キラシャ物語 第11章 疑惑の中で
第11章 疑惑の中で ①
2021-06-26 16:55:05 | 未来記
2008-02-20
1.だまし討ち
トオルは、そばで世間話を続けるトュラッシーという見知らぬ男を警戒しながら、ラミネス宇宙ステーションの通りを歩いていた。
ミリのことも心配なので、メールで確認する。
どうやら何事もなく部屋についたようだ。少し安心して、トュラッシーの話に耳を傾けた。
「どうも、ゲームはあきられるのが早い。せっかく選びに選んで、仕入れたゲームだというのに、3ヶ月も持たないんですよ。新しいゲームに人気を取られてしまって」
「地球でも、同じようなものです。私のいたエリアでも、ゲームの流行は短い。子供は新しいものが好きですからね」
「地球では簡単に新しいものが手に入る。しかし、この広い宇宙では交換するのにも何ヶ月とかかる。せっかく儲けたと思っても、取替え費用だけでパァですよ」
「そりゃ、たいへんでしょうね。私は息子のために、耳の治療を含めて、ずいぶんお金をかけてしまいましたが、でも息子のお陰で研究に励むことができた」
「ほう、息子さんは耳が悪いんですか?」
「いや、まだだいじょうぶです。遺伝的なもので、私はマシンのお陰で耳が聞こえにくい程度だが、息子はパスボーで耳を傷めている。それが少し心配なだけです」
「そうですか。そうだ、私の宇宙船が近くにあるので、少しコーヒーでも飲んで行ってはいかがですか?」
トオルは、タケルのことに気を取られ、レストランで十分な水分を取っていなかったことに気づいた。
「そちらがかまわないとおっしゃるのなら、先ほどのお話の続きを…」
トュラッシーは軽く頷いて、トオルを自分の宇宙船へと導いた。
「さぁ、ここです。お入りください。」
トオルの目の前に、古びた小さな貨物運搬用の宇宙船が見えた。トュラッシーは、入り口をモアの操作で開け、先に入って行った。
「さぁ、どうぞ。古いゲーム機材を分解して積んでいるから、少しせまいですが、コーヒーを飲みながらお話するには、問題はないでしょう」
金属の臭いがムッとして、少々気が引けたが、トオルはタケルのことが知りたくて、息苦しさをこらえながら中へ入った。
入り口がガタンと閉まると、部屋は真っ暗なままだった。
「すみませんが、明かりを…」
その時、トオルの背後でバシッという音がして、何かが光った。トオルはそれが何なのか、振り返ろうとする間もなく、意識を失った。
第11章 疑惑の中で ②
2021-06-25 16:58:25 | 未来記
2008-02-21
2.宇宙の海賊をやっつけろ!
ようやく約束の場所に着いたタケル。あたりを見回すがキララらしい姿は見かけられない。
ゲーム・コーナーも、人はまばらだ。タケルはまだ、宇宙ステーションに来てから、一度もゲームをやってないことに気がついた。
通りで紹介されているゲームの動画をながめていると、タケルの目がクギづけになるくらい、おもしろそうなゲームがそろっていた。
サバイバル・ゲーム、バトル・ゲーム、シューティング・ゲーム…。男の子だったら試してみたい、いろんな攻撃装置を使ったゲームがたくさんある。
キララは、いつ現れるかわからない。それまで、ゲームをして時間をつぶそうと思った。
最初に目をつけた“宇宙の海賊をやっつけろ!”というゲームのボックスに移動した。
あたりには誰もいない。タケルは入り口で、モアをかざしてゲーム料金を支払い、星のようなイルミネーションで輝くドアから、中へと入った。
真っ暗な部屋の中へ入って、タケルは声の案内を頼りに、指示された方向へと進んだ。BGMはミルキーウェイをイメージした音楽だ。
タケルの耳は、音がかすれて聞こえるので、その音楽がどんなに甘く切ないメロディーであっても、心を動かされることはない。
タケルは、用意されたマシンスーツとヘッドフォンを装着するよう指示され、銃と盾を受け取ると、指定された位置についた。
すでに、何人かが準備を終え、ゲームが始まるのを待っていた。
ゲームの始まりが告げられると、第1ステージで、 煌びやかな衣装をまとった金持ちの王族が現れ、代々伝えられた秘宝が海賊に狙われていることを語り始めた。
