未来の少女 キラシャの恋の物語 第1章
Gooで登録したブログから
内容を一部変更してお届けします。
天真爛漫な 未来少女キラシャ
平和なドームの世界で
パスボーで活躍している
幼なじみの イケてるタケルと
一緒に恋愛学を学んで
おとなになっても
一緒に暮らしたいと思っていたのに…
キラシャは 突然起こる 試練を乗り越えながら
どんな風に 一緒に暮らす人を選ぶのでしょうか?
この物語は 作者である 金田綾子が夢で見た
未来世界で 生きてゆく子供達の姿を描いています。
キラシャ ケン タケルが経験する
いろんな出来事を
読んでいただきながら
命に係わる感染症や 災害 戦争によって
生活や 生き方さえ 変わらざるを得ない
これからの時代に
未来社会を考える基盤としての材料になれば
ありがたいと思って描いています。
アニメなどの作品として使われる場合は
2203kirasya@gmail.com
こちらのメールへご連絡くださいね。
キラシャ物語について
古い日付が初稿
その後ブログを引っ越した時の日付が その手前になっています。
日付でお分かりの方もあるかと思いますが
最初に投稿した2004年12月26日に インドネシアで最大規模の大地震と津波が起きて
多くの方が海に流され 亡くなってしまいました。
私もショックで どうしたらよいのかと 悩みましたが
未来にも 突然で 想定外の災害が起きることはあるのだから
未来の人達は その時に すぐに対策を取ることができるのか
そういう問いかけの意味も込めて 物語を進めることにしました。
では キラシャ物語を お楽しみください!!
第1章 未来社会 ①
2021-06-15 13:57:58 | 未来記
2004-12-26
1.大流星群との戦い
これは、私が夢で見た、未来の地球のお話。
地球をおおっていた自然の大気が、環境の変化で薄まったためか、未来の地球は透明なシールドで包まれていた。
過去の戦争で壊されてしまった街から、破壊されない街を目指して、次第にドーム状の建物が、あちらこちらに点在し、ドームとドームがつながって、新たなエリアが生まれた。
それでも、地球の温暖化による環境の変化や、さまざまな環境汚染が、時には地球規模の災害へとつながり、民族の紛争やエリア内外の戦争も、絶えずどこかで繰り返された。
地球の各エリアの代表が集まる会議に、月や宇宙ステーションや火星などで生活するエリアが加わった。
やがて世界中のエリアを統合する機関は、コズミック・ユニオンと名称が変わり、コズミック防衛軍が結成された。
このコズミック防衛軍は、誰でも入れるわけではない。
各エリアの警察や軍隊などで活躍している若者の中から、特に優秀な隊員が防衛軍の訓練生として推薦される。
訓練生として招集された後、どんな危険な状況でも、冷静に戦える技術を習得したことを認められた者にだけ、正式な防衛軍のバッジとユニフォームが与えられるのだ。
コズミック防衛軍の兵士は、常に宇宙の安全を優先する。
時には、トラブルに遭って宇宙をさまよう宇宙船を救出し、極悪非道な海賊が狙う宇宙船や宇宙ステーションへの救助活動を行い、激しい戦闘の中でも犯人逮捕を敢行する。
地球上でも、エリア内やエリア間で起こった紛争や戦争への介入。
その活躍が認められると、名誉の勲章の授与。
冒険心が強くて、宇宙での活躍を目指す子供達にとって、コズミック防衛軍は、エリアの警察や軍隊に入れたら、その次に目指したい、あこがれの職業なのだ。
そんなある日、突然、宇宙空間に大流星群が現れ、地球の方向へと近づき始めた。
『信じられない数の流星が、地球に衝突する恐れがある』
この情報を入手したコズミック防衛軍は、最新鋭の武器を使ってその進路を変えるよう攻撃を始めたが、飛来してくる流星の数は、軍の想定を超えていた。
どんなに撃破し続けたとしても、大きいものから小さいものまで、何千何万という星のかけらが地球へと向かい、その一部が大小の隕石となって、地上へ衝突する可能性がある。
未来は、情報の流れるのが早い。
宇宙探査船が、大流星群による最初の被害を報告し、まもなく地球の危機が広く伝わった。
宇宙を無数に航行する宇宙船から、被害に遭ったという情報が次々に舞い込み、人々をいっそう不安に駆り立て、暴動にも発展した。
地球はシールドで覆われているが、膨大な数の衝突に耐えられるかわからない。
最新のドームや、宇宙に配置した最新のステーションが、隕石や暴動で破壊されることを恐れた、先進エリアの指導者や科学者や技術者達。
コズミック・ユニオンの中央議会では、どのエリアの代表も、自分のエリアを守るべく、コズミック防衛軍への協力を求め、議員の間で調整がつかず、議会場はパニック状態だ。
事態の収拾をつけるため、コズミック・ユニオンの議長ウィル・キリィは、緊急のニュースとして全エリアに向かって伝えた。
「流星衝突の恐れがある、宇宙ステーションや宇宙船の艦長は、防衛軍の指示に従い、安全な宇宙空間に早く移動すること。
被害が予想される各エリアの首長は、それぞれエリア警察や軍隊の増員を図り、エリアの住民が安全に避難場所へ移動するよう、緊急に救助隊や警備隊を組織し、指示すること。
避難場所が確保できないエリアの首長は、それぞれ独自の判断で、安全策を図ること…」
各エリアでは、大勢の若者が救助隊員や警備兵として召集され、避難場所への誘導や、暴動への鎮圧、地上への隕石の衝突を防ぐための攻撃に駆り出された。
ドームの建設が進まなかったアフカ・エリアでは、グループ同士の縄張り争いから、避難場所が確保できず、救助の人員を増やしても、難民があてもなくさまようばかりだ。
暴動の鎮圧に功績のあった、アフカ・エリア出身のエリック・マグナーが、コズミック防衛軍の臨時・最高指揮官に任命された。
エリック・マグナーは、各エリアへ暴動鎮圧のため、軍事介入する前に、全エリアの人々に向かって訴えかけた。
「我々、コズミック防衛軍は、人類のふるさと地球と、宇宙に暮らす人類を救うために、果てしなく飛来する無数の流星と戦っている。
しかし、我々がこの戦いに敗れることで、ドーム社会が破壊され、我々の得たすべての財産を失ってしまうだろうという言葉に、多くの人が惑わされている。
軍は何の理由もなく、同じ人間を威嚇する道具として、兵士を育てたのではない。
あなた方の命を守るため、数多くのエリアが誇る警察官と救助隊員、警備兵とともに、自らを犠牲にして戦って来た。どうか、自分達の力を信じてほしい。
これより我が軍は、コズミック防衛軍ルール第10条第1項にもとづき、人類の生存を優先し、正義のために戦うことになる。
これ以降エリアを混乱させ、人命を危険にさらし、軍の命令に違反した者に対しては、命の保障はない。
どうか、暗い孤独な宇宙の中で、今生きているあなた方と、未来のために戦っている、寡黙な兵士のことを忘れないでほしい」
そして、流星の爆発に巻き込まれ、命を落とした兵士達の名前と映像が浮かび上がり、愛する人達へのメッセージが、本人の声で流された…。
「僕はユサン・カリ。 ヒンディ・エリア出身。
・・・メルシュ・・・愛してるよ!
