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奈落の果てのギャンブラー!  作者: 黒瀬雷牙
上級冒険者の日常(2)
28/50

アンダルバハールは勝てん

【ゴールデン・フェニックスカジノ 翌日】


 前夜、アンダルバハールで奇跡の大勝を収め、全財産は約20,000Gへと膨れ上がった。久々の盟友アルガードと高級クラブで豪遊し、イグニスは上機嫌のまま眠りについた――はずだった。


 だが翌日、彼の足は自然とカジノへ向かっていた。


「昨日の流れなら……まだ勝てる」


 煌びやかなカジノフロアの中、アンダルバハールのテーブルは昨日と同じ静けさを保っている。馴染みのディーラー、エミリが敬語で微笑む。


「本日もお越しくださり、光栄でございます、イグニス様」


「昨日の続きをやる。今日もアンダルだ」


 ターゲットカードはクラブのクイーン。イグニスは20,000Gを一気にアンダルへ置いた。昨日の成功が、判断を迷わせなかった。


 カードが交互に置かれ始める。


(来い……来い……来い……)


 アンダル側にカードが置かれるたび、胸が高鳴る。だがクイーンは出ない。


(来るな……来るな……来るな……)


 バハール側にカードが出るたび、歯を食いしばる。昨日ならこの辺りで来ていた――そんな淡い期待が心を締め付ける。


 数枚、十数枚……空気が重くなっていく。背中には嫌な汗が滲む。


(……そろそろだ、アンダルに来い)


 そして――


「バハール、クイーン」


 エミリの淡々とした声が、全てを終わらせた。瞬間、目の前のチップが霧のように消え、テーブルは空っぽになった。


「……っ」


 声にならない息が漏れる。昨日の歓喜が、まるで悪夢のように遠ざかっていく。


 エミリは言葉を選びかけたが、結局何も言わなかった。ただ一礼し、次の客を迎える準備を始める。


【サンライズシティ 夜の街】


 ポケットには硬貨が数枚。街のネオンは昨日と同じなのに、色を失って見える。


「……冒険者ギルドか。何日ぶりだ?」


 自嘲気味の笑みを浮かべ、イグニスはゆっくりと歩き出す。昨日の勝利はもうどこにもなかった。

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