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奈落の果てのギャンブラー!  作者: 黒瀬雷牙
東の島国編(2)
43/50

命がけのカブ

 ライトニングルーレットの熱狂が収まり、場内がざわめく中。

 吉岡は冷静にイグニスを観察していた。


(……あの野郎は化け物だ。仮にここに百人以上揃えても、勝てるわけがない)


 だから吉岡は無理に手を出さず、笑みを浮かべながらイグニスの前に歩み寄った。


「なるほど……イグニス、さすがだな。ルーレットで俺の女を奪うとは」


 イグニスは表情を変えず、吉岡を見据える。


「……何がしたい」


 吉岡は低く笑い、キャッサリーンの腕を掴む。

 彼女はイグニスが出会ったばかりのディーラー…しかし、イグニスは迷わず彼女を守る決意をした。

 ただの他人だ。しかし、困っている者を見捨てることはできない。


「お前に選択肢は二つだ。ギャンブルで勝つか、女を失うか。負けたら、全てを奪う。使うのは……トランプのカブだ」


 カブ――交互にカードを引き、数字の大小で勝敗を決める心理戦のゲーム。


「……なるほど、遊びか」


 イグニスは静かに頷き、手を組む。

 重要なのは、キャッサリーンを守りつつ、吉岡の全てを奪うこと。負ける選択肢は存在しない。


 吉岡はトランプをシャッフルしながら、余裕の笑みを浮かべる。


「さあ、始めようか……イグニス。お前がどれだけ化け物でも、この心理戦は俺の土俵だ」


 場内の空気は一気に張り詰める。

 イグニスと吉岡。因縁の二人の心理戦が、今まさに幕を開ける。


…………

陽死愛乱怒(ヨッシーアイランド)闇カジノ ― ハウスルール(オリジナル)


1.親の配布

・親はテーブルの四箇所にカードを2枚ずつ配る

・1枚は表向き、もう1枚は裏向き


2.子の賭け

・子は四箇所のうち一箇所を選び、賭け金を置く


3.カードの公開と選択

・賭けた箇所の裏のカードを見て、さらに1枚引くかどうかを決める


4.勝敗判定

・親のカードに勝てば掛け金分の賞金を獲得

・負けた場合は賭け金を親に支払う


特別ルール

【9.1(くっぴん)/4.1(しっぴん)】

・親の「くっぴん」カード、子の「しっぴん」カードは自動的に勝利

・親・子ともに同時なら引き分け

【嵐】

・3枚同じ数字の組み合わせ

・くっぴん/しっぴんより強く、配当は3倍

大嵐オリジナル

・9枚同じ数字の組み合わせ

・配当は9倍

…………


 吉岡は余裕の笑みを浮かべ、テーブルの四箇所にカードを配る。

 表向きのカードと裏向きのカード。陰影のコントラストが、場内の緊張を一層引き立てる。


「さて……最初は軽く様子見といこうか」


 吉岡はキャッサリーンを抱えつつ、イグニスに声をかける。その笑みは余裕を装うが、内心ではイグニスの化け物じみた強さを知っているため、武力には出られない。


 イグニスは冷静にテーブルを見据え、手元のチップを握る。


(……お前の癖も、手の内も、全部見抜く……だが、キャッサリーンには手を出させない)


 まずイグニスは、四箇所の表カードを慎重に確認する。表向きのカードは吉岡の心理を映す鏡だ。どの箇所に大勝負を仕掛けるか、どこを避けさせたいか微妙な配置の意図が、わずかな動作に表れる。


 イグニスの目は鋭く、過去の経験を呼び起こした。

 かつてルルイジーニを人質にされた時も、相手の心理を読み切って切り抜けた。

 今回も同じだ。吉岡が人質を盾にして焦らせようとしても、その思惑を逆手に取る。


 第一ラウンド――

 イグニスは慎重に一箇所を選び、賭け金を置く。裏カードを確認した瞬間、彼の眉がわずかに動く。


 吉岡は無意識に手元のカードをわずかに動かす。その瞬間、イグニスはすぐに気付いた。

 この微妙な癖、賭けさせたい箇所を強調するためのテクニック。手先だけでなく、視線や微妙な呼吸まで操作している。


 しかし、キャッサリーンが人質だ。間違えば彼女に危害が及ぶ。


 イグニスは心中で冷静に計算する。読み違えても、賭け金を小さく調整すれば、キャッサリーンへの危険は最小限に抑えられる。

 そして、吉岡が仕掛けたテクニックを逆に利用する。それが唯一の勝ち筋だ。


「よし……ここだ」


 イグニスは慎重にもう一枚のカードを引き、賭けを確定させる。

 表に出たカードは、吉岡が狙わせようとした数字。だが、イグニスは事前に読み切っていたため、裏のカードと組み合わせて勝利を確保できる。


 吉岡は一瞬、眉をひそめる。


(なんだ……?読まれていたのか……?)


