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第9章 それぞれの想い ① さよならは言わない

事故で外海に飛ばされ 病院生活を送っていたキラシャに


もっとつらい 試練が待っていました。

第9章 それぞれの想い ① さよならは言わない


検査の結果、問題のなかったキラシャは、パールより一足先に子供の家へ戻った。キラシャを慕う下級生は、キラシャの顔を見ると、ホッとしたように駆け寄ってくる。


事故がニュースになったことで、冷やかしを言う上級生や同級生もいたが、なるべく笑顔で受け流し、キラシャは仲の良い子と一緒に行動した。


病院でも勉強は毎日続けていたし、毎日のメールで授業の内容も教えてもらっていたが、やはりみんなと同じペースで理解するのは難しい。


授業にずいぶん遅れを取ったキラシャにとっては、毎日が壁の連続だった。まだ体調もしっかりしてないので、激しい運動もさせてもらえない。


友達や部屋の子の慰めだけが、頼りだった。


キラシャは気を取り直して、毎日のように、アフカの戦争に反対するための募金活動を手伝いに通った。


広場で道行く人に声をかけていると、自分のつらさを忘れられたから・・・。



そんなキラシャに追い討ちをかけるように、悲しい出来事が起こった。


パパから、“おしゃべりするゾウ”が天国へ召された、というメールが届いたのだ。


動物園で生まれて、ずっと人気のあった“おしゃべりするゾウ”。


その死を惜しむ人は多く、「お別れの会」で、夜遅くまでライトアップされた動物園を訪れる人は、絶えることはなかった。


“おしゃべりするゾウ”が残してくれた、子供たちとの楽しいおしゃべりを3D動画で紹介するコーナーでは、訪れた大人も子供も、当時の自分とおしゃべりするゾウのふれ合いを思い返して懐かしんでいた。


キラシャもラコスと2人で、“おしゃべりするゾウ”と遊んだ場所をゆっくりと歩いて、思い出話を語り合った。


キラシャが“おしゃべりするゾウ”の像が浮かぶ3D映像の前でしゃがみ込むと、ラコスも一緒にすわってそれをながめた。


「もう、戻って来ないンだね・・・」キラシャがつぶやいた。


「そうだね。“おしゃべりするゾウ”は、きっと天国でキラシャのことを見守ってくれるよ。だから、キラシャも“おしゃべりするゾウ”くらい長く生きなきゃ」


ラコスは、うつむきがちなキラシャを励ました。


「生きられるかなぁ・・・?


パパが子供のころから生きてたンだもン・・・。


あたし、今だってガンバってるンだけどね・・・。


ホント、タイへンなンだ」


「パパだってたいへんなこと、いっぱいあったさ。


子供のころだって。死んだ方がましだって、思うこともあったけどな・・・。


今はキラシャがいるから、死ねないね」


「そっか。良かった。


おじいさんもね。あたしが結婚するまで守ってくれるんだって。


この間、約束してくれたんだ・・・」


「パパの結婚に関しては、おじいさんは何も言わなかったからな。


やっぱり、孫の方がかわいいんだろう。


パパも、ひょっとしたらキラシャより、孫の方がかわいいって言い出すかもね」


「いいモン!


あたし、パパよりステキな人見つけちゃおっ。


ママがうらやましいって思うような人だよ!


あ~あ、何年先になるのかな?


“おしゃべりするゾウ”も喜んでくれるかな・・・?」


キラシャは、そんなことを言いながら、タケルのことが頭に浮かんで、涙がこぼれた。



・・・そして、数日後。キラシャのおじいさんが亡くなった。


この知らせが届いたのは、勉強に身が入らないキラシャを心配した、担任のハリー先生の指示で、病院でのカウンセリングを受けている時だった。


両親からのメールで、励ましのメッセージを受け取ると、おじいさんに会うまで絶対涙をこぼすまいとキラシャは自分に誓った。


必死に歯を食いしばり、キラシャはおじいさんの亡がらを安置した祭儀場へと向かった。先に来ていたラコスとシャーミも、目を赤く腫らしてキラシャを迎えた。


祭壇の中央に眠る、おじいさんの胸に抱きついたキラシャは、今までの張り裂けそうな気持ちを思い切りぶつけた。


「キャップ爺!どうしてだまって逝っちゃったの? 


あたしを守ってくれるって言ったじゃない。


だまって逝っちゃったら、あたしどうしたらいいのか、わかんないよぉ!」


キラシャの泣き叫ぶ声が会場をこだまし、お悔やみに駆けつけた人々の涙を誘った。


おじいさんは、外海の船長を引退した後も、知り合いの船員を海洋牧場で働けるように手助けし、珍しい海洋生物を他のエリアから運び込む仕事の世話を続けていた。


だから、時間が経つにつれて、おじいさんにお世話になったからと、お悔やみに訪れる人が増えていった。


おじいさんに誰よりもかわいがってもらっていたケンは、みんなより一足先に走って来た。


キラシャに声をかけると、おじいさんの穏やかな顔を見つめ、いろんな想い出を話しながら、2人で時を過ごした。


エミリとサリーも、キラシャを心配して駆けつけた。


おじいさんの話を楽しみにしていた冒険好きな子供たちも、スクールで知らせを聞き、葬儀に参列した。


たくさん冒険話をしてくれた、おじいさんへの感謝の気持ちを込めて、ケンが代表して、お別れの言葉を述べた。


『キラシャのことはオレが守るから、これからもキャップ爺、オレ達のこと見守ってくれよ! 』と、ケンは心の中でおじいさんに語り掛けた。


葬儀が終わって、エミリとサリーがキラシャに「だいじょうぶ? 」と声をかけてくると、ようやく吹っ切れたのか、笑顔で「だいじょうぶだよ」とキラシャは答えた。


下級生たちがキラシャに抱きついて、口々に言った。


「キラシャ、元気出して!」


「また罰食って、遊びに来てよ!」


「だって、キラシャじゃないと、つまンないもン!」


キラシャは、またか~という顔をして、下級生達のおねだりに何も言えず、笑顔で答えた。



おじいさんへの最後のお別れの時、亡がらに向かって、キラシャは心の中でそっと祈った。


「キャップ爺。あたしのこと守ってね。爺のこと、信じてるよ。


だからね、・・・さよならは言わない。


あたしがステキな人に出会って、結婚できるまで・・・。


いっぱい、たいへんなことあると思うけど、絶対見守ってね!


天国のおばあちゃんも応援してね! これからも、ヨロシク! 


キャップ爺・・・」



しかし、病院でのカウンセリングの結果、キラシャの再入院が決まった。


今度はパールと同じ病室で生活し、特別授業を受けながら、心療ケアを行うらしい。


そのことをハリー先生から告げられたキラシャは、神妙な顔をしてハイとうなずいた。


『パールと同じ部屋か・・・』


キラシャは、何となく新たな希望を見つけられる気がした。


自分がつらい時ほど 友達の存在が力になるのですね。


皆さんはいかがですか?

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