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キラシャ物語 未来編  作者: 金田綾子
11/15

キラシャ物語 第11章 疑惑の中で

第11章 疑惑の中で ①

2021-06-26 16:55:05 | 未来記

2008-02-20

1.だまし討ち



トオルは、そばで世間話を続けるトュラッシーという見知らぬ男を警戒しながら、ラミネス宇宙ステーションの通りを歩いていた。



ミリのことも心配なので、メールで確認する。



どうやら何事もなく部屋についたようだ。少し安心して、トュラッシーの話に耳を傾けた。



「どうも、ゲームはあきられるのが早い。せっかく選びに選んで、仕入れたゲームだというのに、3ヶ月も持たないんですよ。新しいゲームに人気を取られてしまって」



「地球でも、同じようなものです。私のいたエリアでも、ゲームの流行は短い。子供は新しいものが好きですからね」



「地球では簡単に新しいものが手に入る。しかし、この広い宇宙では交換するのにも何ヶ月とかかる。せっかく儲けたと思っても、取替え費用だけでパァですよ」



「そりゃ、たいへんでしょうね。私は息子のために、耳の治療を含めて、ずいぶんお金をかけてしまいましたが、でも息子のお陰で研究に励むことができた」



「ほう、息子さんは耳が悪いんですか?」



「いや、まだだいじょうぶです。遺伝的なもので、私はマシンのお陰で耳が聞こえにくい程度だが、息子はパスボーで耳を傷めている。それが少し心配なだけです」



「そうですか。そうだ、私の宇宙船が近くにあるので、少しコーヒーでも飲んで行ってはいかがですか?」



トオルは、タケルのことに気を取られ、レストランで十分な水分を取っていなかったことに気づいた。



「そちらがかまわないとおっしゃるのなら、先ほどのお話の続きを…」



トュラッシーは軽く頷いて、トオルを自分の宇宙船へと導いた。



「さぁ、ここです。お入りください。」



トオルの目の前に、古びた小さな貨物運搬用の宇宙船が見えた。トュラッシーは、入り口をモアの操作で開け、先に入って行った。



「さぁ、どうぞ。古いゲーム機材を分解して積んでいるから、少しせまいですが、コーヒーを飲みながらお話するには、問題はないでしょう」



金属の臭いがムッとして、少々気が引けたが、トオルはタケルのことが知りたくて、息苦しさをこらえながら中へ入った。



入り口がガタンと閉まると、部屋は真っ暗なままだった。



「すみませんが、明かりを…」



その時、トオルの背後でバシッという音がして、何かが光った。トオルはそれが何なのか、振り返ろうとする間もなく、意識を失った。




第11章 疑惑の中で ②

2021-06-25 16:58:25 | 未来記

2008-02-21

2.宇宙の海賊をやっつけろ!



