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奈落の果てのギャンブラー!  作者: 黒瀬雷牙
東の島国編(2)
40/50

命がけのこいこい

 ――静まり返った室内。

 花札を挟んで向かい合うイグニスと、強面の男・寸土。立会人の榊は背を壁に預け、鋭い視線で盤面を監視していた。


「ルールは単純、こいこいだ。勝った方が望みを得る。ただし……負ければ代償は命だ」


 榊の冷ややかな宣告に、周囲の男たちがどっと笑う。


「へっ……イグニスとか言ったな。命なんざ紙切れ同然に張り合うのが、ここでの流儀だぜ」


 寸土は札を切りながらニヤリと笑う。


…………

【花札「こいこい」のルール】


① 使用する札

・花札48枚(1~12月、それぞれ4枚ずつ)を使用。

・札には「光札」「種札」「短冊」「カス(普通札)」の4種類がある。


② 配り方

・各プレイヤーに 手札8枚、場に 8枚表向き、残りを山札にして裏返す。


③ 手番の流れ

1.自分の手札から1枚出す。→場に同じ月の札があれば、両方を自分の取り札にする。→なければ場に出して終わり。

2.次に山札の一番上をめくる。→同じ月があれば取り、なければ場に置く。


これを交互に繰り返す。


④ 役を作る

・取り札の中で 役(特定の組み合わせ)を作ると得点が発生。


例:

・五光(光札5枚)=10点

・四光(光札4枚)=8点

・三光(光札3枚)=5点(ただし雨ありは4点)

・赤短(赤い短冊3枚)=6点

・青短(青い短冊3枚)=6点

・猪鹿蝶(猪・鹿・蝶の種札3枚)=5点

・タネ(種札5枚以上)=1点+追加札で加点

・短冊(短冊5枚以上)=1点+追加札で加点

・カス(カス10枚以上)=1点+追加札で加点


など。


⑤ 「こいこい」と「あがり」

・役ができた時点で「あがり」か「こいこい」を選ぶ。

・あがり → そこで勝負終了、点数を得る。

・こいこい → 続行して、さらに役を重ねて点数を増やすチャンス。

・ただし「こいこい」している間に相手が先に役を作ってあがった場合、自分は得点ゼロ。


⑥ 勝敗

・勝負が終わった時点で、点数を比べて高い方が勝ち。


…………


 勝負が始まった。

 最初の手は互角。イグニスは無骨ながら堅実に札を拾い、寸土は派手な役作りを狙って攻めの姿勢を崩さない。


「……おっ、赤短か。ついてるな」


 寸土が唇を吊り上げ、札を懐へと引き込む。


 しかし局を重ねるごとに、イグニスは小さく眉をひそめていた。寸土の手が、やけに滑らかすぎる。引く札が妙に偏っている。


 やがて、決定的な瞬間が訪れた。


 寸土の袖口から、わずかに光沢を放つ紙片が覗く。

 次の瞬間、彼はそれを巧みに掌へ移し替え「偶然引いた」ふりをして場に置いた。


「猪鹿蝶、役成立だぁ!」


 寸土が高らかに札を叩きつけ、周囲が歓声を上げる。


 だが。


 イグニスの目は獣のように細められていた。

 札を指先で軽く弾き、低く唸る。


「……おい。そいつぁ、最初から場にはなかった札だ」


 空気が一変した。

 寸土の顔から血の気が引く。


「な、なに言いやがる……! 証拠は――」


「証拠? その袖ん中だろ」


 イグニスの声は低く、だが確信に満ちていた。


 榊が音もなく動いた。鋭い目で寸土を射抜き、指を鳴らす。


「赤霧、梅房」


 呼ばれた二人の巨漢がすぐさま寸土を押さえ込み、袖から隠し札を引きずり出す。

 札は床に散らばり、誰の目にも明らかになった。


「なっ……違う! これは……!」


「黙れ」


 榊の一言に寸土の声はかき消された。


 赤霧が寸土の肩をねじり上げ、梅房が鉄のような拳を鳩尾に叩き込む。寸土は呻き声を漏らし、膝から崩れた。


「イカサマは、この場で最も重い罪だ」


 榊の声は冷たく、刀身のように鋭い。


 寸土の呻きは、赤霧と梅房の容赦ない「焼き」が重ねられるごとに、やがて途切れていった。


 硝煙と血の匂いの中、榊は改めてイグニスを見据える。


「……面白い目をしているな。獣の勘か、それとも修羅場を潜った嗅覚か」


「どっちでもいい。ただ、インチキが嫌いなだけだ」


 イグニスは肩を竦め、拾い上げた札を軽く弾いた。


 榊は小さく笑みを漏らし、頷く。


「約束通りだ。情報は渡そう…命を張った、その覚悟に免じてな」


 こうして「命がけのこいこい」は終わり、次なる真実への扉が開かれるのだった。

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