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第4章 キャップ爺 ③ 海の王 (2)

未来というと 進化したものばかり想像しがちですが

キラシャのおじいさんみたいに

自然の世界が 大好きな人もいるんじゃないかと

そんな出来事を 描いてみました。


おじいさんはボートに乗っていた時に、いつもくわえていたというパイプを吹かして、一服した。



しかし、格好を楽しむだけで、おじいさんのパイプから煙は出ていない。  



「そして、あの大流星群がやって来た。



海洋牧場も破壊されてしまった。



隕石の被害は少なかったドームも、暴動であちこち破壊され、その心労で命を落とした人は多い。



ワシにとっても大切な、おまえのおばあさんも失った。ワシも、生きる気力を失いかけた。



だがな、騒ぎも静まってから、昔の仲間からモビー・ディックが生きているという情報が入った。



あいつは何があっても生き残るだろうと思った、ワシの勘に間違いはない。



しかし、荒れていた海洋牧場が再開すると、なんてこった。



海洋ドームの管理局の方針が急に変わって、外海からクジラのような大きな生き物を運び込むことを禁止する、というルールができるらしい。



それを聞いて、ワシはそのルールが成立するまでに、なんとかあの白いマッコウクジラを管理局の責任者に見せてやりたいと思った。  



小さなクジラやイルカなら、どの海洋牧場にもいる。



あのクジラは、キラシャにも見せてやりたいくらい、気高い海の王様という気がした。



いや、神様が宿っているというべきなのかもしれん。



おまえにも、他の子供たちにも、海の尊さやクジラの雄大さを伝えてやりたい。



クジラを獲っていた海の仲間も、ドームの中では仕事がなかった。



みんな、何か生活するための仕事が欲しいと望んでいた。



そのために、ジヴァの漁師は大クジラを獲る技術も持っているぞと、アピールしたかった。



そんな時、ワシの息子ラコスが、娘が生まれたことを知らせた。



長いこと離れて暮らしていたから、そろそろ隠居して、一緒に暮らさないかと言ってくれた。




キラシャ、小さなおまえの笑顔を見るだけで、ワシは幸せじゃった。



だがな。あの白クジラを生け捕りにするまで、ワシは隠居するわけにはいかなかった。



だが、こんなばかげたことにお金を融資してくれる人はいない。



ドームの外で、海岸に打ち上げられたボートや道具を見つけて、修理したものを使った。



ワシは、今まで犠牲となった、たくさんの漁師の魂を慰めるためにも…。



未来を築く子供達のためにも、自然に育ったクジラの優雅な姿を見せて欲しいと願っていた。

   


自然の中でたくましく育てられた、大きいもの、強いもの、



神秘的なものをどんどん遠のけてしまう、管理局の考えを何とか変えてやりたい。



だから、モビーを生きたまま運んでやろうと思った。



とはいうものの、何度も近づくボートを沈め、犠牲者まで出している奴だ。



簡単には人間に従うことはあるまい。



いざとなれば、ワシが犠牲になって、魂となっても説得する覚悟でいた。




そして、ワシらはクジラの生け捕り作戦を開始した。 

 


遠くから見ても、はっきりわかるくらい大きな白いクジラが、海から顔だけ出していた。



モビーだ!



漂流しているワシのボートに気がついた。



ボートの底からつり下げた網の中に、エサの小さな魚の群れが、ひしめいていた。



しばらくして波が高くなり、ワシはボートにしがみついた。


   

ワシは、モビーが海上に姿を現わす瞬間を待った。




仲間も心配して、ショック銃で撃とうと伝えて来たが、下手に攻撃して前みたいに逃げられては、ワシの苦労も水の泡だ。 



それに、ワシはクジラと話し合うことが必要だった。モビーを説得して海洋牧場に引き渡すのが、ワシの海での最後の仕事と考えていた。   



ずっと待ちながら、なつかしい海の思い出にひたっていた。



何時間も波にあおられながら待っていたから、ワシの足の感覚は、なくなるほどしびれてしまっていた。



すると、突然、ワシの乗ったボートが浮き上がった。  



ワシとボートは、空中を高く飛び、斜めになりながら、海上にたたきつけられた。



心配した仲間が、ワシの身体に鎖をつなげていたのだが、モビーはすぐにそばへやって来た。



ワシは網にからまり、奴は周りで右往左往する魚を飲み込もうと、口をぽっかり開けたのだ。



このままでは、何もできずモビーの餌食になるだけだ。 

 


ワシは叫んだ。 



『モビーよ。白い気高い海の王よ。



頼むから、ワシの願いを聞いてくれ。



決して悪いようにはしない。



どうか、その姿をワシの孫に見せてやってくれ。



ドームの外に広がる、ホンモノの海を知らない子供たちに、



自由な海で育ったおまえの姿の美しさを、見せてやって欲しいのだ!』



その瞬間、仲間が必死でワシを引き上げようとしてくれた。



しかし、クジラの丈夫な前歯が、ワシの身体をくだこうと目の前に迫ってきた。



モビーの口に、ワシの足先がはさまれたが、もがきながらも、仲間が網を放射して、モビーの身体を包み込むのを見届けた。



さすがのワシも、すぐに意識を失ってしまい、後の記憶はない。



だが、モビーがワシに向かって、こんなことを言ったような気がした。



『我々は生きてゆく。海を守るために…』 



ボートの中で気がつくと、ワシのブーツは破れ、血が流れ落ちていた。



どうやら、モビーに足の指をかじらせてやったらしい。



ワシは、ドームの病院へ運ばれ、しばらくしてからモビーのことを聞かされた。



モビーはショック銃を集中的に浴び、おとなしくなったそうじゃ。



しかし、その銃のショックが効きすぎたのか、海洋牧場へ運ぶ直前に生体反応がなくなってしまったそうじゃ…。



死んだクジラを海洋牧場に運ぶわけには行かない。



クジラの生態なら研究し尽くされているから、細胞のサンプルだけとって、そのまま海へ返したらしい。



仲間は残念そうに、惜しいクジラだったと後で話をしてくれた。 


  


ところが、ワシはモビーの方から聞こえてきたあの言葉がどうも気になってな。



モビーが死んだとは、いまだに信じてはいないのじゃ。



ただ、ワシはそれ以来、外の海に出ることをやめた…」



海の話をした後で、爺はキラシャに言った。



「海洋牧場の海は、とても静かで魚もおとなしい。



ながめも美しいしな。しかし、自然というのは恐ろしいことが多いのじゃ。



キラシャや。海洋牧場のシャチやサメも、いつ、人間に襲いかかるともわからん。



どんなことがあっても、パトロール隊のそばを離れはいかんぞ」



キラシャは、火星へと向かったタケルも心配だけど、モビー・ディックには1度でいいから会ってみたい、という気持ちもあった。



その晩、キラシャはいつも通りに、タケルにメールを送った。



[イルカ・ロボット、チャッピのおかげで、



 明日の海洋牧場も楽しみが倍になったよ。



 タケルがいたら、絶対、何百倍も楽しいのに…。]

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