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奈落の果てのギャンブラー!  作者: 黒瀬雷牙
東の島国編(2)
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命がけの闇カジノ

 榊は寸土を沈黙させた後、静かに煙草へ火をつけた。紫煙がゆらりと広がり、室内のざわめきが自然と収まっていく。


「…約束は果たそう。お前が探しているのは“例の連中”だな」


 榊の目が細く光る。


「吉岡。あの半グレの頭が率いる陽死愛乱怒(ヨッシーアイランド)。やつらのアジトは、この街の中心から少し外れたビルにある」


「ヨッシー……アイランド?」


 ロマーリオが思わず聞き返す。どこか間抜けに響くその名に、ルルイジーニも眉をひそめる。


「ふざけた名だが、奴らは笑えん。麻薬、賭博、売買春……裏の仕事を一通りやってる。特に最近は“闇カジノ”で荒稼ぎしていると聞く」


 榊は煙を吐き出し、壁を指で軽く叩いた。


「ビルの地下にバーがある。その奥に“開かずのトイレ”が一つある。扉を開けて、壁を叩け。そこが奴らの隠し通路だ」


 空気が一層重くなる。ロマーリオは唇を噛みしめ、ルルイジーニは神妙な顔で首を振った。


「待てイグニス……!そんな場所に、俺たちだけで飛び込むのは――」

「いや、違うな。俺一人で行く」


 イグニスの声は揺るがなかった。


「俺にはああいう連中の臭いが染みついてる。目立たず潜るには、そのほうが都合がいい」


 ロマーリオが言葉を探す間に、ルルイジーニが低く囁く。


「……死ぬなよ」


 イグニスはニヤリと笑い、肩を竦めて答えた。


「心配すんな。俺は運が悪い分、しぶといんだ」


 夜更けの街を一人進むイグニス。

 榊に告げられたビルの前に立つと、どこにでもあるような薄汚れた外観に、不気味な静けさが漂っていた。


 地下へ降りると、薄暗い照明に照らされたバーがあった。客の姿はまばらで、店員の目は妙に冷たい。

 その奥――鍵の掛かった「開かずのトイレ」。


 イグニスは扉を押し開け、壁を拳で二度、軽く叩いた。鈍い音の後、壁の一部が静かに横へスライドする。


 現れたのは、隠された地下通路。その向こうに広がっていたのは、ネオンの光に包まれ、熱気と喧騒に満ちた秘密の空間だった。


 吉岡と陽死愛乱怒が運営する、裏社会の楽園・闇カジノ。


 地上の喧噪から切り離された、狂気と欲望の坩堝。

 札束の山とチップの音、嬌声と悲鳴が渦を巻く空間に、イグニスは迷いなく足を踏み入れた。


 その姿を監視室のモニターで見つけ、陽死愛乱怒(ヨッシーアイランド)の頭――吉岡は、氷のような瞳を細める。


「……来やがったか、イグニス」


 モニター越しに映る男に、吉岡の口元が歪む。


「あの時の借りを返しにきたってわけか。だが、また同じだ……俺の檻で、何もかも奪われて終わる」


…………

【闇カジノへ出発前】

 吉岡は、ルルイジーニを人質に取り、イグニスから全財産を根こそぎ奪い去った。その屈辱は、イグニスの胸に焼き付いたままだった。


 今回の目的はただ一つ。

 吉岡の全てを奪い返すこと。


 だが、手元には金がない。そんなイグニスを気に入った情報屋・榊が、黙って札束を差し出してきた。


「……100万だ。だが返済は200万。1円でも足りなければ、お前は俺専属のアサシンになる。命の使い道を、こちらで決めさせてもらう」


 借金か、死か。

 イグニスはそれを承知で、榊の金を掴み取った。


「上等だ。どうせ奪うなら……根こそぎだ」


…………


 ――そして今。

 闇カジノの場内を歩くイグニスのもとへ、一人の女が現れる。


 漆黒のドレスに身を包み、妖艶な笑みを浮かべる美貌のディーラー・キャッサリーン。


「お客様」


 低く艶やかな声が、イグニスの耳を打つ。

 彼女は優雅に一礼し、紅い唇で囁いた。


「初めてお見かけしますね。……どうぞ、こちらへ。選ばれた者にしか雷は降りません」


 導かれた先には、閃光をまとった巨大なルーレット。


 ――ライトニングルーレット。


 選ばれた数字に稲妻が走り、時に数十倍、時に百倍を超える大波乱を呼ぶ。まさに運命の裁きを下す盤。


 イグニスは椅子に腰を下ろし、口角を吊り上げる。


「いいじゃねぇか。吉岡の全てをぶっ潰すには……雷の檻がちょうどいい」


 監視モニター越しに、吉岡は煙草を吹かしながら嗤った。


「来いよ、イグニス……お前を骨までしゃぶり尽くしてやるぜ」

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