第8章 生きるために ③ キラシャの悩み
キラシャは、尊敬するおじいさんの所に
外海で出会った モビーのことを話したくて
会いに行くのですが・・・
病院に戻る日。キラシャはおじいさんの所へ寄ってみた。
キラシャは、どうしてもおじいさんにモビーのことを知らせたかったのだ。
でも、おじいさんに会ってもうまく話ができるのか、キラシャは不安な気持ちでいっぱいだった。
ケア・ホームに入ってゆくと、おじいさんは特別ルームに移されていた。
ドアを開けると、カプセルの中で、おじいさんは穏やかに寝ている。
キラシャが、声をかけようとした時、目をつむったままおじいさんの口が動いた。
「キラシャかい。待ってたよ・・・。
わしの耳は、外海を泳ぐ遠くのクジラの声でさえ、聞き分けることができた。
わしの大事なキラシャの足音だって、すぐにわかったよ・・・」
おじいさんはゆっくりと目を開けた。しかし、その視線はうつろだ。
「どうも、目はいけないようだ。キラシャ、もう少しそばへ寄っておくれ・・・」
人一倍元気だったおじいさんの声が弱々しい。
キラシャは急に悲しくなって、おじいさんに抱きついて泣いた。
「キャップ爺・・・。あたし、爺と同じ外海へ行って来たんだよ。
爺が話してくれた白いモビーに会ったんだよ。
でも、パトロール隊のチーフは、モビーを殺してしまうって・・・。
あたし、どうしていいのかわかんないよ。
どうして、知ってることだまってなくちゃいけないの?
どうして、外海の動物を殺さなくちゃダメなの?」
「おいおい、キラシャ。わしにもさっぱりわからんよ。
キラシャはなぜ、外海に行ったのかい?
わしがあれほど危険な所だと言っていたのに・・・それに、モビーは・・・。
・・・そうさなぁ、あのクジラだったら、そうかもしれない。
だがな、キラシャ。
パトロール隊だろうと、何だろうと、モビーを殺そうとする奴は、モビーが死ぬまでいなくなることはないだろう。
モビーには知恵だけでなく、何か海の神様のようなものが宿っている。
簡単にはしとめることはできん。キラシャ、心配はいらんよ」
しかし、キラシャには、もっともっと不安に思うことがあった。
「キャップ爺」
キラシャは困った時も、おじいさんにこう呼びかけた。
「あたし、将来何になりたいのか、わからなくなっちゃった。
・・・今までさ。ずっと海中ドームで働いてさ・・・。
パパとママのように、好きな人と仲良くなって、一緒に暮らせたらいいなって・・・。
でも今はさ。・・・大人になった時、パパとママみたいに好きな人ってできるのかな?
あたしが海洋ドームで働くことだって、本当にやりたいことなのかな?って・・・」
「おいおい、キラシャ。おまえのオバァサンもびっくりするだろうよ。
おまえはいったい、いくつになったんだね」
キラシャは、真っ赤になって答えた。
「そうじゃなくって、あたしはまだ子供だけど・・・。
大人になっても好きな人が見つかりそうにないンだ。
キラシャのこと、好きになってくれる人が、いなくなっちゃったの。
あぁ~、どう言っていいのかわかンないけど~。
何を目標にして、ガンバればいいのか、わからなくなったの。
今が一番、最悪なの。・・・ナントナク、わかってもらえる・・・? 」
おじいさんは、う~んとうなった。
「・・・そうさなぁ。海へ出ることが、わしのすべてじゃったからなぁ~。
おまえのパパは、わしの知らない所で大きく育って・・・。
自分の好きな仕事や結婚相手を見つけ、キラシャ、おまえが生まれた。
バァサンもわしをおいて、あの世に行ってしまった・・・。
もう、わしにはな~んにも、残っておらん・・・」
「そうだ。キャップ爺、聞いて!
あたし、もう一度モビーに会ってみたいんだ。もう一度、海に行ってみたい。
キャップ爺に力になって欲しいの。
モビーは、あたしをどこかにつれて行こうとしたの。
それが知りたい。どうすればいいのか、教えてほしい。
だから、お願いだから、キャップ爺に長生きして欲しいンだ! 」
おじいさんは、力なく答えた。
「キラシャや・・・。このごろ、バァサンの夢ばかり見ているんじゃよ。
わしのわがままで、離れて暮らしてばかりいたが・・・
もうすぐ、会える気がしてなぁ。
わしは、今が一番幸せかもしれない・・・」
「そんなこと、言わないで!」
「・・・そうさなぁ。キラシャの幸せは、わしの幸せでもあったなぁ・・・。
よし。わしが死んだら、おまえのために働こう。
おまえを愛し、守ってくれる相手に会うまで、わしは魂になって、全力で守ってやろう。
バァサンに会って、ゆっくり話をするのは、それからでも遅くはない・・・。
キラシャ・・・。わしは死んでも、おまえの味方じゃ。
それを忘れないでいておくれ」
「キャップ爺・・・」
「もう、お帰り。
爺はしゃべりすぎて、疲れてしまった・・・。
パパとママによろしくな」
おじいさんは、すぐに深い眠りに入っていった。
キラシャは、自分の思うことがうまく言えず
おじいさんに自分の思いが伝わったのかも
わからないままに おじいさんは眠ってしまいます。
これからどうなるのでしょうね?