階級の違いがあっても、結婚を認められてたら、君と共に生きたかったな・・・」
「私はフローラ・アデル。 ユーピア・エリアで生まれて、歌とダンスが好きでした・・・
また好きな歌を歌いながら、みんなとダンスを楽しみたかったけど
地球が壊れたら、好きなこともできなくなっちゃうからね・・・
・・・パパ、ママ、ケリン、ヒュース、ノーマ・・・。
みんな・・・私が生きていたこと・・・
どうか、忘れないで・・・」
「僕は、ナルム・エコー。 オリエン・エリア出身。
世界で一番愛してるよ、コリーヌ・・・。
生まれたばかりのジュシュの事、任せたよ・・・
しっかり、育ててくれ・・・」
「私はラニラ・タミル。 アフカ・エリア出身。
トラム・ティガ・・・ あなたのプロポーズ待ってたのに、先に逝くなんて・・・。
生まれ変わったら、また、あなたに会いたい・・・」
「僕は、ユキヤ・ナガサキ。 ジヴァ・エリア出身。
世界の平和を願って、この戦いに志願しました。
人類が、災害や社会の混乱から、犠牲を乗り越えて、生き抜くことを希望します。
ママ、僕を産んでくれてありがとう・・・」
「オレはルディ・アレン。 フリィ・エリア出身。
好き勝手に生きて来たから、思い残すことはないよ!
これが最後の酒だ・・・ ウ~ン、うまい!
みんな、無事に生きて行ってくれな!
・・・グット ラック!!」
同じ時に、同じ苦しみを感じながら、他の人を助けるために、自分の人生を捨てて、流星群と戦って、命を失った兵士達の冥福を、人々は祈った。
しかし、大流星群は容赦もなく、宇宙船や宇宙ステーションを襲った。
暗黒の宇宙が稲光に包まれる中、防衛軍の宇宙船に追従し、安全な場所を求め、逃げ惑う宇宙ステーション。やがて、地球にも光の大群が押し寄せて来た。
遠くで雷と地震と戦争が同時に起こったような、そんな激しい光と雷鳴が延々と続き、ドドドォーンッという、激しい爆音が鳴り響く。
避難所のせまくて暗い場所に閉じ込められ、息苦しさに耐えかねて、泣き叫ぶ子供達。
無人のドームに入り込み、残された金品を狙って、暗躍する強盗団。地上にも、多くの人々が取り残され、無数の生き物がそのまま置き去りにされた。
シールドを突き抜けた大きい隕石が、海に落ちて津波を引き起こし、島のエリアを襲った。
大陸のエリアにも、砕けた隕石の雨が降り、海からの津波が、地上の人々や生き物をさらって行ってしまった。
ドーム社会の指導者の言いなりに戦うことは、ドーム社会を助けることになっても、地上に取り残された自然や、自然とともに生きている人々を失うことになる。
誰かが、その人々を助けなければ…
エリック・マグナー指揮の下、軍への出動要請のあったエリアには、指令に従順なマシン部隊を中心に配置。
一方、軍の有志を募って、ドームの外の救出活動を急いだ。大勢の若者が、進んでドームの外へ飛び出し、被災地へと向かった。
彼らの後を追うように、使命感の強い医療技師や、多くの勇気あるボランティアが、支援物資を背にして、保護された区域を離れた。
長い長い時が過ぎ、ようやく音が鳴りやんだ。
人々は、長いこと閉じ込められた苦痛に、少し背伸びをした。
大流星の衝突によって、少し地球の軌道がズレてしまったようだ。
その変化に順応するための対策と、破壊された地域の復興という、新たな苦難に立ち向かうため、人々は立ち上がった。
少しホッとしたせいか…各エリアの管理の目が行き届かなかったせいか…この年、子供がたくさん生まれた。
そして、キラシャも、この年に生まれた。
第1章 未来社会 ②
2021-06-14 20:10:38 | 未来記
2004-12-30
2.ドームの社会
第3次世界大戦後、荒廃した地球に、ようやく復興が進み、いろんな場所で建設されたドームが、お互いにつながり合って繁栄する時代。
理想の生活を目指すユーピア・エリアや、自由な生活を目指すフリィ・エリアなど、2つのタイプのエリアが、その時代の経済活動をリードしていた。
宇宙開発に貪欲なエリアや、食料の増産や技術開発に意欲的なエリアが、必要とされる物資の供給を行い、生活を支えている。
いろんな民族が共存するアフカ・エリア、多数の民族が入り混じったオリエン・エリア。
民族間の階級の厳しいヒンディ・エリアなど。
これら民族の違いが、また新たなエリアを生み出し、エリア内にも外にも、貧富の差はさまざまに広がっていた。
特徴を生かした小さなエリアも点在し、周りのエリアと経済や技術を提携し合って、共存共栄を図っている。
キラシャの暮らすドームは、北半球の小さなエリアにある。
何度も地震や火山の爆発などに見舞われながら、長い年月に位置を移動し、形を変えて、成り立ってきた島のエリアである。
磁力の働きが強いのが特徴で、ジヴァ・エリアと呼ばれている。
ジヴァ・エリアは、点々とした島のドームで成り立っているが、ごく微小なマシンを駆使した医療技術の発達で、先進エリアと認められるようになっていた。
もうすぐ11歳になるキラシャは、ドームのスクールで、クラスの男の子と仮想空間でのアクション・ゲームや、未来のスポーツを楽しんでいる。
クラスの中でもとびきり元気なキラシャは、冒険好きな男の子とドームから外に出たくて、ドームの外へ出る許可証を取ろうと、午後の厳しい訓練に参加していた。
ドーム内の澄んだ空気に慣れてしまった未来人。
特殊なマスクをつけないでドームから出てしまうと、呼吸をしても外の空気の成分がうまく身体に取り込めず、倒れてしまう人もいる。
このため、調整された空気しか知らない子供達は、訓練しないでドームの外へ出ることを禁止されている。
スクールの行事や競技のために、ドームの外に出る生徒もいるが、訓練後の許可証が発行されないと参加が認められない。
見慣れた植物や動物ばかりのドームに、たいくつしていたキラシャは、まだ自分の目で見たことがない、自然に満ち溢れた広い外の世界に、人並み以上のあこがれを抱いていた。
チルズ・ハウスでは、大勢の子供達が、にぎやかな日常生活を繰り広げている。
平日はチルズ・ハウスで生活し、土曜・日曜の休日は保護者の所でホームステイする。
もっとも、子供の保護者は、血のつながった親ばかりではない。
休日に子供を引き取る実の親は年々減り、子供を育てることで、その成長を楽しみにする代理の保護者が多い。
キラシャは、自分のおじいさんを知らない友達や年下の子を引き連れて、自分の血のつながった、足の悪いおじいさんが入居しているケア・ハウスへ、休日に遊びに行った。
このドームには、子供が学ぶスクールと、寝泊りするチルズ・ハウスと、病気やケガの時にお世話になるホスピスが併設している。
スクールでの学習に役立つ博物館や歴史館、さまざまなアート・ミュージック・ダンス・ミュージカル・ドラマ・カラオケなどを楽しむ大小の施設もある。
ゲームの中に入り込んで、新たなストーリを作りながら、謎を解いたり、恋をしたり、仲間を作ったり、敵を倒して得点をゲットしたり、子供達が楽しんで遊べる仮想空間もある。
また、未来に進化した、多くのスポーツの練習場や試合会場もある。
これらの施設は子供だけでなく、大人も利用できる。仕事を終えた夕方から夜まで、多くの人に趣味を通じた出会いを提供している。
ここで知り合って、結婚を決める人達が大勢いるので、現代のように出会いがないから結婚できないという問題は、解決されているようだ。
ただ、出会っても、うまくいくかどうかは、本人同士でないとわからないが…
さて、今も進化し続けているスマホは、“モア”へと進化して、ドームで暮らす人々の生活を支えている。
つまり、もっとスマホを便利に使いたいという、人類の希望を託した名前だ。
おしゃれや便利さを追求する未来人。
モアは、腕時計のように装着するか、自分の身体・服・メガネ・アクセサリーに埋め込んで使う人もいる。
モアは、子供には教育目的で使われるため、無償で支給され、スクールを卒業するまで基本的な維持費はかからない。
モチロン、自分の希望するモアを有料で手に入れることも可能だ。
