第7章 与えられた命 ① おしゃべりするゾウ
外海から無事に戻って 病院で目を覚ますキラシャ
小さいころから仲良くしていた”おしゃべりするゾウ”も
何だか 具合が良くないみたいですが・・・
キラシャの見る夢では、タケルはいつもそばにいた。
夢の中で、ずっとこのままでいられたらいいのにと思った。
タケルとケンの出場するパスボー・ゲームの大会。
キラシャのそばで、マイクが大声で声援している。
「タケル! ナイス シュート!! ヒュー アイシテルヨ!!」
「ちょっと、マイク。それって、あたしのセリフだよ!」困った顔のキラシャ。
「コエ ダス キモチ スッキリ! キラシャ コエ ダス!」
「エーッ もう 愛してるなんて言えないよー。
タケルはもう火星に行っちゃったンダモン・・・」
『あれ・・・、タケルって、火星に行ったんだっけ・・・』
キラシャは、ようやく目を覚ました。
モアが時を知らせてくれたが、キラシャの頭はボーっとしていた。
事故から2日経っていたようだ。
キラシャが寝返りをうつと、そばに傷ついたチャッピがいた。
しばらく、チャッピが受けた深い傷跡をながめていた。
外海での出来事が、ぼんやり浮かんで来た。
母親のシャーリが、キラシャの入ったカプセルに近づいて来た。
キラシャが目を覚ましたことに気づくと、心配そうにふたを開けて、顔に手を当てた。
キラシャはシャーリにしっかり抱きつくと、肩に頭をもたれて、早口でしゃべり始めた。
「ママ、あたしって無事だったンだね。もう少しで、サメのえさになるとこだった。
そのときね、本物のイルカがそばに来て、あたしを助けようとしてくれたの。
それから・・・、パトロール隊員が、あたしを助けてくれた。
とっても高い所にいたボートから、ジャンプして降りて来たンだよ。
あたし、最初は空中ボートみたいな重いものが落ちて来たのかと思って、
おぼれそうなくらいびっくりしちゃった。
キャップ爺のプレゼントのチャッピも、あたしとパールを助けてくれたンだ。
あたしの言うことを聞いてくれてね。とっても、いい子だったンだよ! 」
シャーリは、勢いよく話すキラシャの頭にほおずりをした。
「ママ、そう言えば、パールはどうしているのかな。
パールは熱が出て、治療が必要だって、ボートに乗ってから、話もできなかったンだ。
・・・ママ、パールは?」
シャーリは、キラシャをギュッと抱きしめ、微笑んで答えた。
「キラシャ、ちょっと待って。
あなたが事故に遭ったこと、管理局から通知を受けてから、
パパも私もどれほど心配していたかわかる?
キラシャが無事なら、パパは病院に行く必要はないなんて・・・
強がっていたけどね・・・。
でも、あなたの元気な声を聞いて安心した。
さっき担当の先生から、
「パールが目を覚ましたから、キラシャはどうかな?」と言われて、
あわててこちらへ来たとこなのよ。
パールは高い熱が出て、たいへんだった時もあったようだけど、今はだいじょうぶ。
本当に、あなたはパパに似て、人の心配ばかりしているのね」
キラシャは、照れ笑いしてシャーリを見つめた。
シャーリは、わが子のおでこに優しくキスをして言った。
「おじいさんには、何も知らせてないの。
キラシャが事故に遭った日に、具合が急に悪くなってね。
パパは動物園の仕事で手が離せないし・・・。
ママは、あなたとおじいさんのことで、パニック状態だったのよ。
本当に、心配をかける家族を持って、ママはたいへんよ! 」
キラシャは、キャップ爺にチャッピのお礼を言いたかったし、白クジラのモビーに会ったことも話したかった。
また会えるのか、少し不安な気持ちになった。
「今、パパは“おしゃべりするゾウ”の具合が悪くなって、そばを離れられないの。
あのゾウも、私達が子供の時から人気者だったから、ずいぶん年を取ったわね。
ずっとキラシャと会ってなかったから、さびしいゾーって言ってたけど。
・・・そうだ。パパもあなたの様子を聞きたくて、きっとイライラしているわ」
シャーリは、自分のモアを使って、仕事中のラコスを呼び出した。
ラコスは、動物専門の医療技師である。
モアで映し出されるラコスを相手に、家族で会話が始まった。
「パパ、やっぱり心配した?」
「パパは信じていたよ。キラシャは無事だってね。
“おしゃべりするゾウ”に、元気な声を聞かせてやってくれ」
「・・・“おしゃべりするゾウ”、ガンバってる?」
「パパのそばにいるよ。一晩中うなってたな。パパは睡眠不足だ。
2日も寝てたキラシャがうらやましいよ・・・」
「アハハ・・・。パパもたいへんだね。
でも、あたしだって、サメに食べられるとこだったよ」
「キラシャ、サメ? 食べる? わしゃ、見たことナイゾウ」
“おしゃべりするゾウ”も会話に入ってきた。
「もう、サメを食べるんンじゃなくて、サメに食べられるとこだったの!
“おしゃべりするゾウ”、もうじき会えるから、それまでに元気になってね」
と声をかけた。
“おしゃべりするゾウ”も、「早く会いに来るンだ・・・ゾウ・・・」
と、苦しそうに答えた。
「事故の後は、どんな症状が出るかわからない。
しばらくゆっくりして、体調が戻ってからスクールへ戻りなさい。
気晴らしに動物園に来るのは、パパも歓迎するよ!」
ラコスは、ニコッとしながらキラシャに言った。
シャーリは、夕食で出た大好物のパンプキン・プリンをきれいに平らげたキラシャを見て安心したのか、看護士に後を任せ、そばを離れた。
キラシャは次の日から、担当の医療技師の指示に従って、さまざまな検査を受けたが、事故の精神的なダメージもほとんどなく、疲労度を除いたあらゆる検査に合格した。
しかし、何の問題もなかったことが、かえって新しい検査の対象となり、担当の医療技師から数日間の検査の延長と引き換えに、結果がわかるまでの外出許可が許された。
一方、意識は回復したものの、パールは微熱が続き、集中治療ルームのカプセルから一歩も出られそうにない。
キラシャは、許可された時間、パールの眠るカプセルのそばで過ごし、彼女のおばさんと一緒に回復を祈った。
そんなキラシャとパールの見舞いに、ケンとマイク、サリーとエミリ、ダンとヒロとジョンが、交代に訪れた。
キラシャは、自分のバースディ・パーティには参加できなかったが、同じ部屋の子供達が、お見舞いをかねて、チャッピに似たイルカのぬいぐるみをプレゼントしてくれた。
マキもヒザのリハビリ・トレーニングが終わったら、帰りに寄って話しかけてくれる。
マギィとジョディは、お見舞いのメールを送ったからと言って、自分たちのやりたいことを優先していたが・・・
事故に遭ったボートのキャプテンや、乗組員のお詫びのメッセージも儀礼的だった。
もらっても、うれしくないメールには返信もせず、キラシャはメールボックスからすぐ削除した。
もう、いやなことは、なるべく思い出さないようにした。キラシャは病院で過ごす時間が長く感じるほど、楽しかったことを思い出すように心がけた。
元気を取り戻した キラシャに比べて
パールの具合も 良くないようですが
パールが元気を取り戻す方法は あるのでしょうか?




