キラシャ物語 第15章 真実って?
第15章 真実って? ①
2021-05-27 20:27:24 | 未来記
2009-05-08
1.アフカへ
キラシャの恋心
2009-02-01
君がいるだけで
そばにいるだけで
こころが ホッとして
あったかい…
なにをしてても
どこへ行こうとも
君のこと どんな時も
忘れない…
君が好きなこと
君を好きなこと
いつまでも 続けられると
いいのに…
いつの日にか
大人になって
君と笑って 話せる日が
来るかな…
キラシャの春休みの予定は、いっぱいだ。
アフカ・エリアの停戦が正式に決定し、ジヴァ。エリアとアフカ・エリアを結ぶ航路便も、再開した。
パールのふるさと、アフカ・エリアにいる家族から、戦争に反対する団体を経由して連絡があり、パールの帰郷を望んでいるとのこと。
オパールおばさんは、この日を待ちかねていたように、パールと一緒にアフカ・エリアへ行く支度を始めたが、パールは急に帰るのが怖いと言い始めてしまった。
パールは戦争で大やけどを負ったから、整形手術を行い、以前の顔とは違っている。
元のパールの顔しか知らない人に、今の顔を見せるということは、パールにとって、とても勇気のいることなのだ。
パールは悩んだ末に、キラシャが一緒について来てくれたら、アフカに帰ってから、どんなにつらいことがあっても、大丈夫な気がすると、キラシャに相談した。
キラシャは、亡くなったキャップ爺の遺言で、死んだら自分の骨を広い外海に流して欲しいと言われていた。
だから、キラシャの春休みは、パパとボートでのんびりと外海へ行く予定になっていたのだ。
パールからの突然の話に、「えっ?」っとびっくりしたキラシャ。
でも、病院にいる間にいろんなことがあって、ひとりでは耐えられないくらいつらかったとき、パールがそばにいてくれるだけで、どんなに心がホッとしたことだろう。
それを考えると、パールの頼みを簡単に断ることもできなかったし、入院中にパールから聞いたアフカの自然を、見てみたいなぁ…という気持ちもあった。
オパールおばさんも、パールとキラシャに安心してもらうため、私がキラシャの旅費と旅の間の保護者も引き受けましょうと、キラシャの両親を説得した。
両親と相談した結果、おじいさんのお骨流しは、キラシャがアフカ・エリアから無事に帰ってから行くことになり、キラシャの旅支度がバタバタと始まったというわけだ。
キラシャが他のエリアに行くのは、これが初めてではない。
イルカの調教の勉強を理由にして、おじいさんとフリィ・エリアのあちこちで行われているイルカ・ショーをハシゴしたことがあった。
小さな島で育ったキラシャには、フリィ・エリアの壮大なドームが眩しくて、何もかも別世界のモノにしか思えなかった。
人混みに酔ってしまい、ホテルでゲーゲー吐いてはおじいさんを心配させ、ジヴァ。エリアの食べ物でなきゃイヤだと、散々駄々をこねて、困らせていたキラシャだった。
そんな大変な思いをして出会ったイルカ達とのふれあいは、今でも忘れられない、キラシャの心にしまってある大切な宝物だ。
キラシャの両親は、キラシャが食事のことで、パールの家族に迷惑をかけないだろうかと、ずいぶん心配した。
ところが、キラシャはそんな両親の心配をよそに、「アフカに行ったら、そこでしか食べられないモノを食べてみたいンだ…」と楽しそうに言う。
キラシャは笑顔で航空船に乗り込み、パールとともに旅立った。
アフカ・エリアの滞在は、1週間の予定だ。
サリーとエミリにアフカ行きのことを相談したとき、募金活動をしている間に、いろんな人から遊び道具をたくさんもらったから、それを届けて欲しいと頼まれた。
戦争で、自分の居場所だけでなく、遊び道具をなくしてしまった子供達が大勢いるからだ。
担任のユウキ先生に旅行の許可願いを申請したときは、アフカ・エリアにいる間も、ジヴァ。エリアの子供としての自覚を忘れないこと、
パールには、いろいろつらいことが待っているだろうから、そばで元気づけてやって欲しいと頼まれた。
キラシャは人に何かを頼まれると、やる気満々になるタイプだ。
パールに何が待っていようと、自分にどんな試練が降りかかってこようと、精一杯そばで応援してやらねば…と、意気込んでアフカ・エリアへと向かった。
第15章 真実って? ②
2021-05-25 20:29:59 | 未来記
2009-05-09
2.ひとりぼっち
ラミネス宇宙ステーションの居住区に戻ったタケルと両親は、一昼夜、暗い部屋で疲労困憊の身体を休めた。
これから、どうしようか?
