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第5章 海洋牧場 ② パールの事情

転校生のパールには みんなの前では言えなかった つらいことがあったようです。


博物館屋上のレストランに行くと、子供達は楽しみにしていたお昼の弁当とドリンクを受け取り、窓際にある机を合わせ、輪になってすわった。


みんな水中スーツ姿で、キャップの部分だけ、後ろにはずしているが、遠くから見ると、区別がつかない。ただ、マイクだけが、大きく目立っていた。


マイクに渡されたドリンクは、特注だ。少しずつ飲むようにとメッセージがついていて、量もけっこう多かった。


キラシャは、『マイクはからだが大きいから、たくさん飲めてうらやましいなぁ』と思いながら、みんなに聞こえるような大声で言った。


「マイク!


 そのドリンクをいっぺんに飲んだら、


 トイレの順番を待ってるうちに、おしっこもれちゃうよ!」


その声はレストラン中に響いて、大きなマイクと特注のドリンクに注目が集まり、大爆笑されてしまった。


みんなが笑っている中、パールもこらえきれず笑い出し、マイクは照れながらパールにたずねた。


「パール オカシイ?


エット アフカ・エリア ドンナ ショクジ?


オイシィ?」


パールは笑うのを止めようと、少し引きつった顔をしながら、マイクの口調に合わせて答えた。 


「アフカ・エリア ドンナ ショクジ?


・・・ソウ ドームノ ナカ タベモノ スクナイ。


・・・モリノ ナカ タベモノ ミツケタ」

  

周りの子供達は、笑うのをやめて、顔を見合わせた。

 

「森の食べ物って、おいしいの?」


キラシャが、思わずパールにたずねた。


「…ソウ。キニ オイシィ モノ アル。


ワタシノ グループ アマイ ケ・ダ・モ・ノ ミツケテ タベタ」


パールは、ちょっとおどけた感じでケダモノと言った。


マイクは、パールの言葉にびっくりして、恐る恐る話しかけた。


「パール ケ・ダ・モ・ノ? デイ~イ?


アマイ ダッタラ ク・ダ・モ・ノ~カナ???」


「ソウ? ク・・・ダ・モ・ノ?」


それを見ていたエミリとサリーが、大笑いしながら言った。


「それって、マイクがオリン・ゲームがあったときのランチで言ってたじゃない~」


「そうそう、ランチに出たくだもの、ケダモノ~って叫んだもンね~」


マイクは、ムキになって言った。


「パパ ボクヲ ドームノ ソト ツレテ イッタ コト アル。


 ソントキ クダモノ ミツケタ。 


 デモ オオキナ ケダモノ キテ ビックリ!


 ダッテ ソノ クダモノ トラレタ。


 ボク オソワレ ナイカ オモテ コワカッタ。


 ダカラ ケダモノ コワイ キライ。


 クダモノ ミテ オモイダス!」


マイクは、その時のことを思い出したように、ブルっと震えて黙り込んでしまった。


周りの子達は、マイクがなぜ「くだもの」を「けだもの」と言っていたのか、それに自分達の知らない所で、マイクがそんな怖い体験をしていたのかと理解した。



そんなことはお構いなしに、マギィとジョディは、アフカはだだっ広い草原だとしか思い浮かばないのか、パールに質問を続けた。


「アフカって、ドームやレストランとかあるの?」


パールに向かって、まるで自分達と違う世界の人間に対するような言い方で聞いた。


「アフカ ドーム アル。


レストラン アル。


デモ コンナ オイシィ ドリンク ナイ。


ホント オイシィ…」


パールは無理に笑顔を作って、ドリンクを飲み始めた。


しかし、マギィとジョディの質問は、まだ続いた。


「森って、ドームの外でしょ?


マイクも言ってたけど、ライオンとか、トラとか、ゴリラとか、ケダモノだけじゃなくて、毒ヘビや毒グモだっているンでしょ?


あんなのと一緒に暮らしてるのかしら」


「戦争だって、まだ終わってないンでしょ?」


「パールの家族って、何してるの?」


パールも、マギィとジョディのどぎつい質問に、顔を曇らせて、黙り込んでしまった。


ダンが怒鳴った。


「マギィ、ジョディ、もう少し、相手のことを考えて話せ! 


せっかくのランチが台無しじゃないか。


パール、気を悪くするなよ!」


ヒロもパールには、他の子より気を使って話しかけた。


「アフカの戦争は、最近落ち着いてるから、心配ないよ。


どっちも、やめるきっかけがつかめないだけなんだ。


コズミック防衛軍が介入すれば、時間の問題だよ」


キラシャもパールを気遣って言った。


「パールの家族も、パールが戻るのを待ってるンだよね…」



マイクも、ジャンも心配そうに、パールを見守った。


「ウン。・・・マッテル。


センソウ オワルコト。


カゾクニ アエルコト」



パールが、気丈に振舞ったので、再びなごやかにお昼が始まった。


マイクは、母親に送ってもらった、おいしそうなクッキーをみんなに配った。



そこへ、ボートに乗り合わせたおじさんもやって来た。


子供達が声をかけると、ドリンクを片手に、にぎやかな昼食会に加わった。


しばらくして、おじさんはパールに興味を持ち、どこから来たのかたずねた。


パールは、今まで何度も練習した言葉なのか、すぐに答えた。


「アフカ カラ キマシタ。


センソウ デ ヤケド シマシタ。


センソウニ ハンタイスル グループニ タスケテ モラッタノ。


トテモ カンシャ シテイマス」

  

