ディーラーしか勝たん
それから数日後――
サンライズシティのゴールデン・フェニックス。煌びやかなフロアの一角で、キャッサリーンは黒を基調とした制服に身を包み、少し緊張した面持ちで立っていた。胸元には、まだ「見習いディーラー」の札がついている。
「背筋をもう少し伸ばして。お客さまに自信を見せるのも、ディーラーの仕事よ」
落ち着いた声でそう指導したのは、先日キャッサリーンを惹きつけたディーラー・エミリだ。近くで見る彼女は、やはり堂々とした雰囲気を纏い、完璧な所作でカードを操っている。
「は、はいっ……!」
キャッサリーンはぎこちなくも背筋を正し、テーブルに両手を置く。
「まずはシャッフルからね。指先を柔らかく使って……そう、親指でカードを少しずつ送るの」
エミリはお手本を見せながら、カードを滑らかに弾き、一瞬で山を整える。その一連の動作には芸術のような美しさがあった。
「すごい……こんなに綺麗に扱えるなんて」
「慣れれば自然にできるわ。でもね、ただ技術があるだけじゃ足りないの」
エミリは穏やかな笑みを浮かべる。
「ディーラーの一番の役目は、お客さまに楽しんでもらうこと。ゲームの進行役であり、舞台の司会者でもあるの。だからこそ、姿勢も言葉遣いも大切になるのよ」
キャッサリーンは真剣に頷く。
「わかりました……!」
その後も、ディーラーとしての基礎――カードの扱い、チップの受け渡し、ルーレットの回し方などをエミリは丁寧に指導していった。キャッサリーンの動きはまだぎこちないが、彼女の瞳には学びたいという強い意志が宿っている。
「ふふ……やる気があるわね。数か月もすれば、お客さまを魅了するディーラーになれるわ」
エミリは優しく微笑むと、キャッサリーンの肩を軽く叩いた。
「さ、今日は研修だけ。だけど明日からは実際のテーブルで見習いとして立ってもらうわよ」
「はいっ!」
キャッサリーンの声には、奈落で生き抜いた強さと、新しい世界への希望があった。
その様子を少し離れた場所で見守っていたイグニスは、ほっとしたように微笑み、小さく呟いた。
「……よかったな、キャッサリーン」
こうして彼女は奈落を越えた戦士ではなく、一人の新人ディーラーとしての新たな第一歩を踏み出したのだった。




