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第7章 与えられた命 ③ オパールおばさん(2)

オパールおばさんのお話は まだまだ続きます・・・

裁判は、母の主張に押されっぱなしで、太刀打ちできなかった。


私には、育ててもらった母に立ち向かう勇気もなかったから、裁判に勝てるような弁護士を選ぶこともできなかった・・・。


とはいえ、まだカレッジの途中だった私には、何の資格もなかったから、罰金をどうやって払えばいいのかもわからなくて、途方にくれていた。



『君が自分の母親から訴えられたことは、実に悲しいことかもしれない。


あなたの生命コードは管理局によって保護されているから、母親に取り消してもらうと言われたことは、水に流して、あなたの人生を生きることが大事だよ。


世の中には自分の母親もわからず、ひとりで悩みを抱えて生きている人がたくさんいる。


行方不明の君のお姉さんも、自分の母親に頼れず、きっとつらい思いをしていると思う。


つらいのは、君だけじゃない。そう思えば、少しは気が楽にならないか?


君がまじめに働いて罰金を払うのなら、そのための自立更生システムを履修して、働ける場所を見つけなさい』


裁判に負けた人への、心療ケアでこんなアドバイスを受けた私は、担当マネージャーから仕事を紹介してもらい、中央管理局の会議場近くのレストランで働いた。


でもね。


みんな楽しそうに食事をしているのを見ながら、毎日働いてばかりなのは、正直つらかったわ。


楽しい催しになんて、ほとんど行けなかったし・・・。


もちろん、罰金を払い終わったら、自分の生活があるから、医療看護師を目指して資格を取る勉強も続けていたのよ。


そんな時、突然ものすごい大地震が起きたの。


しかも、地震の予知はあったはずなのに、予報が流されなかった。



たくさんの人が、ガタガタに揺れるドームの中で、右往左往していた。


救助隊もあちこちの通路がふさがれて、救助を待つ人達のいる場所までたどり着けず、被害は増えるばかり・・・。


私は、ケガで動けない人を病院へ運ぶのに必死だった。


たまたま、病院でドリンクを配っていたリォンという若い男の人と、出会った。


最初は、社員の一人だと思って、気軽にドリンクを分けてくださいと声をかけたら、人なつっこく話しかけてきたの。


あとで、社長の息子ってわかったときは、びっくりしたけど、


『ボクは営業がいいから、誰か代わりに社長してくれる人いないかな』って、苦笑してた。


エリアの管理局に対しても、ドームの安全性とその対策について、信頼が失われていたときでもあったのよ。


明日が、どうなるかわからない。


自分達の生活や未来の地球について、夜通し話し込んだこともあった。


そのとき、私は正直にクローンだと、リォンに話してしまったの。


だって、リォンも正直そうな人だったから、私も普通の人間だって、ウソをつく気になれなかったのよ。


そのとき、リォンは顔色も変えずに、私の事情を理解してくれた。


『ボクは君が何であろうと、君のことステキだと思ってる。


だって、君ほど必死に人を助けようとしている人は、見たことがない』って。


その上、『罰金はボクが立て替えるから、君が望むのなら、ボクが秘書として雇うよ』とまで言ってくれたの。


彼は、私の恩人でもあり、生まれて初めて人を信頼しようと思った、大事な人・・・。


そうね。キラシャは、スクールでドリンクを飲んでいるでしょ?」   


「はい。毎食飲ンでます。


いろんな味のドリンクがあって、好きなものを選べるから迷うこともあるけど、


どれもオイシィです」  


「そう、良かった。リォンのお父さんは、そのドリンクを作る会社の社長だったの。


私がリォンの秘書になったころ、子供の家の食事は、今よりもっと味気なかったわ。


だから、私は『子供が飲むドリンクを、楽しんで飲めるようにしたらどう?』


とリォンに提案したの。


リォンは『グッドアイデアだよ』と言って、その提案を受け入れてくれた。


そのころは、管理局も栄養ばかりにこだわって、それほどたくさんの味はなかったのよ。


それで、休日にいろんなドリンクを配って、反応をみたら、けっこう人気が出てきたの。


そのうち、子供の家でも飲ませてやりたいという保護者の意見もあって、


うちの会社のドリンクが採用されるようになった・・・」


「そうなンだ。あたし、パンプキン・プリン味とアーモンド・キャラメル味が好き。


遊んで汗が出た時は、メロン・クリームソーダだけど・・・」  


おばさんは、うれしそうに微笑んで、キラシャを見つめた。  


「良かった。こんな風に喜んでもらえると、苦労した甲斐があったわ。