その秘宝を無事に隠すために、王族の後を追いながら、近づいてくる海賊をやっつけて欲しいと、ゲームの参加者に向かって告げた。
王族が3D動画の中で残すヒントを手がかりに、その行き先を追いながら、海賊が現れたら、すぐに戦闘準備に取り掛からなくてはならない。
海賊を倒せば倒すほどポイントが加算され、すべての海賊を倒して、王族の秘宝が無事に隠し果せたら、プラス1万ポイントもらえる。
このポイントの合計は、出口でモアに転送される。ポイント数に応じて、好きなゲームが楽しめるし、残ったポイントは、相場に応じて換金もできる。
ゲームの要領は、ジヴァ・エリアで複雑なゲームに慣れたタケルには簡単すぎたが、時々すっと後ろに現れて、いきなり攻撃してくる海賊を警戒しなくてはならない。
海賊の光線銃が発射される前に、かすかに準備の合図の音がしたら、盾で攻撃を防ぎ、近くの岩に隠れて自分を守るのだが、タケルの耳には聞き取りにくい高さの音だった。
こちらからの攻撃は、銃を構えて海賊の急所に視線を合わせると、銃がそれを察知して、自動的に光線を発射。
ただ、発射されるときには、銃がやけに重くなるので、ぶれないように注意が必要だ。
発射後、爆破音がして、海賊の悲鳴があがるとポイントになる。
第2ステージでは、勢いに乗ってどんどん海賊を仕留め、他の参加者より高ポイントをゲットしたタケル。
海賊からの攻撃で、身体中を撃たれてしまった参加者は、その時点でゲーム・オーバー。ステージが進むに連れて、だんだんと周りの人数も減って行った。
グルーン、ピピピピ…。
「うーっ、やられた…」
海賊の撃つ銃の音を聞き逃して、タケルのスーツの足に光線が当たったらしい。戦闘能力がいっきに下がって、足を引きづり、次のステージへと進まなくてはならない。
次のステージへ進むために、王族の残したヒントを探すことに気をとられていると、たちまち海賊に取り囲まれてしまった。
「うわっ、絶体絶命!」
海賊から総攻撃されると思って、ゲームをあきらめかけたタケルの心へ、キララの声が届いた。
『まだ、あきらめちゃだめだよ! タケル、ジャンプするンだ!
海賊を飛び越えたら、何秒か攻撃がストップする…』
「えっ? 海賊を飛び越える!?」
そう思った瞬間に、タケルの身体がふわっと浮いて、空中をクルクルと回転し始めた。
タケルは自分の体制を整えつつ、軽々と海賊を飛び越えながら、海賊を次々に撃ち続けた。
ドガーーン。ギャーーーー。叫びながら倒れる海賊達。
タケルがパスボーで鍛えた反射神経は、まだ衰えてないようだ。
それにしても、マシンスーツを身につけているわりに、キララが何か魔法でも使ったような鮮やかなジャンプだ。
キララの手引きで、次々に海賊の攻撃を免れたタケルは、ステージを進むごとにもらえるポイントで足の負傷を治し、ただひとり最終ステージまで進んだ。
『このステージの海賊の攻撃は、スピードがケタ違いに速いからね。油断禁物だよ』
キララのつぶやくような声が終わるか終わらないうちに、海賊の攻撃が始まった。
タケルはあわててジャンプすると、攻撃をかわしながら海賊をひとりひとり狙い撃ちした。
『ホラ、気ィ抜くんじゃないよ! 右、斜めからも狙ってる…』
タケルはムッとして、荒々しくジャンプを繰り返しながら、光線銃を乱射し、すべての海賊が消えてゆくまで、戦い通した。
最後に王族の3D動画が現れ、
「君のお蔭で、ようやく大事な秘宝を隠し果せた。
感謝の意を込めて、君に1万ポイントをプラスしよう!」と告げた。
ゲームの参加者の中で、たったひとり海賊をすべて打ち負かしたことに、タケルは久しぶりに優越感を感じた。
出口で合計ポイントを確認し、タケルはこの宇宙ステーションに来て良かったと思った。
キララがいなかったら、きっと出口のドアを蹴って、ふてくされていただろう。
しかし、問題はこれからだ。キララが何者で、タケルに何を望んでいるのか。
まずは、パパが言っていたように、キララは本当に幽霊なのか、確かめたかった。
第11章 疑惑の中で ③
2021-06-24 17:00:40 | 未来記
2008-02-22
3.“キララ”の正体?
激しいゲームを終えたタケルは、近くのロビーで休憩を取り、栄養ドリンクとサプリを買い込んで、グッと飲んだ。
『キララの声はしたけど、いったいどこにいるンだ?