ただ、自分の不注意で失くしたり壊したりしたら、自分で買い替えや修理をしなくてはならないし、自分の買い物は自分で支払わなくてはならないというルールだ。
今でも、人のアカウントを盗んで、なりすまして買い物をしている人を見かけることもあるが、未来でも、そういった犯罪はなくならないようだ。
このため、未来のスクールでは、そういった犯罪行為をしないための教育も行われている。
ところで、未来では、人が別の所へ行きたい時には、このモアの操作で、瞬間移動もできる。
転送用のリモコンという、とても便利な道具だ。もちろん、人だけでなくモノの移動もモアで操作できる。
ところが、ドームにはたくさんの人が通路を移動しているし、転送先が安全な場所とは限らない。
モアだけでは、判別できない障害物にぶつかって、人が大ケガをしたり、送ったモノが転送ミスで大破したり、ゼンゼン違う場所へと転送されたりと、被害も多発した。
そこで、緊急の場合を除いて、モアだけで転送することは禁止され、ボックスという転送装置と、そのリモコンとしてモアを利用した移動が認められた。
人の転送用として、ドームの各階のフロアに、大人が2、3人入れるくらいのペアのボックスが、点々と置いてある。
ボックスの右手が送り側。中に入って、モアで行き先を指定すると、数秒後には希望の地点のボックス左手、受け側のボックスにたどり着く。
同じボックスに、同時に転送しようとする人が何人いても、ボス・コンピュータからの指示で、重ならないように待ち時間があり、順序良く転送が行われるのだ。
もちろん、転送が苦手な人のために、広場ではエレベーターやエスカレーターもあるが、急いでいる時は、ボックスの方がウンと早い。
エレベーターやエスカレーターの数は多くないから、移動するのに苦労する。
住宅街は同じような廊下が延々と続いているから、自分がどこにいるのかも、さっぱりわからないことがある。
しかし、そんな時だって、モアが目の前に3Dホログラムを映し出し、現在地と行き先までのボックスを含めた道案内をしてくれるのだ。
ところが、モアが何でも教えてくれるから、未来の人に悩みはないなんて、思ってはいけない。逆に、このモアの存在が悩みだったりすることもある。
ジヴァ・エリアは他のエリアよりも、管理がウンと厳しくて、大勢の人が秩序正しく暮らすよう求めている。
もちろん、人だけでなく、モノの転送にも、きちんとルールが定めてある。
製造されたモノは、製造場所・責任者・移動経路・所有者などがコード形式で表示され、ボスコンピュータにも、暗号化されたコードが、圧縮して記録される。
モノの現在の位置も、モアのGPS探索アプリで確認することができる。
ドームの住民の各部屋には、モノの転送用のボックスがあり、ネットで購入したモノをボックスに送ってもらえる。
食べ物などは、テーブルの上に置いた専用のボックスに、大きなものは物置くらいのボックスに送ってもらう。
ただ、モアを利用して、人のモノを勝手に転送して、自分のモノとして使ったり、他の人に転売して儲けを企んだりする人達がいる。
そんな時、被害者は、エリア警察に被害届をモアで送信すればよい。
警察は、AIにモアの転送記録・製造コード・GPSから現在の位置を特定させ、犯人を追及する。
偽造したモノも、モアをかざせば、製造コードを確認でき、ボスコンピュータに記録されたコードと突き合わせ、本物かどうかをチェックすれば、偽物だとバレてしまうのだ。
そうはいっても、未来にネット犯罪がなくなることはない。
日々、ボスコンピュータのAI機能で監視を行っているが、犯罪の多さと巧妙さに対して、摘発数が追いつかないのが現状だ。
スクールで犯罪を行わないよう指導を行ってはいるが、人に隠れて悪さをしたいと思うのが、人間の本性なのかもしれない。
このエリアでは、ルール違反に対して厳しい罰則がこと細かく決められ、裁判で罪が確定すると、罰則に応じたマネーの支払いか役務を終えないと、その後の生活は保障されない。
ルール違反をすると、ルールのアプリが入ったモアから警告を受けることもある。それを無視して違反を続けると、モアが自動的に警察に通報するシステムになっている。
毎日毎日、人々はモアからのモーニングコールで目覚め、仕事のスケジュールを確認する。
モアは、手際よく1日の予定を報告してくれるし、都合で予定を変えようとすると、こうした方が良いとアドバイスしてくれる。
ところが、そんなに親切に指導されると、かえってうっとうしいと思うのが人間というものだ。
あまりうるさいと、モアの音声をバシッと切ってしまうこともある。
大事なアドバイスを聞き逃して、後で後悔することも多いが…。
それから、未来の若者は人間関係に、とても敏感だ。
恋愛に関しても、知り合った相手と仲良くなってから、結婚を決心するのも早いが、別れるのも早い。
結婚の届けを2人で管理局に出したら、2人っきりの部屋で、落ち着いた生活ができるかというと、どうもそうではないようだ。
衛生にうるさいドームでは、部屋にキッチンがない。食事をした後は、クリーニングを行うのがルールだし、それがイヤなら外で食べるしかない。
部屋で仕事をする人を除けば、寝る時だけ帰って来ることも多い。
部屋のクリーニングも、ロボットかヘルパーに任せるので、お互いに相手のことを気づかう、愛情あるコミュニケーションが取りにくいのかもしれない。
仕事で疲れた2人が顔を合わせても、相手のいやなとこばかり目につき、部屋の中ではつまらないことでケンカを繰り返し、結局別れてひとり部屋へ引っ越す人が多い。
それがイイことか、ワルイことかは、私にはわからないが、未来の人は合理的だ。
結婚した相手とは、会いたい時に会って、食べたい時に一緒に食事をして、デートしたい時に、一緒に過ごせば良いのだ。
愛を語りたい時は、ムードあふれるホテルで2人っきりに…。
ただし、ドームの中のどこにいても、今日の食事の予定は、どこでどんな食事をするか、モアからの質問に答える義務がある。
この小さな島のドームでも、何万という人口を抱えている。よけいな人数分の食事の準備をするのも無駄だし、残飯を捨てるのも経費がかかるし、何よりモッタイナイ。
サプリやドリンクで済ませるときは、食事をキャンセルし、部屋で食べたいときは、レストランから食事を転送してもらえばよい。
希望する場所を利用する時は、決められた時間までに予約しておけば問題はない。
こういった場合も、モアは欠かせない。
未来の携帯、モア。
テレビ電話・ネット・マネー・カード・カメラだけでなく、目の前に3Dホログラムを映し、道先案内、転送ボックスのリモコン、あらゆる機能を持つすぐれものだ。
さらには、ルールのアドバイザーであり、仕事や生活のパートナーでもある。
ドームの大集団の生活を支える、便利なモア。
未来のドームに住む人々は、それがなくなったら、何もできないほど、モアに依存していた。
第1章 未来社会 ③
2021-06-13 18:19:02 | 未来記
2005-01-08
3.子供達の生活
医療技術の発達したジヴァ・エリアの子供には、液体状のマシンが注入されている。
―ジヴァの住民は、ピコ・マシンと呼んでいる―
長年の研究で、体内に注入しても無害なマシンが開発され、それが子供の身体をケアしながら、その子の居場所もモアを通じて教えてくれる。
モアは、体内のピコ・マシンのデータを、一時的に記録保管し、整理した上で、確実にドームのボス・コンピュータへと送信するためにも使われている。
キラシャの暮らすチルズ・ハウスの朝は、早い。
早い子は生まれてすぐ、遅い子でも3歳の誕生日を迎えるまでには、チルズ・ハウスに引き取られ、先生の指導によって、社会で働くための基本的なしつけを学ぶ。
保育コースの子供は、決められた時間に寝室から遊び場に移動すればよいのだが、それでもまだ甘えていたいのか、ぐずぐずしている子が多い。
子供への指導で手一杯の先生を手伝う、年若いスタッフが汗を流しながら、子供の世話に明け暮れている。