宇宙船が出て行ってしまうと、仕事がない場合は、浮浪者として扱われる。なるべく早く結論を出さなくてはならない。
トオルとミリは、真剣に自分の考えを語ろうとする、タケルの話を聞いてやった。
タケルは、この宇宙ステーションに残りたいが、パパとママは宇宙船に戻ってくれと言う。
トオルは思った。
これまでも、タケルのやりたいように、やらせてきたつもりだが、まだまだ11歳。自分のやりたいことを主張するのが精一杯の年齢だ。
自分達だって、やりたいことを押しこらえて、今までを乗り切ってきた。タケルの言うように、これから家族が離れ離れになって、大丈夫だろうか?
でも、タケルはひるまなかった。
「ボクはモルモットじゃないンだ。
ボクのために研究してくれることはありがたいけど、パパの研究を待って、じっとしているなンて耐えられそうにないよ。
だって、パパの夢は、ボクの耳を治してくれることかもしれないけど、僕の夢は、聞こえる耳で、人を楽しませるようなパフォーマンスをすることなンだ!」
この言葉に、トオルは何も言えなかった。
トオルが子供だったころは、耳の聞こえない父親が障害者という立場で、与えられた仕事だけ黙々としていたことに、いつも反発していた。
障害があっても、耳を聞こえるようにする医療技師を目指すんだと、トオルは自分に言い聞かせて、幾度も困難を乗り越えてきた。
火星医療プロジェクト・チームの乗った宇宙船は、操縦系統のトラブルが見つかり、修理に手間取って、宇宙ステーションから出発していなかった。
宇宙船の仲間に相談すると、2人が戻ることに賛成してくれた。
チームの上司の勧めもあって、タケルと裁判のことは代理人に任せて、トオルとミリはチームスタッフのメンバーとして、再び参加することになった。
タケルを宇宙ステーションに残しておくための手続きと、2人の旅行支度を済ませると、出航の準備が整った宇宙船にあわてて乗り込んだ。
タケルは、しばらくラミネス宇宙ステーションに滞在し、もし火星に行く気になったら、火星へ向かう宇宙船で後を追うし、地球に戻る気になったら、そう知らせると言う。
今回の裁判は代理人に委託し、タケルの保護を依頼した。得体の知れないキララの存在も気になったが、ここはタケルを信じるしかない。
タケルの将来を思って、耳の回復を願いながら研究を進めるのが、親としての使命だと感じ、2人とも身を切られるほどつらい気持ちで、見送るタケルに別れを告げた。
タケルも悲しかったが、これからのことを思うと、ここで泣いているようでは生きてゆけない。
両親の顔を見ている間は笑顔でいられたが、出発を見送った後で部屋に戻ったとき、自分がこの広い宇宙ステーションにたったひとりでいることに、とてつもない重さを感じた。
タケルがしなくてはならないことは、一昼夜の間に2回、代理人にモアで自分の行動を報告し、これからどうするかを相談すること。
タケル一家が監禁された事件の裁判には、タケルもその被害について説明するために、出席しなくてはならない。
ジヴァエリアの子供用の裁判と違って、大人の裁判で、しかもさまざまなエリアなまりの混じった、難しい共通語が飛び交うのだ。
モアからの翻訳を頼りに、一生懸命話を追っていても、けだるく鳴り響く音楽のような声が、ボワッと身体を包むように、睡魔が襲う。
タケルはそんな眠気とも戦いながら、裁判に参加した。
共通語をうまく話せないタケルは、ジヴァ・エリアの言葉で話すことを許された。
悪人達の顔は、なるべく無視して、弁護士の合図を待ち、代理人から言われた通りの証言を淡々と述べた。
時折、「くそったれ!」というダミ声が、被告席の方から聞こえたけれど、用意したことを言い終えて、自分の役目は果たしたなと、タケルは少しホッとした。
しかし、被害が軽くて済んだので、悪人達が罰金を払って釈放されたら、この宇宙ステーションのどこかで、また出くわすことになるのかもしれない。
いったいキララは、どこにいるのか?
『あの連中におサラバしたかった』とか言ってたけど、ホントに信用できるのか?
それに、警察は“キララ”を捕まえることができるんだろうか?