ようやく約束の場所に着いたタケル。あたりを見回すがキララらしい姿は見かけられない。



ゲーム・コーナーも、人はまばらだ。タケルはまだ、宇宙ステーションに来てから、一度もゲームをやってないことに気がついた。



通りで紹介されているゲームの動画をながめていると、タケルの目がクギづけになるくらい、おもしろそうなゲームがそろっていた。



サバイバル・ゲーム、バトル・ゲーム、シューティング・ゲーム…。男の子だったら試してみたい、いろんな攻撃装置を使ったゲームがたくさんある。



キララは、いつ現れるかわからない。それまで、ゲームをして時間をつぶそうと思った。



最初に目をつけた“宇宙の海賊をやっつけろ!”というゲームのボックスに移動した。



あたりには誰もいない。タケルは入り口で、モアをかざしてゲーム料金を支払い、星のようなイルミネーションで輝くドアから、中へと入った。



真っ暗な部屋の中へ入って、タケルは声の案内を頼りに、指示された方向へと進んだ。BGMはミルキーウェイをイメージした音楽だ。



タケルの耳は、音がかすれて聞こえるので、その音楽がどんなに甘く切ないメロディーであっても、心を動かされることはない。



タケルは、用意されたマシンスーツとヘッドフォンを装着するよう指示され、銃と盾を受け取ると、指定された位置についた。



すでに、何人かが準備を終え、ゲームが始まるのを待っていた。



ゲームの始まりが告げられると、第1ステージで、 煌びやかな衣装をまとった金持ちの王族が現れ、代々伝えられた秘宝が海賊に狙われていることを語り始めた。



その秘宝を無事に隠すために、王族の後を追いながら、近づいてくる海賊をやっつけて欲しいと、ゲームの参加者に向かって告げた。



王族が3D動画の中で残すヒントを手がかりに、その行き先を追いながら、海賊が現れたら、すぐに戦闘準備に取り掛からなくてはならない。



海賊を倒せば倒すほどポイントが加算され、すべての海賊を倒して、王族の秘宝が無事に隠し果せたら、プラス1万ポイントもらえる。



このポイントの合計は、出口でモアに転送される。ポイント数に応じて、好きなゲームが楽しめるし、残ったポイントは、相場に応じて換金もできる。



ゲームの要領は、ジヴァ・エリアで複雑なゲームに慣れたタケルには簡単すぎたが、時々すっと後ろに現れて、いきなり攻撃してくる海賊を警戒しなくてはならない。



海賊の光線銃が発射される前に、かすかに準備の合図の音がしたら、盾で攻撃を防ぎ、近くの岩に隠れて自分を守るのだが、タケルの耳には聞き取りにくい高さの音だった。



こちらからの攻撃は、銃を構えて海賊の急所に視線を合わせると、銃がそれを察知して、自動的に光線を発射。



ただ、発射されるときには、銃がやけに重くなるので、ぶれないように注意が必要だ。



発射後、爆破音がして、海賊の悲鳴があがるとポイントになる。



第2ステージでは、勢いに乗ってどんどん海賊を仕留め、他の参加者より高ポイントをゲットしたタケル。



海賊からの攻撃で、身体中を撃たれてしまった参加者は、その時点でゲーム・オーバー。ステージが進むに連れて、だんだんと周りの人数も減って行った。



グルーン、ピピピピ…。



「うーっ、やられた…」



海賊の撃つ銃の音を聞き逃して、タケルのスーツの足に光線が当たったらしい。戦闘能力がいっきに下がって、足を引きづり、次のステージへと進まなくてはならない。



次のステージへ進むために、王族の残したヒントを探すことに気をとられていると、たちまち海賊に取り囲まれてしまった。



「うわっ、絶体絶命!」



海賊から総攻撃されると思って、ゲームをあきらめかけたタケルの心へ、キララの声が届いた。



『まだ、あきらめちゃだめだよ! タケル、ジャンプするンだ!



海賊を飛び越えたら、何秒か攻撃がストップする…』



「えっ? 海賊を飛び越える!?」



そう思った瞬間に、タケルの身体がふわっと浮いて、空中をクルクルと回転し始めた。



タケルは自分の体制を整えつつ、軽々と海賊を飛び越えながら、海賊を次々に撃ち続けた。



ドガーーン。ギャーーーー。叫びながら倒れる海賊達。



タケルがパスボーで鍛えた反射神経は、まだ衰えてないようだ。



それにしても、マシンスーツを身につけているわりに、キララが何か魔法でも使ったような鮮やかなジャンプだ。



キララの手引きで、次々に海賊の攻撃を免れたタケルは、ステージを進むごとにもらえるポイントで足の負傷を治し、ただひとり最終ステージまで進んだ。



『このステージの海賊の攻撃は、スピードがケタ違いに速いからね。油断禁物だよ』



キララのつぶやくような声が終わるか終わらないうちに、海賊の攻撃が始まった。



タケルはあわててジャンプすると、攻撃をかわしながら海賊をひとりひとり狙い撃ちした。



『ホラ、気ィ抜くんじゃないよ! 右、斜めからも狙ってる…』



タケルはムッとして、荒々しくジャンプを繰り返しながら、光線銃を乱射し、すべての海賊が消えてゆくまで、戦い通した。



最後に王族の3D動画が現れ、



「君のお蔭で、ようやく大事な秘宝を隠し果せた。



感謝の意を込めて、君に1万ポイントをプラスしよう!」と告げた。



ゲームの参加者の中で、たったひとり海賊をすべて打ち負かしたことに、タケルは久しぶりに優越感を感じた。



出口で合計ポイントを確認し、タケルはこの宇宙ステーションに来て良かったと思った。



キララがいなかったら、きっと出口のドアを蹴って、ふてくされていただろう。



しかし、問題はこれからだ。キララが何者で、タケルに何を望んでいるのか。



まずは、パパが言っていたように、キララは本当に幽霊なのか、確かめたかった。




第11章 疑惑の中で ③

2021-06-24 17:00:40 | 未来記

2008-02-22

3.“キララ”の正体?



激しいゲームを終えたタケルは、近くのロビーで休憩を取り、栄養ドリンクとサプリを買い込んで、グッと飲んだ。



『キララの声はしたけど、いったいどこにいるンだ? 