初級コース以上の子供達は、眠い目をこすりながらモアにせかされて、トレーニング場へとジョギングで移動し、全員が集まると軽く体を動かすような体操を行う。
月に1度は、災害が起きたときに何をするか確認して、非常用食料や防災グッズのチェックなどを行う。
ドームだから災害には強いはず、と思う人もいるかもしれない。
ドーム自体は頑丈でも、地球上にあるいくつかのプレートは、常に重なり合って、押し合いしながら動いているから、いつどこで地盤が崩れて、大地震が起こるかわからない。
地震や火山の噴火、台風や津波など、災害の多いこのエリアでは、ドームでの非常事態にすぐ反応して、安全な場所へ移動するための訓練が日課なのだ。
朝に弱いとか、身体を動かすのが苦手な子供は、恒例の朝の行事をすっぽかすこともあるが、大多数の子供達は、これを乗り越えてから一日が始まる。
どんな状況でも、すぐに自分のすべきことを考えて、行動できる習慣を身に着けることが、ドーム社会の必要不可欠な条件だ。
人類の自由な行動を阻むように、突然世界中で感染拡大を起こすようなウィルスは、未来でも存在する。
日々、新しいウィルスのワクチンが研究され、ピコ・マシンに添加して投入されているが、ウィルスも、次々に新しいものへと変異している。
ウィルス感染が災害レベルに拡大すると、ドーム内での集団感染を防ぐために、スクールは封鎖。チルズ・ハウスは人数が制限され、多くは保護者のもとにステイする。
ウィルスの陽性患者が何万人という規模になると、スクールはホスピスだけでは収容できない、症状の重い大人のホスピスとして使用される。
トレーニング場の床下は、臨時用の病棟が収納されているので、いざという時は、床が開いてベッドや医療装置がすぐに使える状態で、せり上がって来る。
チルズ・ハウスは、一部を隔離状態にして、感染した子供用の医療施設へと早変わりする。
さまざまな分野の医療技師が召集され、感染医療の研修を受けると、病状の重い感染者がカプセル状のベッドへ転送され、治療が急ピッチで始まる。
その間、無感染や症状の軽い子供達は保護者と過ごしながら、スクールで提示された数多くの学習項目の中から、リモートで自分の勉強したい項目を選択して学習を続ける。
スポーツや文化的な活動の授業は、モアのアプリで参加を許可された希望者が、マスクをするという条件で、許可されている。
マスクで息苦しくならないように、酸素を鼻から体内に取り入れるカプセル装置が、マスクの内側に付いているので、安心して授業に集中できる。
ピコ・マシンが体内の酸素濃度不足をモアに知らせると、すぐに供給を始め、1つのカプセルで1日持つから、マスクをして具合が悪くなることはないようだ。
ただし、そばに近づいただけで感染し、多くの人が重篤化するようなウィルスが蔓延し始めると、すぐにロックダウンとなるので、感染が収束するまで外出も制限される。
それが長引くと、子供達も部屋に閉じこもってばかりで、うんざり気分になりがちだが、自分のやりたいことが見つかっている子供達には、そのことに集中できる期間でもある。
スクールにいると、嫌いな科目も強制的に学ばなくてはならない。リモートは面倒なこともあるが、自分の学びたいことを優先してできることが、この学習の利点かもしれない。
もちろん、感染が治まり、ホスピスの役目が終わると、隅々まで消毒が施され、子供達が安心して戻って来れる、スクールとチルズ・ハウスに早変わりする。
ジヴァ・エリアの子供は、なるべくウィルス感染などを予防するために、軽い食事に、サプリや栄養ドリンクを取ることが基本なので、やせた子が多い。
体格も小さめだが、運動能力は発達しているので、子供同士で気に入らないことがあると、すぐにケンカになってしまう。
気がついた先生が止めようとしても、殴り合いになると歯が立たない。そうなると、スクール内に待機している、エリア警察のパトロール隊員が止めに入って来る。
エリアによって違いはあるが、ジヴァ・エリアでは、子供でもケンカがこじれた場合は、裁判で解決する。
しかも、子供達にとって、もっとも貴重な休日に、子供専用の裁判が行われるのだ。
これは、子供同士のイジメを少しでも減らしたいという気持ちで、休日にボランティアで裁判の仕事を引き受けてくれる人達のためだ。
子供同士がケンカをしてケガをした場合、ホスピスでケガとその原因を特定してもらう。
被害を受けた子供やその保護者が、スクール裁判所にモアで被害の内容を届けると、休日に時間を設定し、裁判用の個室で話し合いが行われ、加害者側に罰が言い渡される。
まぁ、ボランティアで行う子供用の裁判だから、早ければ2、30分で決着するし、反省の態度次第で、罰も軽くてすむ。
例えば、廊下・トイレ・シャワー室の掃除や、幼い子の世話をするスタッフの手伝いなど。
ただし、イジメで相手に相当な精神的被害を与えたとか、殴り合いで大ケガをさせたとか、集団で計画的・組織的にイジメを行ったとなると、本格的な裁判が行われる。
裁判の結果次第では、スクールに戻ることは許されない。
ジヴァ・エリアでは、防犯のために、ドームのいたるところでカメラとボイスレコーダーが作動しているし、パトロール隊員もすぐに駆けつけられるよう、校内を常に移動している。
それでも、裁判を受ける子供は後をたたない。
活発なキラシャは、ちょっとしたことでケンカに巻き込まれることが多く、何度か裁判のお世話になっていた。
同じ年の子供は、他のエリアからの移住者が多く、人種の違いや、生まれの違いによって、子供同士の言い争いが絶えなかった。
とはいえ、キラシャの場合、イジメに遭う友達や年下の子をかばって、イジメの相手を攻めてしまい、ちょっと手が当たって、こけただけでも、ケンカの加害者にされてしまうのだ。
それに、罰としてスタッフの手伝いを言いつけられると、どんな子とも仲良く一緒に遊んでしまうから、キラシャの罰がスタッフの手伝いだと喜ぶ子が多い。
裁判の結果にがっかりしているキラシャが、幼い子供のいる大部屋へ入ってゆくと、「キラシャが来た!」という声が聞こえ、歓声がわあっと上がる。
あまりの歓声に、キラシャも今までのいやなことをすっかり忘れ、仕方がないなぁとテレながら、遊びの中に入って行くのだった。
第1章 未来社会 ④
2021-06-12 16:03:34 | 未来記
2005-01-09
4.未来の教育
ジヴァ・エリアでは、3歳から教育が始まり、6歳までは保育コースで学ぶ。
モアを使って、いろんなゲームで遊びながら基本のルールを学び、規律のある行動を身につけることが求められている。
親に甘えたい盛りだから、先生や大勢の若いスタッフが、それぞれ泣きじゃくる子に付き添い、一緒にゲームで遊びながら、集団生活に馴染むよう奮闘努力をしている。
今でも、保育園での虐待行為がニュースになっているが、未来でも言うことを聞かない子供を“しつけ”という名目で、叩いたりすることはある。
それが問題となって、子供用の裁判にかけられことが多い。
それを防ぐためにも、なるべく裁判の場で、先生やスタッフと、子供の保護者と、お互いの気持ちをぶつけあって、納得できるよう話をして解決できることを目指している。
保護者でも、子供を怒るときは口より手が出やすい。
子供をおどすようなことをしては、度が過ぎると思うが、簡単に言うことを聞かない子をどう導けばよいのか、日々、子供と格闘しながら先生やスタッフは努力をしている。
初級コースの7歳から9歳までは、ドーム社会で働くために必要な基本的知識を学ぶ。仮想の空間で仕事を体験し、実際の仕事場で見学しながらの授業もある。
中級コースの10歳から12歳までは、ドームのしくみを理解する。
ドームで生活するのに必要な設備やさまざまな仕事、働いて得られる給料、税金や保険など、細かく決められたルールを映像の説明を使って、わかりやすく教えられている。
自分達の住むエリアやさまざまなエリアの特徴、他のエリアとの共同事業、未来にはどんな仕事が必要とされるのか、といったことも学んでゆく。
上級コースの13歳から15歳までは、社会人として働くためのマナーを身につける。
