断がなければ、このような結果にはいたらなかったろう」
ベッドに横たわったまま、エリック・マグナーは訪問者を見つめ、労をねぎらった。
エリック・マグナーを表敬訪問したのは、アフカ・エリアでは数こそは少ないが、兵器や富を蓄えたリア族の王族オット・ジルダだった。
きらびやかな民族衣装に包まれたジルダは、リア族の中では、穏健派で知られている。
しかし、リア族出身の首相カウナ・マハールは、あの大流星群が去ったあと、人口が急激に増加した民族をヌーに例え、それが食糧危機の根本の原因と主張した。
それを理由に、一部の民族に対して武力行使を始めたが、その中にはパールの所属するアマニ族も含まれていた。
武力行使は日に日に激しさを増してゆき、大人も子供も無作為に攻撃され、被害を受けた民族はその攻撃を止めるための戦いを選択せざるを得なかった。
マハールのあまりの強硬姿勢に、戦争が長引いてしまったが、リア民族も強制的に徴兵された兵士が次々に命を落とし、マハールを支持する人は、徐々に減って行った。
そこに、ようやくエリック・マグナーから防衛軍を通じて、停戦に後押しをするよう働きがあったのだ。
「この時期だから、できたことかもしれませんが、我々王族にとってもこの決断が、最良のものだと信じています。
本音を言えば、こんなに長引くとは思わず、マハールが戦争を起こすのを許してしまいました。王族からどう説得しても、一度始まった戦争を簡単に止めることはできません。
きっと、あなたが止めてくださらなかったら、お互いいがみ合ったまま、どちらかの民族が絶滅するまで、聖戦を貫こうとしていたことでしょう」
「それでも、防衛軍を戦争に介入させることで、あなた達の民族としてのプライドを傷つけてしまった。
このことに関しては、深くお詫びする。
本当に、すまなかった」
「いや、誰かが悪役にならねば、争いと言うものは解決しません。
マハールは、強硬に過ぎました。
彼が最後まで自分の主張を貫きながらも、首相の座から身を引いたのは、
あなたというあこがれの存在 があったからです。
あなたが11年前、軍の最高指揮官として、武器や兵を送ってくださらなかったら、
アフカ・エリアは、あの大流星群と暴動の被害で、きっと壊滅に近い結果となったはず。
我々は、あの時、命を助けていただいたのです。
今回のことは、そう、まだ十分納得していない連中も多いかと思いますが、
停戦にすることで、あなたへの恩返しがしたかった」
「恩返しか・・・。
私も、たくさんの亡くなった兵士に、何か恩返しをしなくてはならないのだが・・・。
しかし、妙な男に会ってね。
アフカの人間でもないのに、犠牲になるアフカの子供を助けてくれと、
危険を承知でここまでやってきて、懇願したのだ・・・」
「・・・おっしゃるとおり、子供は宝物です。
何も子供が憎くて、戦争をしてきたわけではないのですから。
ただ、我々には、他のエリアにはわからない縄張り意識があります。
我々の民族は、百獣の王ライオンとして、エリアを治めていたのです。
ヌーのような、数だけ増やして、権力を握ろうとする民族をだまって見過ごすわけには・・・」
「やはり、あなたもそう思っているのだね・・・。
停戦しても状況が変わらなければ、平和は長く続かないのか・・・」
「そのようですね」
「わかった。苦しい決断をしてくれた上、ここまで面会に来てくれたことに感謝する。
今後は、なるべく軍の指導に従って、エリア全体の建て直しに協力して欲しい」
「こちらも、首相が逮捕され、裁判も控えておりますし、
新しい首相を決めるのに苦慮しておりますが・・・。
何より周りのエリアからの制裁が解かれ、停戦を迎えられることを感謝しています。
今後も、すぐには戦争を起こさないように、穏健派の人間を首相として擁立し、
軍に協力することをお誓いします」
「そうだな・・・。
マハールの処分については、軍を通じてユニオンの新しい上層部に私の意向を伝えている。
私も、大流星群の飛来後に、突然現れたユニオンの急進派によって罪を問われ、
遠い星に流されてしまった・・・。
だが、新しいユニオンの総長は、私が受けたあまりに厳しい罰則を短縮し、
解放するために助力してくれた。
ユニオンの上層部が変わるたび、敵対するエリア出身の者は、圧力をかけられ、
事あるごとに厳しい処分を受けることになる。
次の首相になる人物にも、マハールの二の舞にならぬよう伝えてほしい。
私も、もう長くはない・・・。
これ以上、私の力で守ってやることはできない。
できるだけ早く、アフカ・エリアから、
ユニオンの最上層部に昇格する人物が出て欲しいものだ・・・」
「そう、願いたいですね。できれば、わが民族から・・・」
「そうだな。私のような失敗だらけのクソジジイにならんように・・・」
「ご謙遜を。では、失礼いたします」
オット・ジルダ副首相は、民族衣装をなびかせながら、エリック・マグナーに向かってていねいにお辞儀して、風のように去って行った。
残されたマグナーはつぶやいた。
「心配事は、まだまだ消えない・・・。
与えられた命の尊さを知ること・・・。
わしの命が尽きる前に、この女の子に会ってみたいものだ。
アフカの平和のためにも・・・」
マグナーは、パールとだけ書かれたシートを モアで消滅させた。
このことが パールの今後にどう影響するのでしょうか?