目の前に姿を現さなくても、見えない所で、タケルをじっと見ているのかもしれない。
タケルは不安な気持ちで宇宙ステーションの中をうろついた。
第15章 真実って? ③
2021-05-23 20:31:21 | 未来記
2009-06-10
3.ニックとシーナ
宇宙ステーションには、多くの人が滞在しているが、ジヴァ・エリアからやって来た技術者もいる。
機械装置や部品などにジヴァで生産されたモノがたくさんあるので、メンテナンスと苦情処理への対応に、ジヴァ・エリアの技術者が交代で滞在しているようだ。
医療や先端技術だけでなく、普段使う日用品においても、ジヴァ・エリアの技術開発は、人々の宇宙生活に貢献している。
タケルは、レストランでジヴァ・エリアの言葉を話す人達を毎日見かけた。
ジヴァ・エリアのおにぎりや、パン、栄養ドリンクも自動販売機で売っている。
おにぎりは、いろんな種類のごはんに、好みのおかずを選ぶと、海苔で巻かれ、ラップにくるまれて、出てくる。
食べ終わると、海苔が付いた指をラップでふき取り、モアをかざすとラップは消滅する。
ゴミの量を減らすために、包装の技術は進んでいるが、地球にいたころと、同じような感覚で食べられるように工夫をして、提供されている。
ジヴァ・エリアで見かけた会社のユニフォーム姿の社員が、商品補充のために、レール上に荷物を取り付けてボックスに向かい、ボックスで荷物と一緒に瞬間移動している。
タケルは、それを見かけるたびに、懐かしい思いで見つめた。
レストランでひとり食事をしていると、ジヴァから来た技術者達が、タケルに話しかけてくれるようになった。
「やぁ、キミは宇宙に来てまで、格闘技家を目指しているのかい?
ボクもスクールでその服を着て、柔道をやってたンだ。
でも、ここにはもっと他にも楽しいことがいっぱいあるよ!」
タケルは、パスボーを始める前に、柔道や空手を選択して習っていたこともあったから、その練習着を普段でも着ていたのだ。
いつ、悪党達に襲われることがあったとしても、すぐに戦闘態勢に入れるように、気を引き締めるためでもあった。
ところが、ジヴァの若者達は、そんなタケルの事情も知らず、陽気に宇宙ステーションの出来事を話題にして、こわばっていたタケルの心をときほぐしてくれた。
共通語ばかりで、何があるかわからなくて、居心地が悪い宇宙ステーションのはずが、同じエリアの人と話をすることで、少し違って思えるようになった。
タケルの耳は、まだ聞こえる。
パパの研究のおかげだ、と、タケルは改めて親に感謝の気持ちを持った。
離れてみると、親のありがたさが身に沁みるらしい。
ジヴァ・エリアからは、時々ユウキ先生やヒロからメールが届くが、キラシャからのメールはない。
『きっと進級テストのことで、オレのことなンか、かまっちゃいられないンだろうな。アイツ今何やってンだろう。オレのことなんて、忘れてンじゃないかな?』
ヒロから、キラシャがきれいな転校生と事故にあって、外海に飛ばされたこと、あんなに仲の良かったおしゃべりするゾウと、キラシャの大切なおじいさんが続いて亡くなったこと、
今もキラシャが、病院に入院していることを教えてもらったが、キラシャが大変だったことに心を動かされても、どうなぐさめていいのか、タケルにはわからない。
キラシャにいろんなことがあって、メールが途絶えていたことに少しホッとしたが、自分の耳やキララのこと、地球に帰っていいのか考え始めると、簡単にメールを送れない。
タケルも、キラシャ同様、自分に与えられた試練に立ち向かうため、今を生きることに精一杯なのだ。
さて、タケルが気になっていたのは、キララが言っていた少年の存在だ。もっとキララのことを知って、自分がどうすればいいのか、その手がかりが欲しい。
そのためには、今も病院で治療しているという、ニックに会わなければと思った。
しかし、病院に行って、受付にニックの病室をたずねると、今は面会謝絶で誰も会えない、と面会を断られてしまった。
それでも、何度か病院の中を探索しているうちに、ニックがどの部屋にいるのかがわかり、人気のないときを見計らって、うまく病棟に忍び込み、ニックの部屋をのぞいた。
ニックは、まるでタケルが入ってくるのを知っていたように、カプセルのふたを自分で開け、タケルを出迎えた。
タケルの方を物憂さげに見つめるニックの目は、よどんでいたが、キララが言っていたように、ハンサムでかっこ良かった。
男でも、ホレボレするとはこのことかもしれない。何で、キララに関わって、こんな目に遭ってしまったンだろうと、タケルは気の毒に思った。
ところが、ニックが話す内容は、それまでタケルが思い込んでいた、キララの被害者というイメージとは、まったく違っていた。
もっとも、ニックにとっては、キララはシーナなので、共通語の苦手なタケルは、話を理解するだけでも、たいへんな思いをしたのだが…。
「なぜ、こんなトコへ来たンだ。オレは、気が変になったからって、ここに入れてもらったンだ。それで、罪を免れたけど…。オマエは、アノ連中を敵に回したンだろ?