卒業すると、進学も就職も関係なく、自分で住む所を決め、部屋の契約をして、家賃を支払わなくてはならない。
今の時代は、まだ親が心配して、子供の下宿を探すことも多いと思うが、この時代では、スクールの卒業=成人とみなされる。
成人したら、日常の行動にも責任のある態度が望まれるので、ルール違反にとても厳しい罰則が与えられる。
それを回避するため、社会にはどんなルールがあるかを授業で学ぶ。
例えば、基本的な権利、最低限の衣食住は、ひとりひとりに保障されていること。
それに対する義務として、ドームの新しいライフスタイルに対応し、その変更や維持に貢献する態度を身につけること。
パートナーや、仕事をするために協力し合う人や、マシンなどに対する暴力行為、人をだまして利益を得るような詐欺行為など。
どんなに無実を主張しても、いたるところに設置されているカメラに映ったその人物の行動を元に警察に立証されると、それを覆すのは難しい。
今は、偽造の映像を作り出して、ニセの証拠を作ることも可能かもしれないが、未来では、厳重に元の映像はプロテクトされ、ニセを疑われた瞬間に削除され、検査が行われる。
さて、自分の罪を認めると、役務を行うための施設に収容される。
施設では、それまでの違反行為を繰り返さないためのプログラムを実行することで、責任ある社会人としての行動ができるよう矯正される。
また、人間関係を円滑にするために、社会的なマナーを学ぶ教科もあり、人との付き合い方も、授業でいろんなケースを取り上げて学ぶ。
自分だったら、トラブルを解決するためにどう対処すれば良いか、クラスの生徒同士が討論し、自分の考えをレポートするといった内容だ。
必要な知識を学んだ後で、その事象が起こった背景や、未来で有効とされるためには、どうしたらよいか、といった考察を生徒同士で意見交換。
その中で自分の考えをレポートにまとめ、モアで先生へ送信する。
だまって椅子にすわって、授業が終わるまでじっとしていればよいという、消極的な態度では、担当の先生は良い評価を与えない。
逆に、意見をたくさん言っても、周りの支持を得られないものでは、先生の評価は低い。
あまり評価が低いと、競争率が高い進学先では、受け付けてもらえない。
評価を上げるためには、授業の前に、生徒同士の意見交換の上手なやり取りをネットなどから学び取り、しっかり準備しておかなくてはならない。
スクールの卒業後は、自分の希望の仕事に就くために、必要な技能や知識を学ぶためのカレッジを選択する。
多くのカレッジは、新しい戦力を育てたい会社・組織・お店が出資、運営に関わっている。
1年~3年くらいの訓練で、合格ラインに到達した学生に対して、採用する側が合否を決定する。
ある特定の資格を得るための研修を含めたコースを2~3ヶ月のみ受講して、合格するとそれを利用した仕事を始めることができる。
医療技師も、新型のウィルスなど、今までなかった病気を治療するために、必要な技術を研修で身に着けると、即実践の現場に投入される。
未来の医療現場では、内科・外科・小児科といった分け方はせず、患者に対して担当医が決まると、専門の分野を得意とする人材をその都度集めて、チームで治療や手術を行う。
カレッジでは、そのための才能を見出し、その技量に応じた教育プログラムが用意されている。
医療技師の免許は、習得した技術の内容や、本人の技術のレベルに応じて評価された数値がナンバーとして付与される。
各分野の技術者も、教育指導者も、同様の内容で免許が与えられているし、その資格は定期的に継続されるかどうか、テストが行われる。
教員の資格は、最初のテストは知識度や技術度が高いことが求められるが、研修で指導方法を試され、適応するコースや科目が決定する。
採用後も定期的に評価を受け、指導不足を判定されると、カレッジで講習を受けて、合格するまで採用はされない。
ドームで働くために求められる技術や知識は、常に新しいものだ。指導する側も、それを身につけるために、働きながら、カレッジを利用して新しい免許を取得し、更新している。
こういうと、未来に先生になる人は、スーパーマンくらいに思うだろうが、今の先生よりはデジタル化が進んでいるだけ、雑用が少ない。
授業で使う映像も、教育局がすべて用意しているので、事前に重要な個所だけを抑えて説明すれば、子供たちの理解度は、感想からAIが解析して評価してくれる。
また、企業に就職するより、自分で起業したいと思えば、起業に必要なことを学べるカレッジに進めばよい。
今のYouTubeなど、ネットで自分の得意なものを紹介して、金稼ぎを目指す若者も、カレッジで登録者数を上げるための内容選びや、表現方法を学んでいる。
他のエリアで働く場合も、そのエリアの言葉や習慣などを学びながら、希望の仕事をマスターできるカレッジで研修を受けることになる。
スポーツや文化活動を職業として、働くための技術を学ぶカレッジもある。
カレッジを終えると、もっと将来を見据えた技術や知識を得るためのラボがある。今の大学院と研究所に該当する。
ルール・ラボもその一つだ。
ルールは、裁判のたびにその意義を問われることがある。裁判の結果を反映しながら、ドームに必要な新しいルールを作成するための資料を提供している。
新しいライフスタイルを開発するための研究も、日々さまざまなラボで続けられている。
その成果を、新しいドーム社会に反映させるために、カレッジで学ぶ内容の指針とすることが、ラボの使命となっている。
カレッジやラボは、スクールを飛び級で進級して来た少年少女から、リタイアして隠居するより社会に奉仕したい老人まで、さまざまな人がいろんな理由で受講・研究する場だ。
ジヴァ・エリアでは、スクール卒業後の学費を、親や保護者が払うことはルールで禁止されている。
スクールは、義務教育なので無償だ。
カレッジ以降は、自分で奨学金を提供してくれる機関に応募して採用されるか、クラウドファンディングで、資金を提供してくれる人の協力を得て、進学しなくてはならない。
それができなければ、自分で働いて資金を得るか、ローンで就職後返してゆくか、資金を提供してくれる恋人を見つけて、就職後に2人で暮らすための生活費に還元してゆくか…だ。
ただ、未来人は
…今もそうかもしれないけれど…
恋愛も早熟だし、結婚といった共同生活など、決して長続きを求めることはできない。
将来の生活のためにと思って、恋人のカレッジの学費を出したのに、相手は就職が決まるとさっさと別れを切り出して、資金を返してくれないという残念な話も多い。
こういった人間の習性に、教育側が歩み寄るべく、出会いと別れが、もっとも適切に行われるように、スクールの上級コースで恋愛学を必修科目として履修する。
もっとも、ラブラブなおしゃべりや、それ以上のことを想像している君には申し訳ないが、そうではない。
むしろ、お互いに選び合った相手と、一緒にどれだけの困難を乗り越えられるかといった課題があり、それに対して、お互いが協力できたかといった評価も成績に関わる。
だから、自分のことだけでなく、相手のことも常に考えないといけないので、この単位を修得するのは、決してラクではない。
この教科で、どれだけお互いのことを思い合って、共に幸せを目指すための行動ができるかといった経験
…時には、逆に苦くてつらい経験もあるが…
それをひとつひとつ積み重ねることで、社会人になってからの、実際の恋愛に役立てる目的で導入された。
今も、男女を区別しないジェンダーが増えているが、未来においても、自分の身体の性と心の性が違うなど、男女の区別を拒む子供達は多い。
恋愛学も、性の違う相手を選ぶ必要はなく、恋愛の対象となる人と一緒に、いろんな体験を積み重ねることで、相手を大切な存在として、接するようになることが教育の目的なのだ。
スクールでは、恋愛学や生徒が個別に選択する授業は午後に行い、子供達が社会で生活するのに必要な授業を午前中に行っている。
まず、宇宙へと発展し始めた未来人には、世界中で通じるコミュニケーションをマスターする義務がある。