 しかし、キャッサリーンの腕は依然として吉岡の手中にある。イグニスは勝利を確信しつつも、動きは最小限に抑え、心理戦を続けるしかない。


 この勝負は、単なるカードゲームではない。イグニスにとっては、人質を守りつつ、相手の全てを奪う心理戦そのものなのだ。


  第二ラウンド。吉岡は焦りを隠しつつも、テクニックを増やす。カードの置き方やシャッフルのリズム、微妙な視線や呼吸の変化、すべてに意図がある。

 しかしイグニスはそれを冷静に分析。


(心理戦の土俵は、俺が踏み慣れた場所だ)


 イグニスは一瞬だけキャッサリーンを見る。彼女の顔には恐怖の色が浮かぶが、まだ耐えている。

 その表情を胸に刻み、イグニスは吉岡の心理を逆手に取る。


 第三ラウンド――

 吉岡が強引に高額を賭けさせようと仕掛ける瞬間、イグニスはわざと小さな賭けを選ぶ。表向きには手を読まれているように見せつつ、裏では勝利を確実にする作戦だ。


 カードが公開され、イグニスの勝利。吉岡の焦りがわずかに漏れる。


「な、なんで……読み切られる……だと?」


 イグニスは静かに言う。


「人を盾にしても、心理は読める」


 場内は静まり返り、キャッサリーンの手が解放される。イグニスは彼女の安全を確認し、わずかに微笑む。


 その冷静さと優しさは、出会ったばかりのディーラーに向けられたものであり、吉岡には計算できないものだった。


 勝利は確定した。しかし、心理戦はまだ終わっていない。吉岡の怒りと焦り、キャッサリーンの恐怖、イグニスの冷静さ。すべてが絡み合う、緊迫のカブ勝負は次のラウンドへ続く。


 カブの勝負はラウンドを重ねるごとに緊張感を増していった。吉岡はこれまで数多の動きを織り交ぜ、イグニスの心理を揺さぶろうと試みる。


 しかし――

 イグニスの冷静な洞察は一歩もぶれない。

 表向きのカードの微妙な配置、裏カードのわずかな動き、吉岡の呼吸や視線の癖。すべてを読み取り、最小限の賭け金でキャッサリーンを守りながら勝利を重ねる。


 場内のざわめきも、キャッサリーンの恐怖も、イグニスには逆に有利に働いた。


 そして、吉岡は最後の手に出る。

 イカサマだ。裏に仕込んだ特殊カードを一度に切り替え、勝利を確定させようとした瞬間、イグニスの目が鋭く光った。


「……そこでやるか」


 手の動き、カードの微妙な反射、そして吉岡のわずかな呼吸の変化。すべてを見抜き、イグニスはそのイカサマを完全に暴いた。


 場内が凍る。キャッサリーンも、吉岡も、周囲の手下たちも、息を呑む瞬間だった。


 だが、ここで現実はイグニスに牙をむく。

 吉岡の背後から、銃やドスを携えた数十人の手下が立ち上がる。ライトの下で武器が光り、テーブルを取り囲む形で彼を包囲した。


(……仕方ない)


 イグニスは冷静さを失わず、手を後ろに組む。

 これだけの人数と武器を前に、心理戦ではなく、物理的に圧倒されてしまった。


 キャッサリーンは恐怖で声を上げる。イグニスは目で彼女を落ち着かせる。

 この圧倒的な数の前に、イグニスは、とうとう撤退を余儀なくされる局面に追い込まれたのだ。


 吉岡は不敵に笑う。


「どうだ、イグニス? ここまでやっても、まだ俺には勝てねぇか」


 イグニスは静かに視線を巡らせ、次の一手を思案する。勝負は終わっていない。心理戦も、戦術も、まだ続くのだ。

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