シーナが教えてくれた…。
タケルって奴を助けてやりたいとかって、シーナは言ってたけどな。
オレは、あのイヤな親父ともやっと別れたンだ。アイツは宝くじに当たって、好き勝手に宇宙旅行を始めて、オレをあちこちに引きずりまわした。
オレがシーナに出会って、ゲーム三昧の毎日を送ってたら、ボス・コンピュータのトコで大騒ぎになって、ようやく親父はオレのことが重荷だって、気付いたんだ。
親父は弁護士にオレの世話まで押し付けて、とっとと他のトコへ行っちまったよ。
オレは、ひとりぼっちなンだ。誰の世話にもなりたくないし、誰の世話もしてやらない。」
そう言い切るニック。
親に対する思いはまったく違うけど、ニックも結局ひとりぼっちだ。
タケルはニックに、自分と同じニオイを感じた。
「オレだって、同じだよ。アンタの世話になりたくて来たンじゃない…。オレは、そのシーナって言う子のことが知りたいだけなンだ」
「シーナは、今もどっかにいるよ。隠れてるけどね。
急に出てきて、びっくりしてシーナって叫ぶと、看護士があわてて大丈夫かって声をかけてくる。アイツは、すぐいなくなるけどね」
「じゃぁ、キミは病気じゃないンだ。だったら、オレの言うこと、わかってもらえる? 」
「こんなバカとじゃ、話す気がしネェ。
最初に言ったろ! オレは、気が変だからここに入れられたンだ。
シーナは地球へ行かないかって言うけど、ごめンだネ。
オマエが行けばいい。うるさいシーナを連れて行きな! 」
「オレは、地球に帰るかどうか、迷ってるンだ。そのシーナって、何者なのかわからないし…」
「シーナは、エイリアンだよ。モアを使わないで、何でもできるエイリアンなンだ。
でも、笑っちゃうけど、食べ物だけは、普通にしたがるンだ。オレ達と同じにネ…」
「でも、…エイリアンって、人を食ったりしないの?」
「オマエ、ホントにバカだな…。
そりゃ、オレだってシーナがどんなエイリアンだか知らネェが、ゲームや映画のエイリアンじゃネェヨ!
アイツァ、オレに説教するンだ。そこら辺の人間より、人間っぽいさ…」
「じゃぁ、オレはどうしたらイインダヨ! だって、シーナって、悪魔じゃないか!
アイツは、オレとオレの家族をヒドイ目に遭わせた奴らの片棒をかついだンだ!
アイツがエイリアンなら、最悪なエイリアンだよ!」
途中から興奮して、激しくキララをなじったタケル。
その様子を見たニックは、ポツリとこう言った。
「オマエは、アイツのことをちっとも知らネェ。それだったら、教えてやろうか」
そのとき、タケルの心に声が聞こえた。
『タケル、悪いけど眠ってもらうよ…』
そのとたん、タケルはふっと気を失ってしまった。
第15章 真実って? ④
2021-05-19 20:33:02 | 未来記
2009-06-30
4.もうひとつの秘密基地
ニックとタケルは、そのまま病室を出ると、誰からも外出をとがめられないまま、ゆっくりと病院から出て行った。
たまたま、病院で使用されている、器具の修理にやって来たジヴァの若い技術者が、タケルの姿を見かけた。
ジヴァ・エリアのユニホーム姿のタケルを見て、彼から話しかけてきた。
久しぶりに同じエリアの人と話せる居心地良さに、タケルは「アニキって呼んでいい?」と尋ねてみた。
彼が照れた感じで「いいよ」と答えると、それからは、「アニキ!」と言って、タケルから声をかけるようになっていた。
そんなタケルを本当の弟のように思っていたのか、無表情に歩くタケルの姿を不審に感じて、彼は思わず立ち止まった。
しばらく首をかしげて、その様子を観察していたが、自分の仕事を思い出したのか、急いで病院へと入って行った。
ニックは、友達を引っ張るように、タケルの腕を取り、目的地へと向かった。
そこは、ゲーム施設の一角にあった。
ゲーム施設は、それぞれ独立した宇宙船になっている。流星の衝突という非常時に、すぐに宇宙ステーションから離れて、独自に危険を回避するためである。
いくつものゲーム施設を通り過ぎ、一番人通りの少ないゲーム施設の前で、ニックは何度か口笛を吹いた。
しばらく待っていると、入り口の戸が開き、シーナが顔をのぞかせて、ニックに手招きをした。
