虎穴に入らずんば虎子を得ず
翌日――
イグニス、ロマーリオ、そしてルルイジーニは、夜の街の片隅で情報屋のアジトを探していた。路地裏の薄暗い光に、三人の影が長く伸びる。
「情報屋……確か、この辺りのはずだ」
ロマーリオが小声で呟く。
古びた鉄扉の前に立つと、中から薄明かりが漏れていた。イグニスが拳でノックすると、すぐに低く鋭い声が返ってきた。
「……誰だ?」
イグニスが名を告げると、扉がゆっくりと開き、中から一人の男が姿を現した。顔に深い傷を刻み、鋭い目でこちらを射抜く――情報屋・榊。彼の視線は、イグニスの威圧を真正面から受けても微動だにしない。
「……用件は?」
榊の声は、刃のように冷ややかだった。
イグニスは、臆することなく核心を突く。
「例の連中の情報が欲しい。だが……金がない」
榊はわずかに眉をひそめ、そして薄く笑った。
「金がない……ならば話す気はない。だが――命を賭ける気概があるなら、別の道もある。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ」
イグニスは眉をひそめる。
「……コケツ? なんだそれは」
隣のロマーリオが苦笑して通訳する。
「“虎の巣に入らなきゃ、子供は捕まえられない”って意味だ。つまり、危険を冒さなきゃ欲しいもんは手に入らないってことさ」
「なるほど……ふーん、いい言葉だな」
イグニスはニヤリと笑い、挑戦を受ける意思を示した。
榊は扉の奥へと手招きし、三人を廃ビルの裏口へ導いた。壁には落書きとひび割れが走り、窓ガラスには養生テープが幾重にも貼られている。
「ここでやる。負ければ命も飛ぶ。勝てば、情報を渡す」
榊はそう言いながら、薄暗い廊下を進み、一室の扉を開いた。
中には、いかつい男たちが花札を囲み、札束や金属のコインを賭けていた。低い笑い声とタバコの煙が充満する空間。
「……これが、私たちのギャンブルか」
ルルイジーニが小さく息を漏らす。
イグニスは背筋を伸ばし、薄暗い室内に漂う緊張感を楽しむように目を光らせた。
「よし……次はこっちの番だな」
イグニスの指先が札に触れた瞬間、部屋全体の空気が一気に張り詰める。
花札の勝負――これが、三人に課された次の「命がけのゲーム」だった。