未来のコミュニケーションは、先生がヒタイに汗して、生徒に文法や単語を覚えさせようと躍起になる必要はない。
暗室にした学習ルームで、自分のレベルにあった会話を選択して、ヘッドフォンから流れてくる音を聞き分けて、言葉を脳に記憶させる。
それが終わると、マイクを通じて発音練習。各席に設置してあるマシンが採点して、アドバイスをしてくれる。
生徒はテストのたびに、自分の成績を先生に送信する。
先生はAIが評価した生徒の成績を元に、生徒の進路や悩みの相談にのっている。
キラシャのように、授業中も意識がボーっとどっかに飛んでいる生徒にも、目が離せない。
また、地球を含めた銀河宇宙に関する授業は、単元ごとに専門分野の先生が担当。映像を見せながら、詳しい内容を説明、生徒が理解できたかどうか、テストでAIが成績を判定する。
他の科目も、生徒は先生の説明を受けた後で、自分に合ったレベルのテストを受け、AI
がレベルを判定して、次の授業の内容を決定する。
エリア言語や共通語の学習、ルールや社会の基本的知識に関する授業は、必修で、短い時間で集中して行われる。
計算問題に関しては、ただ答えが合えばよいのではなく、どうやって答えを導くか、これを解くことで、どういった問題の解決に役立つか、という理解の仕方も、テストされている。
生徒はテストを受けるたびに、自分の成績レベルを、各自に与えられたノート用のマシンや、モアで確認する。
しかし、レベルが高いほど周りに威張れるとか、自慢できるかというと、そうではない。
なぜなら、スクールを卒業してから、希望のカレッジへ行くために、必要な単位さえ取れたら、良いのだ。
ヘタに高得点を取り続けると、同じクラスの仲間から、飛び級したいのかと疑われ、かえって仲間はずされやすい。
この時代にも、授業が物足りなくて、飛び級して早くカレッジへ進もうとする生徒がいて、周りからのやっかみや、イジメを受けることが多いのだ。
また、キラシャが時々思うように、下級生と一緒に勉強がしたいなという子供もいる。
早い話が…落第だ。
キラシャは、運動機能は男の子にも負けないくらい発達しているのに、計算問題や知識問題は大の苦手だ。
問題を考えていると、なぜだか途中でまったく関係のない、とんちんかんなことを考え始めて、間違った答えを選んでしまうのだ。
第1章 未来社会 ⑤
2021-06-10 14:14:25 | 未来記
2005-01-11
5.未来のスポーツ
キラシャと幼なじみで仲の良いタケルは、キラシャより一足先に11歳を迎えた。
彼は、ジヴァ・エリアで流行っているパスボー・ゲームの主力選手でもある。
午後の授業は、スポーツやミュージック、アート、科学実験など、生徒が希望する講座を選択して受講する。
タケルは、時間が許される限り、スポーツの時間と、その後夕食まで行われているクラブ活動の時間、ほとんどをパスボー・ゲームのために使っていた。
この未来のスポーツ、パスボー・ゲームは、1チームの出場者が6人。監督の指示で何度か選手交代が行われる。
天井の高さと横幅が同じ球型の壁に囲まれた、すべてがコートとして競技を行う。
コートの中央から上下25度線までは、周りを強化ガラスで覆われ、観客はその外側に設置してある観客席から応援する。通気穴からは、選手の熱気も伝わって来る。
試合が始まると、球状のコートの天井にポツンポツンとある穴の、どこから飛び出してくるかわからないボールを追い、先に取った方が、先攻で主導権を握る。
空中に浮くスケボーに乗り、球状のコートの中をグルグルと移動しながら、金色に光り輝く小さなボールを追いかける。
ボールを奪ったチームの味方同士が、ラケットを使ってパスを繰り返しながら、ゴールへ。
ゴールは、コートの中央に浮いている、四方八方に穴の開いた、サッカーボールを大きくしたようなカゴの中に入れば、5点。
カゴの中にボールが入ったとたんに、
ゴーォォォ―ル!!!のアナウンス
同時に、ボールを入れたチームの選手がスポットライトを浴び、シュートした選手の指定したテーマ曲が場内に流れる。
カゴは常に上下左右に移動しているので、移動先を考えに入れながら、シュートを決めなくてはならない。
観客前の強化ガラスの面にも、開いたり閉じたりしている、小さな穴があって、これにボールをたたき入れると、2点の追加。
ゴーォォォ―ル!!!というアナウンスは、真ん中のカゴへのゴールより、ややおさえめ。
だが、ボールが入った穴の周りがピカピカと照らされ、入れた選手にもスポットライトが浴びせられる。
このゲームは反則にも厳しい。相手が故意にぶつかって来たら、抗議をすると、すぐに3Dホログラムのビデオを再生して判定される。
反則した方が、3点の減点。ラケットで殴ったとなると、6点の減点と退場。
選手は、コート面の小さな穴か、中央の空中にさまようカゴをめがけて、ボールをラケットで変化させながら
シュ~~~ト!
時には、激しいボールの取り合いで、ケガ人がホスピスへ運ばれることも・・・。
ヘルメットやサポーターを身につけていても、ぶつかる衝撃で選手はアザだらけだ。
試合が白熱しすぎて、両チームが入り混じり、殴り合いのケンカになることだってある。
前半15分と、5分の休憩をはさんで、後半15分の短い時間で勝負が決まる。
空中での回転ジャンプとパスを繰り返し、ゴールの動きに合わせて自由自在に動きまわり、絶妙なタイミングでシュートを決める、パスボーのプロチーム。
アニメ・宇宙船艦ヤマトの主題歌を、自分のテーマ曲に指定しているタケル。
自分もプロのチームに参加して、新たな得意技を編み出して、観客を思いっきり沸かせるシュートでこの曲を流してみたいなぁと、ずっと夢に見ていた。
パスボー・ゲームは、他のエリアでも流行っているゲームなので、モアで、いろんなエリアの試合が観戦できるし、ステーション広場でも巨大な3Dホログラムで楽しめる。
熱烈なファンは、やっぱり熱戦を直接肌で感じるのが最高だ。
パスボーの会場では、アルコール入りのドリンクを片手に、敵同士がお互いの選手をなじっては、自分のお気に入りのチームを応援する。
ボワンっと空気を切るような勢いで、スケボーをあやつり、目の前を通り過ぎる選手達。
酔いがまわった観客からは、遠慮なしにヤジが飛んで来る。
「もっと、早くボールを取れ、バカやろー」
「おまえのせいで、点取られたじゃないか、このアホが!」
そんなヤジに、選手はチェっとつばを吐き出して、必死でボールを追いかける。
大人の激しいスポーツも観客を魅了するが、子供の小さくて、すばしっこい動きも、パスボーを愛するファンにとっては、たまらない魅力だ。
医療技師をしているタケルの両親も、激しいスポーツに熱中している我が子を心配しながら、試合会場へと駆けつけた。
チームの中でもシューター№1として、監督からもっとも信頼されているタケルは、試合のたびに、応援する女の子を増やした。
チアガールも応援に駆けつけ、悲鳴に近い声でタケルの名を叫び、他の選手の負けん気を誘った。
しかし、タケルは相手チームの隠れた反則行為や、観客のヤジにもまったく動じることなく、冷静にチームの得点を加えた。
大事な試合に勝った夜は、家族でレストランへ行き、楽しく話しながら団らんを過ごす。タケルにとって、それが幸せなひとときだった。
第1章 未来社会 ⑥
2021-06-09 12:24:00 | 未来記
2005-01-14
6.小さな恋
タケルとキラシャ。
パスボーのヘルメットをはずした時、キラッと目が光るのが印象的なタケルは、端正な顔立ちで、応援する女の子を魅了する。
キラシャの方は、生まれたころはふっくらして、少女らしい顔立ちだったが、厳しいトレーニングのせいか、年々、顔つきも男の子らしく成長している。
2人は、初級コースのころからずっと同じクラスで、時には言い合いのケンカもするけど、勢いあまって絶交しても、気がつくと前よりずっと気持ちが通い合っている。