ニックは苦笑いしながら、シーナとハイタッチをして、タケルのことを任せた。
タケルは、シーナに連れられて、固定されたイスに座らされた。
タケルの意識が回復して、おぼろげながらに周りを見渡すと、周りに子供達がいる。
皆、食べ物とドリンクを持って、タケルが目覚めるのを待っていたようだ。
このゲーム施設の宇宙船に、ゲーム機器はなかった。
シーナを含めて8人の子供達が、生活を続けるための住居スペースになっていた。
「ボク達の秘密基地に、ようこそ!」
小さい子供が叫んだ。
「これで、9人目だネ!」
シーナが、ニコニコして言うと、隣にいた男の子が、すぐに訂正した。
「ウェンディ、違うよ。ニックを入れて、10人だ」
ニックにとってのシーナ、つまりキラシャは、ここではピーターパンに出てくる女の子、ウェンディと呼ばれているようだ。
すると、ニックもすぐに否定した。
「オレ、知らネェ。オマエ達が行きたいなら、勝手に行けって感じだね」
「このまま、ここにいても、あいつらのエジキさ。一緒に行った方が、いいよ。
それじゃ、とりあえず10人目の仲間が来たことを祝って、乾杯しよう!」
一番年上に見える子がそう言うと、子供達は、ドリンクの容器をカチリと合わせて、勢い良く飲み始めた。
タケルは、まだ無表情のままだ。ウェンディの魔術のせいで、何も言えないのだろう。
ニックも長い距離を歩いて空腹を感じたのか、仕方なさそうに、食べ物を受け取り、食いついた。
子供達のおしゃべりで、にぎやかな食事中も、タケルは自分がなぜここにいるのか、わからないまま周りをボーっと眺めていた。
時々、タケルを思い出したように、子供達が自己紹介をし始めた。
どの子もこの宇宙ステーションのゲームコーナーでウェンディと知り合い、それまで一緒にいた家族から、離れて暮らしていると言う。
中には、小さいころから親に散々暴力を振るわれていて、ゲーム施設に逃げたときに、ウェンディに助けてもらったんだと、自慢げに語る子もいた。
他の子供達も、内容は違うけれど、自分の親への不満をぶちまけても、親の元へ帰りたいと言う子供は、いなかった。
不思議なくらい、子供達の表情は明るい。
ふと、タケルはこれまでの自分を振り返ってみた。
ここへ来るまで、宇宙船の中での毎日が、どれだけゆううつだったか。
キララに出会って、やっと話の合う仲間に出会えた気がして、どんなに気が楽に思えたか。
でも、それが家族まで巻き込んだ誘拐事件とわかり、痛い目にあって、ようやくわかった。キララを信じたのが、大きな間違いだったのだ。
タケルにとって、ジヴァ・エリアでの生活こそが、ホンモノだった。
ケンやキラシャや仲間達と遊んだこと、ケンカをしたこと、パスボーの試合…。今も忘れられない思い出だ。
地球を出発する前に、キラシャが必死に話しかけてくれたことが、ずっと、ひとりぼっちだったタケルを支えてくれたような気がした。
タケルも、今は両親に会うより、スクールの仲間に会いたいと思った。とりわけ、キラシャには、絶対に会わなければと思った。
『キラシャは、病院にいるらしいけど、今どうしているンだろう。アイツに会って、黙って出てきたこと謝らなきゃ! 』
やがて食事も終わり、それぞれに後片付けを済ませると、ウェンディを中心に会議を始めた。
議題は、地球への出発の時期。
ウェンディは、なるべく早く出発したいと言った。
みんなの前で手を広げると、その上方に目つきの悪い男達が、このゲーム施設を伺っている風景が浮かんだ。
悪党達の仲間が他にもいて、子供達が秘密基地として占拠している、この宇宙船を取り戻そうと、その機会を狙っているようだ。
ここにいる子供達は誘拐され、人質としてこの宇宙船に閉じ込められていたのだ。
子供達は、ほとんどが家族で宇宙旅行を楽しんでいる途中で、ゲームに夢中になっている間に、ウェンディと仲良くなって、ここに集まって来たらしい。
悪党達は、子供を人質にして、親に金を要求しようとしていたのだが、情報網の発達した未来では、へたに連絡を取ると足がつく。
その一方で、ひとり子供がいなくなったことも気付かずに、この宇宙ステーションから次の目的地に向かって、すでに出発してしまった大家族もいたようだ。
