表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第1章 サリア

 サリアが暮らしているのは、森と山に抱かれた小さな村だ。

 家々は木と石でできた素朴な造りで、朝はパンの焼ける匂いと教会の鐘で一日が始まる。道端にはヤギやニワトリが歩き、子どもたちの笑い声が聞こえる。


 教会の裏の小さな部屋が、サリアたち孤児の住まいだ。

 神父さまは温厚で、育ての親のような存在だった。

 孤児院には、サリアの他に、二人の年下の子たち―元気いっぱいなテオと、少し泣き虫なリナの兄妹。

そして、同い年で面倒見が良くて、食いしん坊のアオがいる。


「サリアねえ! 見て! 虫とれた!」

「うわっ、テオ、それはポケットに入れちゃダメ! リナが泣いちゃうでしょ!」

「泣かないよ」


 サリアは2人の頭をなでた。彼女は2人のことが本当の弟妹のように大好きだった。

 


 朝ごはんの時間になると、神父さまが焼きたてのパンを切り分けてくれる。

 外はパリッと、中はふわふわ。香ばしい匂いに、子どもたちの目が輝く。


「お祈り忘れちゃだめだよ」

「いただきます! ……あ、リナ、ほっぺにジャムついてる」

「テオ、食べながらしゃべらない!」

賑やかですこし騒がしい。サリアにとって、なによりも幸せな日常だった。


 食後、テオが庭で転んで怪我をして、リナが慌てて絆創膏を持ってくる

 サリアは膝を拭いてやりながら、ふと空を見上げた。今日もいい天気。

 そのとき、リナの顔が少し赤いことに気づく。


「……リナ、ちょっとおでこ熱いね」

「うん……すこし、寒い……」


 胸がざわっとした。

 風邪かもしれない。いつものことだ、森に薬草を取りに行けば治る。

 でも、そのときのサリアは知らなかった。家族と離ればなれになるなんて。


「森で薬草を摘んでくる」

「森に行くなら、僕も一緒にいくよ」

「ありがとう。アオ」

「ぼくも行く!」

「テオはリナのそばにいてあげて」


 そう言って、そっとリナの髪をなでた。

 その横で、神父さまがやさしく声をかける。


「サリア、アオ、気をつけて行っておいで。アオはサリアをしっかりと守ってあげるんだよ」


 ふたりはうなずいた。森に行くのは珍しいことじゃない。

 けれど、その日は違った。

 森の奥で、待っていたのは――氷のように冷たい、別の世界への扉だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