おじさんは、もう少し、くわしい話を聞かせてくれないかと頼んだ。


周りの子供達も口には出さなかったが、興味を持っていた。


パールは、言うべきか、どうか、しばらく迷っていたが、ゆっくりと話し始めた。


「ワタシノ グループ カゾクガ オオイ。


ケンカモ スルケド オオゼイデ アソブト タノシカッタ。


アフカ・エリア センソウデ タベモノ ヘッタ。


キョウダイ パパ ワタシ イッショニ モリニ イッタ。


デモ チガウ グループ キテ モリヲ ヤイタ…。


チカクデ バーン オオキイ オト。 アツイモノ トンデキタ…。


パパ モエル ワタシ タスケタ…。 」


パールは、ポロポロ涙をこぼした。ジョンがやさしくパールの肩を抱いた。


子供達は、パールの事情をようやく理解した。


おじさんは、言った。

 

「パール・・・だったね。


おじさんもドームの中で、何度も暴動を見た。


ある日、何の関係もないおじさんにまで、ロボットが銃を向けたんだ。


そこはマシン社会の発達したエリアでね・・・。


マシン化していない人間の方が、地位は低いのだ。


これを見てほしい」


と言って、おじさんはスーツをめくり、腕の筋肉を子供達に見せた。

  

子供達は、わぁっと驚きの声を上げた。 


「すべての筋肉が、マシンに変わってしまったんだよ。


命を守るため、苦労して得た財産が、マシンの身体になるために消えてしまった。


でも、そのおかげで、仕事の方は順調だった。


ただ、このごろ急に、このエリアに住んでいた人が恋しくなってね。

  

人間らしい気持ちを取り戻したくて、このエリアに来たんだ。


若いころに出会った女性との間で生まれた娘が、このドームに住んでいる。


あの頃、心から子供が欲しいと思った気持ちを思い出したくて、会いたいと思った。

  

・・・だが、実際に会ってみると、娘は冷たかった。


身体がマシンに変わっていることに気づくと、・・・娘はもう来ないでと言ったんだ。


おじさんの身体はマシンだが、人間の感情まで失ったわけではない。


・・・しかし、エリアが違うと、考えがこれほど違っていることに気づかなかった。


・・・ここでは、マシン人間の地位はずいぶん低かったんだね・・・」

  

ダンが、首を振って言った。

 

「オレ、お父さんがマシン人間でも、別にかまわないと思う。


お父さんは裁判官なんだ。


オレが弱い者イジメする奴をぶん殴ったら、子供の裁判にかけられるだろ?


そのたびに、すっごい怒られるンだ。


『お父さんが裁判官なのに、なぜオマエは裁判にかけられるようなことをするンだ』


ってね…。


ホントは、弱い者イジメする方が悪いンだ! 


だけど、お父さんはそンなのゼンゼン、わかっちゃいないのさ!


ルールがあったって、イジメる子はたくさんいるンだ。


裁判じゃ、弱い子を助けられないよ。


だから、オレ、裁判官になるより、エリアの警備隊に入って、コズミック防衛軍に選ばれるのが目標なンだ。世界で戦う戦士を目指すンだ!


防衛軍には、マシン人間や、いろんな民族がいるンでしょ?」


おじさんは「ウン、そうだよ」と答えた。


ダンが続けて言った。


「おじさん、かっこいいし、娘さんの言ったこと気にしなくていいと思うよ! 」


他の男の子もうなずいた。


「そうか。おじさんは君達のような息子が欲しかったな。


だけど、パール。君を助けたお父さんは?」おじさんはパールを心配した。


「パパモ ヤケドシタ。


…アフカノ ホスピタル イル…」 


「君は子供だから、このエリアでの治療が許されたんだね。


アフカか…。おじさんも必要な材料を探しに、あのエリアに行った。


ドームの外には、素晴らしい自然が残っていた。


他のエリアは災害が起きるたびに、どんどん外の自然を見捨てて、ドームの建設を急いでいた。


でも、アフカはドームの外に森を作り、その森を守っていた。


何度、災害や戦争に脅かされてもね…」

  

その時…


「地底探検のボートが、もうすぐ出発します。早めに乗船手続きを済ませてください」


というアナウンスが流れた。


子供達は人数分を予約して、古い潜水艦の形をしたボートに乗ることを楽しみにしていた。


たくましい男にあこがれを持つケンは、もっと話を聞きたくて、


「おじさんも行かない?」と誘った。

  

「残念だけど、そろそろ仕事に戻らなくてはならない。


君達に会えて良かったよ。久しぶりに人間らしい気持ちが取り戻せた。


ありがとう。


パール。アフカの戦争が、一日も早く終わるよう、おじさんもなんとか努力してみるよ」


とパールにやさしく声をかけた。

  

パールは、おじさんに抱きついて、泣きじゃくった。 


「ほら、もう泣かない。


君はお父さんや家族が無事でいると、強く信じていなくてはいけない。


その方が、たいへんなことなんだよ。


パール シンジル。OK?」 


パールは泣きじゃっくりしながら、おじさんの言葉にうなずいた。

  

おじさんはパールを身体から離し、諭すよう言った。 


「いいかい、みんなにも君と同じことを信じてもらえるように、仲良くするんだよ」 


その時、キラシャが大声で、おじさんに向かって言った。 


「パールのことはあたし達が守るよ。パールはあたし達の仲間だモン。


みんな、きっと協力するよ」 


おじさんは子供達を見て、しっかりうなずいた。

  

「それじゃぁ、みんな仲良くな。君達も平和なエリアを守って、元気に暮らすんだよ」

 

おじさんはそう言い残すと、コメット・ステーションへ向かった。 


子供達は「元気でね。また会えるといいね」と遠ざかるおじさんに声をかけ、


何人かがパールの腕を引いて、ボート乗り場へと向かった。


原作者:金田 綾子


平和な日本に暮らしていても 怖いなと思うことは いろいろありますが

やはり 戦争という体験は それを経験した人でなければ

わからないつらさがあるんですよね。

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