なかなか帰って来ない子供を心配していても、この宇宙ステーションに滞在している間は、子供だけで出てゆくことはないからと、そのままにしている家族もいた。
こんな風で、家族からの警察への届けも遅れた。
悪党達も、子供達のモアからポイントを巻き上げた後で、モアを持っていると居場所がわかるから、親の連絡先だけメモして、すぐに捨ててしまった。
そして、悪人達はボス・コンピュータをいじり、どこから連絡しているのかわからないようにしようとしていたのだが、そのターゲットになったニックが捕まってしまった。
あせった悪人達が、タケルを人質に取って、新たな企てを考えていたようだが、結局、警察に捕まってしまった。
ウェンディが、宇宙船に集まった子供達に、食べ物の差し入れをしているうちに、家族の悩みを打ち明け合って、気持ちが通じ合い、自然と運命共同体を作り上げてきたようだ。
会議中、子供達は宇宙船に燃料や食料はどれくらいあって、地球へ行くためには何が必要かをあげて、それをどう調達するかを真剣に話し合っていた。
タケルは無言のまま、この会議をぼんやりと見守りながら、『こいつら、本気で地球へ行くつもりなのか。でも、こんな子供だけで、ホントに行けるのか?』と思った。
ウェンディは思い出したように、タケルに向かって言った。
「タケル、例のヒロって子、この宇宙船で地球に着陸するには、どうしたらいいか説明できる?」
タケルは、魔術からとけたように、口を開いた。
「そんなの、わかるわけないよ。直接ヒロに聞いてみな!」
そこにニックが、勢い良く口を挟んだ。
「シーナ、コイツのことなんかほっとけよ。オレが、何とかすりゃいいのさ。要は、操縦士が必要なんだろ?
オレがやってやるよ。ここにいたって、つまンないからな。操縦ならオレだってできるさ。危険なことがあれば、シーナが教えてくれるんだろ?
タケルを使うのはよせ。コイツは、オマエのことナンにもわかっちゃいねぇぞ! 」
第15章 真実って? ⑤
2021-05-15 20:34:23 | 未来記
2009-07-11
5.闘いの始まり
タケルは、自分のモアがないことに気付いて、ニックに向かって叫んだ。
「オイ! オレのモア、どこへやったんだ!」
「バーカ! オマエのモアから足がついたら、警察が動くだろう。病院において来たンダヨ!」
「あれがなきゃ、ヒロと話ができないじゃンか! アイツと話す必要がないなら、オレがここにいる必要もないだろ!」
「そうさ。オマエはオレの代わりに病院へ戻れ! シーナは、オレが地球まで連れてってやる。オレは、そのあとで他の星を目指すンだ。
いいだろ? シーナ…」
シーナ、つまりウェンディは、あきれた顔をしてニックに言った。
「ニック。アンタにできるンなら、とっくに出発してるよ。アンタには、足りないモノがあるンだ…」
「何が足りないってンダヨ! 自信ならあるぜ、ゲームで鍛えたからな」
「つまんない自信なンかより、地球に行きたいって気持ちが必要なンだ。アンタには、それがない。だからタケルみたいな子を探してたンだ」
タケルは、それを否定するように、キララ…シーナでもありウェンディに向かって叫んだ。
「だから、言ったろ? オレは、まだ地球に帰るかどうか決めてないンだ。だいたい、子供だけで、どうやって地球へ行くって言うンだ。
無茶だよ! 冗談じゃない! 」
しかし、ウェンディは平然と言った。
「もう決めたことなンだ。準備ができ次第、出発するよ。早くしないと、奴らは入り口を爆発させて、この中に入ってくるつもりだ。アタシは、そうはさせないけどね…」
ウェンディは、子供達にそれぞれの役割を伝えると、すぐに4人の子供と一緒に消えた。
残された3人の子供達は、戦闘服に着替えると、ショック銃を持ち、入り口に作ってある窓から外を監視した。
しばらくすると、外の方で怒鳴り声が聞こえた。
「中にいるのは、わかってるンだ! オレ達の言うこと聞かないと、痛い目に遭うぞ! 助けて欲しかったら、おとなしく入り口を開けろ! 」
それに答えるように、子供の1人が叫んだ。
「オレ達は、銃を持ってるンだ! 近づいたら、遠慮なしに発砲するぞ!