水中に潜ったり、走ったりすることには男子にも引けを取らないキラシャだが、ボールを使ったスポーツは苦手なので、パスボーに関しては、タケルにかなわない。
タケルの出場するゲームには、キラシャが手作りの旗を持って大声で応援をすることもあるが、タケルには、いい迷惑だったりして、それがケンカの原因なのだが・・・。
それでも時々、お互いに機嫌がいい時は、タケルの家族とキラシャの家族が一緒に食事をしていた。
まだ10歳のキラシャに、恋愛という言葉は早すぎるかもしれないが、タケルには、他の男の子にはない、赤い糸のようなものを感じていた。
もしも、2人とも一緒に上級に進級したら・・・
・・・ここで、“もしも”という言葉を使うのは、
2人とも勉強が苦手で、ヘタをすると進級テストに落第する可能性もあるからだ。
恋愛学のパートナーは、タケルだけ・・・。
キラシャは口には出さないものの、心の中でずっとその気持ちを温めていた。
義務教育だが、未来の教育は今より厳しい。
特に中級コースからは、進級テストで合格点に達していないと、再テストを受けなくてはならない。それでも、合格した科目が必要な単位数ないと、留年だ。
授業だけで理解できない子は、土曜日も補習を受けているが、試験が近づいてくると、子供達は平日の夜も自主的に勉強に取り組んでいる。
キラシャとタケルも、自分の成績に危険信号を感じてからは、仲間と一緒に広い食堂の一角を陣取って、肩を寄せ合って勉強を始めた。
しかし、パスボーの練習でほとんどの体力を使い果たしているタケルは、しばらくすると、キラシャの肩を借りて眠り始める。
はっと気づいたキラシャは、照れ隠しに周りの仲間に「やだね~」と言って、タケルを起こそうとするが、皆あわててそれを止めた。
仲間はみんな、キラシャの気持ちに気づいているし、タケルが疲れていることも良くわかっている。
2人をかばおうとしてか、タケルのパスボーチーム仲間のケンが、口をはさんだ。
「タケルはだいじょうぶだよ。こいつは、ヒーローなンだ」
子供達は、お互いの口に人差し指をあてて、静かに勉強を続けた。
自分の肩で熟睡しているタケルに、誰より頼られていると感じるキラシャだったが、決してライバルがいないわけではない。
タケルに群がってくる女の子は多いし、そんな彼女らに、タケルの方も顔を赤らめながら話していることもある。
特に、同じクラスのマギィとジョディは、チアガールの中でも目立つぐらい、タケルの応援に力を入れていた。
タケルに関しては、女の子らしいジェラシーを感じるキラシャだったが、一方でタケルの様子がおかしいことにも気がついていた。
パスボーの練習を休んだ日。一緒に勉強しようと言ったら、用事があるからといって、プイッとどこかへ行ってしまった。
担任のハリー先生には、何やら相談をしているようで、秘密の話があるらしい。
いつもならキラシャがそばへ行くと、すぐに振り向くタケル。
いきなり後ろから肩をたたくと、びっくりして無茶苦茶に怒り出した。
そのくせ、遠い目をして、悲しそうなため息をついている。
『どうして? 』
『何があったの? 』
目が合えば、お互いすぐに分かり合えたのに・・・。
タケルが試合に出なくなったせいで、タケルのそばに群がる女の子も減ったが、そのかわり家族同士の食事もなくなってしまった。
このままタケルが、どんどん遠くに離れて行きそうな予感がして、キラシャの不安は募るばかり。
そんなある日、タケルが休んだ学習ルームで、ハリー先生が突然こんなことを告げた。
「タケルは、家庭の事情で火星へ移住することになりました」
学習ルームは、騒然となった。ハリー先生は、皆が静まるのを待って、話を続けた。
「急なことでびっくりしていると思うけれど、旅立つ彼のことを応援してほしいと、先生は願っています。
火星へ出発したら、少し長い旅になるから、メールが送れるよう宇宙船のことは確認を取っておきます。
出発するまで、1週間ありますが、タケルのことはそっとしておいてあげてください・・・」
キラシャの顔がスーッと青ざめ、そんなキラシャをケンが心配そうに見つめた・・・。
第1章 未来社会 ⑦
2021-06-08 11:15:20 | 未来記
2005-1-16
7.ルール
ジヴァ・エリアのルールについて、もう少し補足しておきたい。
ジヴァ・エリアにおいては、精子と卵子を結合させることで、人類の遺伝子を継承してゆく。
この両性の保護をエリアの基本ルールに定めている。
今も、男女の性の違いが、いろんな場面でストレスに感じる人も多いが、未来でも、男性と女性のカップルだけが認められているわけではない。
いろんな事情で2人の子供が欲しくても、それをかなえることができないカップルも多い。
そのため、人工子宮バースが社会的に認められるようになり、希望者にはバースを使って子供を出産することが可能になった。
ドームの管理局に申請し、許可を受けると、遺伝子を2人で選択し、医師の指導に従って、バースを使用する。
バースは人工の卵巣で、受精した卵を注入すると、子供がその中ですくすくと育って行く。
ドームの人員が無計画に増加してしまうことを防ぐため、先進エリアでは、このルールが採用され、推奨されていた。
ところが、このルールは大流星群到来の混乱によって、無効状態に陥り、バースを使わない女性の出産が相次いだ。
キラシャもそうして生まれた女の子なのだ。
バースを使って生まれたレベルAの子供より、管理がしにくいというレベルDの評価で、データバンクに記録されている。
人口管理は、どこのエリアにとっても、重要な政策課題だ。
若い女性には、毎月生理がある。好きになった人との愛の結晶として、子供を授かりたいと願う女性には、ホスピスで医師の指導プログラムに従って、子供を産むことも可能だ。
ただ、隕石衝突による社会の混乱で生まれた子供達への、増加する教育費が財政を圧迫し、出産に関するルールは年を追うごとに、厳しくなっていた。
人類最大の危機に、人々に生きてゆくための協力を求め、困難に立ち向かう勇気を促した、コズミック防衛軍・臨時最高指揮官のエリック・マグナー。
しかし、彼は新たに選出されたコズミック・ユニオンの議長によって、ドーム社会に多大な損害をもたらしたと訴えられた。
エリアの治安維持の要請を軽視し、ドームの破壊活動を押さえようとしなかったためとか。
そして、ユニオン警察によって拘束、裁判によって名誉を剥奪されたばかりか、地球から遠い宇宙ステーションで、刑務に服しているといううわさも…。
時々、エリアのあちこちで話題に取り上げられることはあっても、彼がどこでどう生きているのか、もう死んでしまっているのか、知る由もない。
さて、この物語の未来の人々は、決められたルールのもとで仕事を分担し、与えられた任務を果たすと、TIMという単位でお金を受け取る。
これは、どのエリアにも流通しているマネー単位だ。
毎日、働いた内容に応じた額のTIMが口座に振り込まれ、それから購入代金、光熱費、家賃、食事代、各種保険や税金などが引き落とされる。
ドームの住民は、毎日モアを見て、TIMの残高と、今後の収入のシミュレーションを確認しながら、旅行・デート・趣味・買い物等のプランを立てている。
未来でも、ネットのお店のサイトやアプリで、ポイントや**PAYは使えるが、ある日いきなり使えなくなったり、残高が消えたりという事故・事件が起きやすい。
ポイントや**PAYをうまく使いこなす人達も多いが、どのエリアでも使えて、セキュリティが保障されているTIMに換算した方が安全なので、それが主流になっている。
ドームの維持に必要なものは、生活管理局が監視していて、ドームに運ばれてくる新鮮な空気、水やエネルギー、必要な物資の供給などを一手に引き受けている。
ドーム内のクリーニング、排水溝・空気溝・ゴミ処理の管理まで、多くの住民が生活管理局の補助員として、その仕事の一端を担う。
エリアの住民の秩序や、安全を守るために、常に監視を続けるエリア警備隊員は、パトロール隊員と呼ばれている。
危険物の扱いや、凶悪な事件には、主にロボットやマシン人間が担当。危険の予防として、人間が身を守るためのスポーツや武術などの指導も行い、施設のパトロールをする。