安全で、しかも栄養が取れる材料をどこからいくらで仕入れるか。


配合の仕方とか、取引のこととか・・・、とにかく本当にたいへんだった。


でも、力を入れたドリンクが、いろんなエリアで採用されたおかげで、会社の業績がどんどん上がって行ったわ。


そのころが、私にとって一番生きがいのある日々だった。   


そして、社長になったリォンが、私に言ったの。


人生のパートナーとして、2人の子供を作ろうって。  


でも、私は、すぐに返事はできなかった。


・・・だって、子供が大きくなった時、私のようなクローンの子であることに、悩む時期がきっと来る。


彼はそんな私に、クローンであるからこそ、自分の子供が成長することを、普通の人とは違う気持ちで見守ってやれるじゃないか、と言ってくれた。  


リォンは自分から進んで管理局に申請し、お金や時間をかけて、ようやく許可をもらったの。


子供はたった1人だけど、2人の愛の結晶よ。


どんなに仕事で忙しい思いをしても、毎日子供の成長を見るたびにホッとしたの。   


だけど、幸せな生活はそれほど長く続かなかった。  


あの大流星群が突然現れて、混乱からドームの破壊活動も始まった。


せっかく、うちのドリンクが世界で認められると思ったころ、急に材料が手に入らなくなった。


リォンは材料を探しに、あちこちのエリアへ行き、突然、行方不明に・・・。


それ以来、私には何の連絡もないの・・・」


おばさんは遠い目をして涙を浮かべた。


『とても大切な人だったンだね・・・』


キラシャも、遠いタケルのことを想って、胸がキュンとなった。


「・・・ごめんなさいね。


でも、私は今でも信じているの。彼は必ず生きていて、私に会いに戻ってくれるって・・・。


彼を信じたいから、ずっと探さずにいたけれど、会社は彼が帰ってくるまで、絶対つぶすわけには行かない。


おばさんはずっとひとりで責任を負って、いくつもの金融会社と渡り合い、大流星群が去ってからもずっと戦った。


そうね。あれは、大流星群が去って1年くらい後のことだった。


母の後見人を通じて、母が危篤という連絡を受けたの。


もうあの裁判で、親子の縁は切れたと思っていたから、私にも相続の権利があると聞いて、びっくりしたわ。


私にとって、母との思い出はつらいものでしかなかったし、私に財産を残してくれるなんて、思いもしなかった。


不安な気持ちのまま、母の待つ病院へと行ってみた。   


そしたら、母は私を姉と思って、素直に私を受け入れ、『ありがとう、ありがとう』と言って、ルビーの名を呼んだ。


私は文句も言えず、姉になりきって母の最後の世話をしたわ。でも、ありがたいことに、母の後見人は、私が姉の分の相続財産も預かるように話がついていると言った。


もっとも私の名前は、一度も呼ばないまま、母は満足した顔でこの世を去った・・・」   


おばさんの話は続いた。   


「母は女優をしていた時に、いろんな人からのプレゼントをもらっていて、その財産を分けてもらえたおかげで、私は念願だったドリンクの会社を続けられたの。


もちろん、姉のことはずっと探していたのよ。母は、きっと姉の方に、自分の財産を受け取って欲しかったでしょうから。


アフカはドームの建設が進んでないと聞いていたから、別のエリアに行ってしまったのかと、ずいぶんいろんなエリアに調査を依頼したの。


でも、姉の居場所がわからない。


それが突然、病院から、ケガをしたパールを受け入れると連絡があった。


姉が子供に付き添えないので、代わりに妹の私に、保護者になるよう伝えてほしいと言ったとか。


私を妹と思うなら、自分の子供がかわいいのなら、自分も帰ってくればいいじゃないと思った。


母が亡くなるまで、姉に対してどんなつらい思いで過ごしていたのか、伝えたかったし・・・。


だけど、ひどいヤケドを負ったパールを見た時、叔母として、いえ人間として、何かせずにいられなかった。   


そして、やっとこの子の口から、アフカ・エリアで姉がどんな暮らしをして来たのかがわかったの。


何年も離れていた姉の気持ちが、痛いほど伝わって来た」   


おばさんの目に、再び涙が浮かんでいた。  


「アフカの人は、決して戦争など望んでいない・・・。


いつだって、どこの戦争だって、そうなのよ。


戦争の犠牲者は、一番平和を望んでいる人達なの。


キラシャにも、いつかわかってもらえるといいのだけど・・・」


キラシャは、何も言えず、おばさんの話を聞くことしかできなかった。

今でも 戦争の犠牲者は 

一番平和を望んでいる人たちではないかと思います。

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