いいか、ホンモノだぞ!」
「そんなこと、本気にするとでも思っているのか! ガキの癖に、生意気な口聞きやがって!
大人をからかうンじゃないぞ! 本気で痛い目に遭わせてやるからな!」
テーブルに残されたニックとタケルは、何が始まるンだろうと、入り口の子供達を見守っていた。
子供達の頭の動きから、外の男達が近づいているのがわかる。
緊張した空気の中で、3人の子供は、目配せして銃の発射準備を整えた。
「よーい、発射!」
外でううっと、男のうめき声が聞こえた。
「この野郎! ナメたことしやがって! 殺されてぇのか?
銃を捨てないと、宇宙船ごと爆発するぞ!」
しかし、子供達はひるまなかった。男達めがけて、銃を乱射した。何人かが、悲鳴をあげながら、ショック状態に陥って、倒れたようだ。
残った男達も、倒れた仲間を引きずって、銃の当たらない場所へと逃げて行ったらしい。
「ウェンディが帰って来るまで、絶対入り口に近づけないようにしなきゃ」
「でも、マジでビビッたよ。ゲームは慣れてるけど、ホンモノだもの。
やらなきゃ、やられるってわかっても、やっぱり怖いよな」
「そうだよな。…戦争って、こんなモンなのかな。
自分が殺されないために、相手を殺さなきゃいけないンだ…。
オレ、コズミック防衛軍に入りたかったンだ…」
子供達の会話を聞きながら、タケルは映画かゲームの仮想世界へ、入り込んでしまったように感じた。
しかも、これは夢ではなさそうだ。
ウェンディと他の子供達が、手にいっぱいモノを持って現れた。
「買い物は、これでおしまいだ。あとは出発準備だけだね。みんな、ご苦労さン。荷物をしまったらちょっと休憩して、見張りを交代してやりな」
荷物を抱えた子供達は、早速片付けに取り掛かった。
「オイ、タケル! アンタにプレゼントダヨ!」
ウェンディは、タケルのモアを見せた。
「ナンだ? ここがバレても、いいのかよ! もういい、わかった。オレは降りるぜ! シーナには、オレは必要なかったってことだな。あばよ!」
ニックは不機嫌そうに立ち上がった。
入り口の子供に向かって「どきな!」と大声で追い散らし、そのまま宇宙船から出て行った。
タケルのモアから、着信音が聞こえた。タケルには、音は聞こえづらくなっているが、大好きな宇宙戦艦ヤマトのテーマ曲だ。
ウェンディからモアを投げ渡され、タケルはあわててそれを受け取った。
「えっ? ひょっとして…」
タケルは、キラシャからのメールにも、この着信音を設定していた。
『タケル、元気? こっちもみんな元気だよ。
あたしもみんなも無事に進級できたみたい。
いつ、帰って来れるの?
タケル、早く会いたいよ!
返事待ってるね…』
キラシャの笑顔が空中に浮かんで消えた。タケルは、もっと長く見ていたいと思った。
「会いたいだろ?
タケル、アンタは地球に帰るようになってンだ。
必ずここへ~帰ってくると~♪ ってね…」
「でもさ…」
それでも、タケルは不安を抱えていた。
「何とかなるって…。アタシだって、支えてやるよ。
アンタの好きなキラシャには、かなわないけどさ」
「でも、どうやって地球へ…」
「大丈夫だよ。操縦士やってくれる奴がいるンだ。
アンタは信じないだろうけど、アタシはアイツ等とは違うンだ。
この子達を悪い奴から守るためなンだ!
じゃぁ、その操縦士を連れてくるよ…」
ウェンディは、そう言うとすぐに消えてしまった。
第15章 真実って? ⑥
2021-05-13 20:36:34 | 未来記
2009-08-15
6.ナンで…
『ナンで…?』
タケルは、その姿を見て思わずそうつぶやいた。
しばらくして目の前に現れた キララ、つまりウェンディのそばに老人…
しかも、その老人は眠っているニックを抱えていた。
ウェンディは、子供達を呼び寄せ、老人を紹介した。
「このおじいさんが、アタシ達を地球へ連れて行ってくれるンだ。
名前は何て言ったっけ?」
「ん? 何でもいいが、アースにしとこうか。
お前さん達を地球まで連れて行けばいいんだろ?
