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奈落の果てのギャンブラー!  作者: 黒瀬雷牙
東の島国編(2)
44/50

完全なる決着

 「それは卑怯だろ」


 どこからともなく、低く響く声が場を裂いた。


 銃を構える吉岡の手下たち、血の気が引いていく。振り向いた瞬間、彼らの視線は一点に釘付けとなった。


 暗がりから姿を現したのは、情報屋・榊――いや、その正体を知る者にとっては背筋が凍る名だ。この街の裏社会を牛耳る狼血党(ロケット)のボス。


 「さ、榊……!」


 吉岡の顔面が蒼白になる。先ほどまでの虚勢が、風船がしぼむように崩れ去った。


 榊は煙草に火をつけ、静かに煙を吐き出す。


 「俺の街でイカサマは許さん。カジノの空気を汚すなら、粛清あるのみだ」


 次の瞬間、榊の部下たちが影のように現れ、吉岡の取り巻きを無言でねじ伏せていく。悲鳴と銃声が交錯する中、イグニスは隙を見逃さなかった。


 「――覚悟しろ」


 炎のような瞳で吉岡を睨み据え、拳を叩き込む。

 鈍い衝撃音と共に、吉岡の身体は床に叩きつけられ、口から呻きが漏れた。


 「今回はもう許さん」


 低く響いたイグニスの声は、雷鳴のような圧力を帯びていた。その圧に耐えられず、吉岡は顔を引きつらせ、情けなくも失禁する。周囲は凍りついたように静まり返り、ただ彼の呼吸音と滴る音だけが響いた。


 榊は一瞥すると、鼻で笑った。光と闇が入り混じるカジノの一角で、覇者たちの力関係が改めて刻まれた。


 吉岡は、もはや戦意など残っていなかった。榊とイグニス、二人の影に押し潰され、へたり込んだまま失禁している。榊の一瞥だけで、背筋を凍らせるには十分だった。


「くだらねぇ…お前にゃ用はねえ。消えろ」


 榊の冷たい声に、吉岡は何度も頭を下げながら這うように退場していった。それは、この街からの完全な追放を意味していた。


 場が静まると、榊は懐からイグニスに渡していた金の証書をちらりと見せる。


「さて、貸しは……きっちり返してもらうぜ」


「ああ」


 イグニスは一切の迷いなく、きちんと金を返した。

 榊は口の端をわずかに吊り上げると、背を向ける。


「またな。面白ぇ奴は、またどこかで会うもんだ」


 その言葉を最後に、榊の姿は闇に溶けるように消えた。


 カジノを後にして外に出ると、既に榊の手下である青木が黒塗りの車を準備していた。後部座席の窓には、ロマーリオとルルイジーニの顔がのぞいている。


「お疲れ様でした」


 青木が恭しくドアを開ける。イグニスが乗り込もうとしたその時、背後から必死の声が響いた。


「待って! わたしも……連れて行って!」


 振り向けば、キャッサリーンがいた。まだ震えが残るその顔には、恐怖と同時に、どこか吹っ切れたような決意が浮かんでいる。


 イグニスは一瞬だけ目を細め、それからそっけなく答えた。


「好きにすればいい」


 その言葉に、キャッサリーンは深く息をつき、覚悟を決めたように車へと乗り込む。こうして、思いがけぬ仲間が加わった。


 車が夜の街を滑るように走り出す。

 後部座席ではロマーリオが、隣に座るキャッサリーンをちらちらと盗み見ていた。


「なぁ、キャッサリーン。お前、どんな男がタイプなんだよ?」


 軽口を叩くように、しかし目は真剣そのものだ。


 キャッサリーンは、はっとして頬を染めた。視線を落としたまま、ちらりとイグニスの方へ。


 ロマーリオはその一瞬を見逃さなかった。


「……おいおい。やっぱりそうか」


 にやりと笑いながらも、イグニスは気にも留めず窓の外を見ている。


 こうして闇カジノでの騒動を終えた一行は、予想以上の荒稼ぎを果たした。だがイグニスにはまだ、この国でやり残した“勝負”があった。


「次は……オートレースだ」


 サンライズシティに帰る前に。

 己の運と勘を試す最後の舞台を求め、イグニスたちは新たなギャンブルへと向かっていく。


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