第8章 生きるために ① タケルの錯乱
タケルはタケルで 自分のやりたいことがあるのに
それができないというジレンマ・・・
乗り越えてゆけるのでしょうか?
第8章 生きるために ① タケルの錯乱
火星へと向かう宇宙船の中。
マギィがよこしたメールのおかげで、完璧に切れてしまったタケルは、いくら待っても来ないキラシャのメールにイライラし始めた。
タケルは、何のために火星に行くのか、何のためにひとりぼっちでいるのか、繰り返し自分に問いかけた。
『オレは、耳が聞こえないのが怖いのか?
別に耳が聞こえなくても、いいじゃないか。オレはパスボーがやりたいだけなンだ。
でも、耳が聞こえないまま、パスボーはできるか?
いやできるさ!
もっと反射神経をきたえて、人より早くボールをキャッチすればいいンだ!
そうだよ。誰が無理だって言ったって、オレは絶対に夢をあきらめないぞ!
人に嫌われたって、ケンカだってパスボーだって、絶対オレは負けないンだ!!』
それからというもの、タケルはあたりかまわず人にぶつかっては、生意気な口をきき、わざと相手を怒らせては、ケンカをふっかけ始めた。
しかも、殴りかかろうとする相手をあざけるように、タケルは身軽にその攻撃をかわした。
タケルの突然の豹変と、周りからの苦情にあわてふためいたタケルの両親。
逃げ回るタケルを船内中追いかけ回したが、身の軽いタケルはなかなか捕まらない。
大勢の人に協力してもらって、逃げる場所がなくなったタケルがトイレに籠った状態で、睡眠剤のスプレーを部屋に注入し、タケルを眠らせてこの騒動が終結した。
しかし、目覚めたタケルは、トオルがどんなにやさしく話かけても、暴言を繰り返し、あげくに父親にも暴力を振い始めた。
トオルは、精神分野の医療技師に相談し、タケルの治療をお願いしたが、先生の言うことをまったく聞こうとしない。
最終手段として、しばらく睡眠状態にして、カプセルにタケルを閉じ込めることにした。
ジヴァ・エリアでは、ケンカの回数が多くて、ずいぶん手を焼いていたタケルも、火星行きには前向きで、宇宙船でも、最初は実に優等生だった。
それが、正常な大人への成長だと、どうも勘違いしてしまったようだ。
思い起こせば、トオルにも急に耳が聞こえなくなった時があったのだ。
まるで自分だけが別の世界に取り残されたような、不安といらだちに、気が狂いそうになったことがある。
きっと、タケルもさびしくてたまらなかったのだ。
どうして、そんなことに、今まで気づいてやれなかったんだろう。
「タケルは、このまま火星に行くより、地球へ戻った方が良いのかもしれない」
トオルにとっても、これは重い決断だ。
家族みんなで励まし合って、参加を決めた火星行き。
もし、これを断念して、地球へ帰るとなると、また別の費用がかかる。
火星の医療研究員という仕事もやめるとなると、新たに医療技師を雇ってくれる宇宙ステーションを探さなくてはならない。
モアで情報を手探りしながら、今後のことをミリと2人で話し合い始めた。
タケルに起きてしまった 精神的な異常行動。
これを家族で取り組むための 試練が始まります。