まぁ、キャプテンと呼んでくれたら、うれしいかのぅ」
「じゃぁ、アース・キャプテンだ。
みんなもアース・キャプテンの言うこと聞くんだよ!
ルール違反したら、すぐに秘密の空間に閉じ込めるからね」
タケル以外の子供達は、秘密の空間と聞いただけで、サーッと顔色を変えた。
「ウェンディ、ちゃんと言うこと聞くから、秘密の空間には閉じ込めないで!
あそこって、死ぬより怖いンだもン…」
小さい子が叫んだ。
「わかってるなら、いいさ。
ニックは、まだ寝てた方がいいだろ。
起きるとちょっと面倒かもしれないからね。」
タケルはまったく理解できなかった。
「何でニックは戻って来たンだ?
コイツは、一緒に行かないって言ってたンだ。
キララ、お前が連れ戻したのか?
…何でだよ!?」
「アンタには、わからなくていいンだよ。アタシは、ニックを助けたかっただけなンだ。
それより、アンタもアタシの言うこと聞かなかったら、秘密の空間に閉じ込めるからね!」
タケルには、秘密の空間がどんな所かわからなかったが、また宇宙ステーションの狭いボックスの中に閉じ込められるのかと思って、よけいなことは言わないことにした。
「アース・キャプテン、ニックをカプセルの中に入れたら、この船の修理が必要な所をチェックしてくれる?
急がないと、連中がまた来るンだ!」
アース・キャプテンと呼ばれた老人は、照れくさそうに鼻をいじりながら、ニックを抱えたまま、カプセルのある場所へと移動した。
子供達は、すぐに入り口で見張りをする子、 出発の準備を手伝う子に分かれて、それぞれ行動を始めた。
また、ひとり取り残されたタケルは、イスに座ったまま考え込んでしまった。
『ホントに、こいつら地球に行くつもりなのか? こんな勝手なことって許されるのか?
ジヴァだったら、すぐにパトロール隊が来て、あやしいって思うさ。
だって、子供ばっかりじゃないか。
あのじいさんだって、変だよ。
こんな子供ばっかりなのに、何にも言わないじゃないか。
何かたくらんでるンだ、きっと。
あ~オレって、よっぽど妙な運命がついて回ってるのかなぁ。
キラシャも変わった子だったけど、キララは悪魔だよ…
もし、このまま宇宙へ飛び出して行ったら、どうなるンだろ?
ホントに地球へ行っちゃうのか?
でも…』
どうしたら良いのか途方にくれるタケルだったが、キララの魔術は続いていて、身体が思うように動かない。モアはそばにあるのに、助けを求めることもできなかった。
「ウェンディ! また、奴らだ!
なンか、おっかない武器を持ってるみたい。
こっちを狙ってる。どうしよう!?」
「わかった。あれじゃ、この入り口が吹っ飛びそうだ。
仕方ないから、少々故障があっても、出てから直そう。
キャプテン、出発してくれ!
みんなも位置について、ベルトで身体を固定するンだよ。」
入り口にいた子供達も、あわてて自分のイスに戻り、ベルトを締めた。
「忘れてた…タケル!
アンタもベルトしないと、ケガするよ。身体は自由にしてやるから、さっさとしな!」
タケルはムッとしながらも、周りの緊迫感と、キララの勢いに逆らえず、手が動くのを確認して、イスのベルトを探して締めた。
アース・キャプテンも、キララの命令口調に苦笑いしながら、操縦席に座り、ベルトを締めると、手慣れた様子でエンジンを始動し、管制塔と連絡を取り始めた。
管制塔からは、出発の理由を聞かれたようだが、アース・キャプテンがキララに目配せしながら、ゲーム設備の交換のためと答えると、すぐに許可が下りた。
出発方向の信号の色が変わるのを待って、ゆっくりと子供達の乗った宇宙船が動き出した。
タケルは、思わぬ展開に興奮していた。
『真実って…!?
何が真実だって言うンだ…。何を信じりゃ、いいンだ?
こいつらだって、家族の所に帰るのが本当だろ?
いつまでキララの魔術にかかってりゃ、気が済むンだ。
そうだ、ヒロだ。ヒロにこのことを知らせなきゃ…』
タケルは、キララにわからないように、メールを打った。