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第6章 モビー・ディック ④ チーフの話

キラシャは 外海からドームに帰ってくるまで

救出してくれた 海上パトロール隊のチーフと

お話をすることになりました。

どんなお話になるのかな?

皮膚の炎症で、全身から熱を出していたパールは、すぐに治療のために別の部屋に移された。


ドームまでの帰り道、キラシャはチーフのいる部屋で過ごすことにした。   


チーフは隊員に指示して、キラシャにおいしそうなドリンクを与えた。


一息ついた後で、チーフは日頃のパトロール隊の仕事ぶりについて、自慢げにキラシャに話を始めた。

   

「パトロール隊というのは、自分の存在よりも、救助する相手の方が大事なのだ。


うちのチームは、特に優秀なメンバーがそろっている。


救助を求めるものがいれば、どんなに高い所からでも、平気で海に飛び込んでゆく。

   

イルカ・ロボットだってそうだ。


救助するものを生かすためには、自分から危険なものに飛び込んで犠牲となる。


ロボットの犠牲は高いコストがつくが、君達が大人になって、ちゃんと税金を払うようになれば、その一部がパトロール隊の資金源となる。   


だから、まぁ、事故が原因とはいえ、自分を救助するのにいくらかかったとか、そんな心配はまったく必要ない。


我がチームの使命は、君達のような遭難者を助けるためにあるのだから。  


しかし、君のイルカ・ロボットは修理した後で、もう少し訓練が必要だな。


良かったら、我がチームに預けたまえ。


一人前の救助ロボットに育ててあげよう・・・」   


それを聞いて、キラシャはていねいに断った。  


「あたし、外海の危険にも立ち向かって、人の救助をしているチーフを尊敬しています。


それに、命がけで助けてくださったパトロール隊員にも、感謝しています。


パールを助けて犠牲になってくれた、イルカ・ロボットにも。 


でも、できの悪いイルカ・ロボットですけど、チャッピは、尊敬するわたしのおじいさんからもらった大切な贈り物なンです。


チャッピが、あんなにへこんでも、あたしの言うことちゃんと聞いて、パールをいっしょうけんめい探してくれただけで、うれしかったンです。  


チャッピは、わたしの宝物だから、誰にもあげることはできないです。


だから、助けてもらった思い出に大切にしまっておこうと思います」   


チーフは、少し残念そうに言った。  


「フム。それも、良いかもしれない。


こういった事故は、めったに起こるものではないからな。それに、所有者は君だ。


パトロール隊の訓練を受けたところで、人を助けるために使われるということは、君のロボットが犠牲になるということだ。


ロボットを失いたくないのなら、自分の宝物として保存する方が君のためだろう。

   

・・・しかし、機能を失いながら、遭難者のいる方向へと、我々を導いてくれた。


このことに対しては、誉めてやりたい。


私としては、優秀なロボットが人命救助で活躍することを願っているだけなのだ」 


チーフは、おいしそうにドリンクを飲み干した後、キラシャに妙なことを言い出した。


「・・・ところで、最初に君のいる場所に気がついたのは、近くに発信源を感知したからで、


君の近くにそういったものはなかったのかね」


キラシャには、思い当たることがあった。


キャップ爺が、キラシャに何度も繰り返して話してくれた、白いマッコウクジラのモビー・ディックの話だ。


あの白いベッドは、きっとモビーだったのだ。


「あの、・・・チーフにこの話を信じてもらえるかどうか、わからないのですが・・・


あたしのおじいさんが、モビー・ディックっていう白いクジラを生け捕りにしようとしたことがあったンです。


そのクジラには、発信装置がついていたって・・・。   


・・・おじいさんはその時ケガをして、途中で病院に運ばれたんですが・・・


そのクジラは、運ぶ途中で死んでしまったって、あとで仲間に聞いたそうなんです。


でも、あたし見たんです! 


あたし、そのクジラの背中に乗ってたンです。


チーフは、あの白い大きなクジラを見たこと、ありませんか?」

  


チーフは、少し考えながら答えた。  


「フム。我がチームも、何度かあの発信を感知したことはあった。


探そうとするとすぐに消えてしまうので、ゴースト発信とも呼ばれている。


しかし、白いクジラの豪快な話は、私も若いころ何度か聞いたことがあるが・・・


もう死んだというのが、パトロール隊でも定説だ。  


それに・・・、見つかったら特殊部隊によって、すぐに始末されることだろう」  


それを聞いたキラシャは、ゴクリと、つばを飲み込んだ。  


『しまった、モビーのこと、だまっていればよかった』とキラシャは後悔した。



チーフは、そんなキラシャに気がついたのか、ゆっくりと話を続けた。   


「・・・まだ、子供の君に、こんな話をしてもわからないかもしれないが・・・


外海のクジラは、我が天下のようにその数を増やしているのだ。


エリアの管理者達が、クジラを獲る必要がないと判断したからだ。


しかし、その数が増えるほど、自分達のエサを食い荒らし、エサに事欠くと、海洋牧場にまで目を向けるようになった。


もう、すでに多くの被害が報告されている。


人間は、自分達の生活圏だけを守っていれば良いのかもしれない。


しかし、外の海にも秩序というものは必要だ。


私は、それを制御するのが人間の役目だと思っている。


・・・これを話すと、君はがっかりするだろうが、我々はただその数を減らすために、何千・何万頭ものクジラを殺した。


他でもない、・・・海の秩序を守るために」


キラシャは、チーフの目をじっと見つめた。


「人間だって、そうなのだ。


お互いが増えようとすると、自分と異なるものを排除しようとする。


しかし、人間は最終的には制御できる動物だ。


私は、それを信じている。


だが、クジラはそうはいかない。


クジラを減らすことは、海洋パトロール隊の使命でもあるのだ!」


チーフは、自信ありげにそう言い切った。



キラシャはその迫力に、何の反論もできなかった。


今までの疲れと眠気が、急に襲いかかり、キラシャは気を失うように眠りに落ちた。


   

しばらくして、空中ボートがドームの飛行場に降り立った。


パトロール隊員は、急いでパールの入った移動用カプセルを、ホスピタルへとつながるレールにセットした。


カプセルは、ゆっくりと移動して行った。 


ボートを取り囲むように、キラシャの仲間達が集まった。


パトロール隊から無事救出の連絡があったので、すぐに移動して来たのだ。



その飛行場には、メディア関係の人達も取材をしようと、カメラを手に待ち構えていた。


今日の事故と無事に発見されたことが、夕方のニュースなどに取り上げられるのだろう。  


パールはすぐに病院へ転送されたので、キラシャは眠ったまま、パトロール隊の人に抱えられて、ボートから出てきた。


キラシャは仲間の歓声が聞こえると、目をうっすらと開け、自分に向けられるライトを手でよけながら、笑顔で答えようとした。


サリーとエミリが、「わぁ~、本物のキラシャだ!」


「無事で良かった!」と言って、キラシャに駆け寄ってきた。



キラシャは、2人の手を握ろうと手を伸ばして言った。


「パールも無事だよ。チャッピが助けてくれたンだ。あたしもたいへんだったンだよ・・・」


2人が、その言葉にうなずきながら、手をしっかりとにぎると、キラシャは安心したように目を閉じて、眠りの世界へと戻って行った。

クジラを愛する人たちにとっては

クジラを捕獲して食用にしている日本人は

天敵かもしれません。


それでも 自分達の生活を脅かす動物は

捕獲しないと 被害が増えてしまいます。


海の中にも生活圏を見出そうとする 未来の人類にとって

危険なクジラは 天敵になってしまうのでしょうか?

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