カッコいい制服を身につけたパトロール隊員は、スクールやチルズ・ハウスの中も、定期的に交代で移動する。
彼らは、ドーム内をくまなくパトロールして、治安の維持やルール違反をチェックしているのだ。
ゆるキャラや人気キャラクターのロボットも、パトロールのために通路を移動している。
ロボットは、ドーム内の様子を撮影しながら、事件・事故が近くで起きたと認識すると、第一報を発するのが仕事だ。
普段は、子供達のアイドルとして、人が集まる場所で得意技を見せ、子供と一緒に映した写メールを送ったり、手を取り合ってダンスを楽しんだりしている。
大人は笑うかもしれないが、子供にとっては、自分がその日にどんなロボットと出会って何をしたかが、チルズ・ハウスでの、自分の格付けに関わる重大な問題なのだ。
先進エリアでは、人間がマシン化する技術も発達しているし、エイリアンと共存しているエリアもあるが、このエリアでは、“人間”をもっとも尊重している。
ロボットも身体がマシン化した人間も、ドームの生活には欠かせない存在なのだが、マシンやエイリアンは、人間より地位の低いものとして、システムが成り立っている。
しかし、尊重すべき“人間”同士のイジメや犯罪は、なくならない。
だから、裁判が欠かせない。
ジヴァ・エリアの住民も、裁判の裁判員として、参加することが義務づけられている。
裁判員は管理局から任意に選出されるが、未来の裁判では、事件に直接関わる人以外は、裁判の行われる場所に拘束されることはない。
裁判員は、裁判所が指定したブースで、モアで裁判の進行を確認しながら、裁判員同士が、顔を見せずに意見交換できる。
自分の意見は、求められた時間までに、担当の裁判官へモアで送信すれば良いのだ。
ただし、裁判に関する情報が漏れることを防ぐため、裁判中の裁判に関する投稿などは、禁止している。これに違反すると、重い罰則が与えられる。
裁判員になった人は、その裁判で提供された資料をすべて確認し、それについての考えを裁判官に送信しなくてはならない。
また、慎重に筋の通った意見を送って、有罪か無罪かを判定し、その裁判の責任を果たさなければ、ルールに違反したときに、罰則のレベルが上がることもある。
ルールや判決の内容に異議があれば、ルール・ラボに対して、意見をメールで送信することは可能だ。
また、管理局側のルール違反が発生すると、ドームの住民から厳しい意見が集中することもあるので、そのための裁判は、厳重な監視の下で行われている。
それから、ドームに住む人達の権利として、スクールを卒業すると、政治活動が認められ、投票権も与えられる。
ドームの代表者や議会委員が、どういう仕事をしているかを学ぶ、特別な授業も用意されている。
スクールでドームがどのように管理されているとか、そのための運営方法などの知識や、考え方を学んでいるので、政治家を目指す若者も多いし、投票に対する関心は割と高い。
ドームの運営は、ドームで働いている住民や企業からの税金や寄付金と、多くはドーム債の発行によってまかなわれている。
税金や寄付金は、それを支払った人々への還元が優先される。
だから、ドーム債をいくら発行できるかというのが、多くの財政問題を解決するための最重要課題だ。
ただし、ドーム債の発行限度を引き上げるには、エリア内外の格付けの評価が高くなければならない。
そうでないと、資本家や、個人投資家が購入してくれないからだ。
もっとも、ドーム債を購入するのは金融機関が多く、その資金を提供しているのがドームを運営するエリア政府。つまり、ドーム債=エリア政府の借金なのだ。
災害や疫病などの発生による経済の停滞を防ぐため、多くのドーム債を発行せざるを得ない場合もある。
各エリアで年々積み重なるドーム債の膨大な発行量が、未来社会への過大な負担となっていた。
エリア政府の借金は増える一方なので、借金を膨大に抱えた政府が、それ以上のドーム債の発行ができないと、そのエリアのドームの住民は生活を維持できなくなってしまう。
そこで、コズミック・ユニオンの経済安定機関(ESO)にエリアの代表が集まり、何度も話し合った末に、TIMをユニオン銀行が統一通貨として発行することになった。
この通貨TIMは、発行されたドーム債を回収する目的で、各エリアに配分される。
その配分の指標となるのも、エリアの格付け評価だ。
コズミック・ユニオンのESOでは、すべてのモアからの情報をビッグ・データとして解析が行われ、評価の格付けを日々行っている。
例えば、他のエリアとの間の取引の量、技術のレベル、取引内容の広域的な重要度、ドーム内外からの住みやすさの評価。
それに、エコレベルの高さ、安全度などの評価がポイントとなって、その結果が公開される。この格付けが低いと、そのエリアの政府は貴重な資金を得られない。
そこで格付けの低いエリアの住民達は、新しい政府を担う人達を選挙で選び、新しいライフスタイルを取り入れることで、格付けアップを目指すことになる。
ただし、新たに発行されたTIMは、ESOがその使い道を監視しているので、政府内部の裏金として、次の選挙活動のために使われると、すぐに没収されてしまう。
日々、TIMマネーの流れは、コズミック・ユニオンのセキュリティ管理部門が、すべて把握し、コントロールされている。
このESOでは、エリア同士の債権債務問題による、トラブルを回避するための会議も行われている。
例えば、債務超過のエリアにおいては、債権エリアに返済できるよう、世界で認められつつある新しい技術に貢献するような、資源や施設が確保できるかを調査する。
該当するものがあれば、その技術が発展するための、補助的な技術を他のエリアからも提供できるよう、会議で話し合うのだ。
未来の技術は、日々進歩している。
会議で行われる専門的な技術の説明に対応するため、各エリアから、会議に必要な技術に熟知した科学者の参加を求めている。
彼らは、経済的な知識も身に付けた上で、一つのエリアの利害だけにとらわれず、より地球や宇宙に貢献できる技術を開発するための努力を惜しまない、尊敬すべき人達だ。
自分や自分のエリアの利益だけを考えると、技術の詳細は秘密にした方が、格段に儲かる。
しかし、この会議に出席する彼らは、まず技術の平和的利用を優先して、戦争に使われることのないように、という配慮から参加している。
例え、その技術がどこかで漏れることによって、戦争に利用しようとしても、すぐにそれを上回る技術を習得したコズミック軍が駆使して、応戦できるシステムを目指している。
これが、コズミック・ユニオンのESOが果たす、役割でもある。
未来の新しい技術であるモアやボックスも、このESOでの各エリア間の技術提携から始まったものだ。
ドーム内は、モアの操作とボックスであっという間に移動できるが、この技術も完全ではない。
転送の危険を防ぐために、他のドームへの移動はコメットという、未来の超高速リニアカーを利用する。
この乗り物も、あっという間に次のステーションにたどり着く。
他のドームへと移動する人々が、コメットに乗るために大勢集まるステーション街。
街の通りでは、華やかな衣装をまとったファッションモデルが、さわやかな香りとともに、歩きながら新しいライフスタイルを提案する。
そんな幻想的な3Dホログラムが、街の中を移動しながら、人々の目を楽しませ、憩いの場を提供していた。
このお話は 2004年から Gooに投稿していた作品で 途中ずいぶん ほったらかしにしていたこともありました。
その間に コピーして 他の作品に 使っている人がいるかもしれません。
内容があまりに似ている作品をお見かけの際は、作品名と作者名をコメントでお知らせください。
また 未来のスマホの名称を 以前はMフォンにしていましたが ”モア”と名付けました。
キラシャの住む MFiエリアは ジヴァエリアに変更しています。
他にも 変更箇所が 統一されてないことにお気づきの方は コメントでお知らせください。