キララには、どんな能力があるんだろう。オレにも、あんな超能力があったらなぁ…』
ぼんやりと、自分に超能力を与えられたら、何をやってみたいだろうと、タケルは想像してみた。
スクールにいた時は、パスボーがすべてだったけど、もっと他に夢中になれることがあるかもしれない、と宇宙の長旅の間にタケルは思い始めていた。
かといって、火星に行くことしか考えていなかったから、具体的なことが思い浮かばない。
『パパやママは、今ごろ何をしているんだろう?』
ふと心配になったタケルは、モアのメールのチェックを音声モードにして、耳のそばに当てて聞いてみた。
[タケル、パパとママは部屋に戻っているからね。
いつでも待ってるよ。
なるべく早く帰って来なさい]
『パパの声、…まだ聞こえる。そうか、パパとママには心配かけちゃったな。
キララに会ったら、一度部屋に戻ってみよう』
そのとき、“キララ”の声がした。
「タケル。あのゲーム、おもしろかったね。タケルのゲーム、応援してて、楽しかった。
他の子は、ジャンプヘタだったから、つまンなかったヨ!」
“キララ”はうれしそうな顔をして、タケルの目の前にいた。
その姿は最初に出会ったときと同じだ。
「がっかりだな。お化けみたいなカッコで現れると思ってたのに…」
「アタシのこと、幽霊って言う人もいるけど、でも、幽霊じゃないンだ。
タケルと同じくらいの年だよ。時々、消えるケドね」
“キララ”はそういって、タケルのすわっているベンチの横にちょこんとすわった。
タケルは、こんなことを普通に話す子と一緒にいることが、不思議だった。
「オレ、キララが見えないのに、ナンで声だけ聞こえたのか、知りたい…」
「声はネ、わかるヨ。アタシ、タケルのこと、応援したいって思ったンだ」
「応援したい? 」
「アタシ、家族いないから、タケルはアタシの仲間なんだ。
タケルを助けてやりたいと思ったら、タケルの心に届いた…」
「キララのこと、幽霊っていうのは?」
「アタシは、幽霊って言うのがわかンないのさ。幽霊って、死んだ人間のことだろ?
宇宙船で生まれたらしいけど、ここへ着いたときは、アタシひとりだった。
宇宙船から出ても、だれもアタシに気づかない。
言葉もわからなかったけど、いろんな動画見て、おぼえたンだ。
宇宙船がこわされたから、このステーションで暮らしてる。
倉庫に売れ残りの服が、置きっぱなしになってるンだ。
時々、気に入ったのを見つけて着てるけど、シャワーは人に気づかれないように入ってる。
アタシ、モア持ってないからね。
さっきみたいに、掃除してりゃ、チップがわりに、食べ物やドリンクをくれるンだ。
幽霊って、食べたり飲んだりは、しないンだろ?
モアなしに消えるから、シャワー室でお湯と泡だけ流れてたとか言って、おかしいって騒ぐ人はいるよ。
でも、普通の人間だって、モアで移動できるンだろ?
ここじゃ、ボックス使って移動するのが普通だから、突然消えるのが、おかしいンだろうけどね。
だから、いつもは誰にもジャマされない秘密基地を見つけて、そこにいるンだ。
アタシを見て、話しかけてくれる人間もいるから、何とかやってこれたンだけどね…」
『キララって、自分が死んだのわかってない幽霊なのかも?
そんな幽霊が、宇宙にはウヨウヨしてるって、聞いたことがある。
やっぱり、パパのいうこと信じてた方が良かったのか…』
「タケル。まだアタシのこと、幽霊って思ってるンだろ?
アタシの言うこと信じないと、これから怖い目に遭うんだよ!」
“キララ”は意地悪そうに笑っていた。タケルはあ然として“キララ”を見つめた。
「タケル、アンタ幸せすぎるよ。きっと、やさしいパパとママがいるからだろうネ。
人にだまされたことないだろ?
アタシには、家族がいないから、どんなことがあっても平気。
何があっても平気じゃないと、生きてけないンだ。
タケルは、もうアタシの仲間だから、言うことはチャンと聞いてもらうよ。
アンタの耳が聞こえなくなっても、アタシの言うことは、アンタに聞こえるからネ。
アンタのことは、先のことまでアタシに見えるんだヨ!
…で、タケルがアタシの言うこと聞かないと、どうなるかわかる?
……タケルのパパとママが、殺されるンだ…」
“キララ”の顔が小悪魔に変わり、その目は冷たく光っていた。
タケルは背筋が凍りついて、思わず逃げようとしたが、金縛りにあったように、動けなくなった。
いったい、この“キララ”という女の子は、何者なンだ?