キララには、どんな能力があるんだろう。オレにも、あんな超能力があったらなぁ…』



ぼんやりと、自分に超能力を与えられたら、何をやってみたいだろうと、タケルは想像してみた。



スクールにいた時は、パスボーがすべてだったけど、もっと他に夢中になれることがあるかもしれない、と宇宙の長旅の間にタケルは思い始めていた。



かといって、火星に行くことしか考えていなかったから、具体的なことが思い浮かばない。



『パパやママは、今ごろ何をしているんだろう?』



ふと心配になったタケルは、モアのメールのチェックを音声モードにして、耳のそばに当てて聞いてみた。



[タケル、パパとママは部屋に戻っているからね。


いつでも待ってるよ。


なるべく早く帰って来なさい]



『パパの声、…まだ聞こえる。そうか、パパとママには心配かけちゃったな。


キララに会ったら、一度部屋に戻ってみよう』



そのとき、“キララ”の声がした。



「タケル。あのゲーム、おもしろかったね。タケルのゲーム、応援してて、楽しかった。


他の子は、ジャンプヘタだったから、つまンなかったヨ!」



“キララ”はうれしそうな顔をして、タケルの目の前にいた。



その姿は最初に出会ったときと同じだ。



「がっかりだな。お化けみたいなカッコで現れると思ってたのに…」



「アタシのこと、幽霊って言う人もいるけど、でも、幽霊じゃないンだ。


タケルと同じくらいの年だよ。時々、消えるケドね」



“キララ”はそういって、タケルのすわっているベンチの横にちょこんとすわった。



タケルは、こんなことを普通に話す子と一緒にいることが、不思議だった。



「オレ、キララが見えないのに、ナンで声だけ聞こえたのか、知りたい…」



「声はネ、わかるヨ。アタシ、タケルのこと、応援したいって思ったンだ」



「応援したい? 」



「アタシ、家族いないから、タケルはアタシの仲間なんだ。



タケルを助けてやりたいと思ったら、タケルの心に届いた…」



「キララのこと、幽霊っていうのは?」



「アタシは、幽霊って言うのがわかンないのさ。幽霊って、死んだ人間のことだろ?



宇宙船で生まれたらしいけど、ここへ着いたときは、アタシひとりだった。



宇宙船から出ても、だれもアタシに気づかない。



言葉もわからなかったけど、いろんな動画見て、おぼえたンだ。



宇宙船がこわされたから、このステーションで暮らしてる。



倉庫に売れ残りの服が、置きっぱなしになってるンだ。



時々、気に入ったのを見つけて着てるけど、シャワーは人に気づかれないように入ってる。



アタシ、モア持ってないからね。



さっきみたいに、掃除してりゃ、チップがわりに、食べ物やドリンクをくれるンだ。



幽霊って、食べたり飲んだりは、しないンだろ?



モアなしに消えるから、シャワー室でお湯と泡だけ流れてたとか言って、おかしいって騒ぐ人はいるよ。



でも、普通の人間だって、モアで移動できるンだろ? 



ここじゃ、ボックス使って移動するのが普通だから、突然消えるのが、おかしいンだろうけどね。



だから、いつもは誰にもジャマされない秘密基地を見つけて、そこにいるンだ。



アタシを見て、話しかけてくれる人間もいるから、何とかやってこれたンだけどね…」



『キララって、自分が死んだのわかってない幽霊なのかも?


そんな幽霊が、宇宙にはウヨウヨしてるって、聞いたことがある。


やっぱり、パパのいうこと信じてた方が良かったのか…』



「タケル。まだアタシのこと、幽霊って思ってるンだろ?


アタシの言うこと信じないと、これから怖い目に遭うんだよ!」



“キララ”は意地悪そうに笑っていた。タケルはあ然として“キララ”を見つめた。



「タケル、アンタ幸せすぎるよ。きっと、やさしいパパとママがいるからだろうネ。


人にだまされたことないだろ? 


アタシには、家族がいないから、どんなことがあっても平気。


何があっても平気じゃないと、生きてけないンだ。


タケルは、もうアタシの仲間だから、言うことはチャンと聞いてもらうよ。


アンタの耳が聞こえなくなっても、アタシの言うことは、アンタに聞こえるからネ。


アンタのことは、先のことまでアタシに見えるんだヨ!


…で、タケルがアタシの言うこと聞かないと、どうなるかわかる?



……タケルのパパとママが、殺されるンだ…」



“キララ”の顔が小悪魔に変わり、その目は冷たく光っていた。



タケルは背筋が凍りついて、思わず逃げようとしたが、金縛りにあったように、動けなくなった。


いったい、この“キララ”という女の子は、何者なンだ?



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