第7章 与えられた命 ② オパールおばさん(1)
パールの看病を続ける オパールおばさん
彼女も 深い悩みを抱えているみたいです。
エムフィ・エリアでは、年老いて寝たきりになると、延命治療は施されない。
エリアの存続に必要な人材となる可能性がある者に対してのみ、最大限の医療行為が施される。
パールのおばさんの名前は、オパール。いつも車椅子を使っている。
目と口のあたりがパールに似て、やはり女優のようにきれいだ。
オパールおばさんは、キラシャが来ると、いろんなお菓子やドリンクを勧めてくれた。
仲の良い友達とも、進級テストが近づいているせいか、メールする余裕もない。
そんなキラシャにとって、パールの回復を待つのが、一番の楽しみでもあった。
とはいえ、キラシャはじっとしている子ではない。
病院で治療を続ける子供達に声をかけ、おしゃべりや、リハビリの手伝いをするのが日課になっていた。
パールは相変わらず発熱に苦しみ、目が覚めてもカプセルから出られそうにない。
オパールおばさんは、何か胸につまったものを打ち明けるように、キラシャに話し始めた。
「あなたにこんな話をしていいのか、よくわからないけど・・・。
パールのこと、少しでも理解してもらいたくて、私のこと正直に話すわね。
パールのお母さんの名前はルビーで、私の名前はオパール。
面白いでしょ。私達の母は、宝石のように輝いているものが大好きだった。
姉のルビーは、そんな母と同じように、大事な娘にも、宝石の中から名前を選んだのね。
もっとも、オパールはごろごろした石のかたまりの中で見つかるのに、パールは貝の中で守られながら育つ真珠。
私と違って、パールの名前には、姉の強い愛情を感じるわ。
私にも娘がいるけど、さすがに宝石の名前はつけられなかった。
実はね・・・。
パールがこのドームに運び込まれた時、姉がそれまでに撮っていたパールや、家族の動画も一緒に送ってきたの。
キラシャには、ぜひこれを見て欲しかった」
キラシャは、ヤケドしていない時のパールを見て、ショックを受けないだろうかと、ドギマギしながら、おばさんがモアで動画を再生するのを待った。
薄暗いドームで、やせた人達が楽しそうに踊っている。お祭りの風景なのだろうか。
大人も子供も、華やかな民族衣装だ。
キラシャと同じくらいの女の子達も踊っている。
皆同じ衣装を着ているのだが、目立ってきれいな子が・・・。
ひょっとして、この子がパール?
おばさんは画像を静止して、言った。
「キラシャにもわかったようね。この女の子がパール。目がきれいでしょう?
でも・・・。
病院の緊急治療室でパールを見た時、正直な話、もうダメかもしれないと思った」
「あの、パールが燃えたって言ってたンですけど、・・・本当なンですか?」
「そうね。顔も見てはいけないって思ったほど・・・。
でもね、私はこのパールの動画を見て、決心したわ。
パールの持つ細胞だけを培養して、身体を回復させるには、時間が足りなかった。
私の細胞を使ってもらうことで、パールをできるだけ早く元の姿に戻してあげようって。
・・・私には、それだけの義務があったから・・・」
おばさんの話は続いた。
「私と姉は、姉妹ではあったけど、私の方が姉のクローンだったの・・・。
キラシャはクローンって言葉、知ってる?」
「えっ、はいっ、生物の授業で習いました。元になった細胞から生まれてくるって?
あ、でも、おばさんがクローンだってことは、誰にも・・・内緒?・・・」
「キラシャ、こんな話はいやかしら・・・?」
おばさんは、これ以上難しい話を子供に聞かせて良いのか迷っていた。
でも、キラシャは、パールのことがもっと聞きたいと思って、首を振った。
おばさんは、キラシャの目を見ながら話を続けた。
「姉は、母にとって本当の宝物だったの。
若い時から女優として、気ままな人生を送ってきた母だけど、
一度だけ真剣に愛し合った人がいて、その人との子供ができたの。
それがルビー。
その人とは、ルビーが生まれて別れてしまったのだけど、宝物に何かあってはいけないと思って、管理局にお金で掛け合い、クローンの許可を得たの。
そして生まれたのがこの私。
でもね、姉はいつも言っていたのよ。
何をしても母に誉められて、そのたびにたくさんのプレゼントをもらって、そんな過保護な母の愛し方が、とっても重荷だって。
いつか、このエリアを出て、母よりも愛せる人を見つけたいって。
そして、独立心が強かった姉は、メディア・カレッジから、中央管理局の外交部の採用試験を優秀な成績でパスした。
それから、さまざまなエリアに研修に行き、アフカで音信不通になってしまった・・・。
母は姉が急にいなくなって、事件に巻き込まれたのだと思い、警察に訴えた。
でも、それは違っていたの。姉は上司に退職を願い出て、管理が行き届かないアフカに、新しい住みかを求めた。
それを知った母は、気も狂わんばかりに私を責め立てて言った。
『あなたもグルなのね。あなたがルビーを私から引き離したんでしょ!
私がどんなにルビーを大切に思ってたか。
ルビーが帰って来なかったら、管理局に言って、あなたの生命コードを取り消してもらうわよ。あなたはルビーの細胞で作った、クローンなのだから!』
そのとき、初めて自分が何のために生まれてきたのか、思い知らされた。
当時のルールではね、クローンとして生まれ、その義務を拒否したら、莫大な罰金を支払わなくてはならなかったの。
でも、メディカル・カレッジの学生だった私は、管理局の教育ローンで生活していたし、自分の部屋も借りているし、何の財産もない。
母は『私は、こんな人間を育てるつもりはなかった。義務の不履行で訴えるわよ』と言ったの。
私は母に何の反論もできず、裁判を受けることになった・・・。
未来になっても その時代にしかありえないような
不可思議な法律が できることもあるのですかね~




