ルーレットは勝てん
【ゴールデン・フェニックス ジャックポットルーレット専用ルーム】
ガラス張りの扉の向こう、煌びやかなライトが円卓を照らしている。
ルーレット台は通常よりも一回り大きく、中央には煌く宝玉が飾られ、その下に「Jackpot」の文字が金色に刻まれていた。
イグニスは残高11,600Gのチップケースを抱え、深呼吸した。
勝利の余韻はまだ冷めない。彼の心には確信があった。
「流れは来てる……ここで掴むんだ、大勝利を……!」
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【ジャックポットルーレット ハウスルール】
・基本はヨーロピアン・ルーレット(0〜36)だが、特殊マス「★ジャックポット★」が追加され、全体で38マス。
・ジャックポットマス的中時、現在のジャックポット賞金(最低20,000G)を総取り。
・ジャックポットマスの確率は1/38。配当は変動式(賞金額依存)。
・ジャックポットに直接ベット可能(最低50G〜最大500G)。
・通常ベットと併用可能。
・ただし、ジャックポットマスに隣接する2マス(左右の数字)は配当倍率が半分になるという“罠”あり。
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「ふふ……ジャックポット、今は27,400Gか……悪くないな」
ディーラーの男が淡々と説明する。
イグニスは一も二もなく、100Gを「赤」に、そして50Gを「★ジャックポット★」に置いた。
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1回目
赤100G → 的中(+100G)
ジャックポット50G → 外れ
所持金:11,750G
「よし……悪くないスタートだ」
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2回目
黒200G → ×
ジャックポット100G → ×
所持金:11,450G
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3回目
赤300G → ×(ジャックポット隣接マス的中、配当半額)
ジャックポット200G → ×
所持金:10,900G
「……おいおい、半額ってのは聞いてないぞ……」
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しかし、イグニスは席を立たなかった。むしろ、目の奥に炎が宿っていた。
「ここまで来たら……フィボナッチもジャックポットも、同時に攻める!」
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4回目
赤500G(フィボナッチ継続) → 的中(+500G)
ジャックポット200G → ×
所持金:11,200G
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5回目
赤100G → ×
ジャックポット500G(MAXベット) → 外れ(しかも隣接マス)
所持金:10,650G
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額にうっすら汗。カジノ独特の高揚感が、冷静さをじわじわ削っていく。
「……次だ。次こそだ……」
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6回目
黒200G → ×
ジャックポット500G → ×
所持金:9,950G
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残高が減るたび、胸の鼓動は速くなっていく。
もう「勝ち逃げ」という選択肢は頭にない。
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7回目
赤300G → ×
ジャックポット500G → ×
所持金:9,150G
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イグニスは一瞬目を閉じ、両手でチップを握った。
「最後だ……全部賭ける」
残り全額、9,150G。
そのうち8,650Gを赤に、500Gをジャックポットに置く。
場内の空気が張り詰める。
ボールが跳ね、回転が遅くなっていく。
ジャックポットマスが近づく――だが、ほんの数センチで逸れ、黒33に吸い込まれた。
「……ああ……」
全ての音が遠くなる。
手元のチップケースは、空だった。
ディーラーは静かに告げる。
「またの挑戦をお待ちしております」
ふらつきながら席を立つイグニス。
自宅へ戻る道すがら、彼はつぶやいた。
「……やっぱり……ルーレットは勝てん……」