アンダルバハールしか勝たん
【ゴールデン・フェニックスカジノ】
前夜のタイガー&ドラゴンで、イグニスは全財産の半分近くを失った。残るチップは、約10,000G。これ以上負ければ、久々に冒険者としてギルドの依頼をこなさなければならない…そんな切羽詰まった状況だった。
カジノフロアを歩きながら、イグニスは落ち着いた呼吸で周囲を観察する。煌びやかな光と、ざわめく群衆の中で、一つのゲームが彼の目に留まった。
「……アンダルバハールか」
残り全財産約10,000G。イグニスは最後の勝負に挑むため、アンダルバハールのテーブルに腰を下ろした。馴染みのディーラー、エミリが敬語で説明する。
「イグニス様、本日のアンダルバハールはシンプルでございます。まず、中央にターゲットカードを一枚表向きに置きます。次に、アンダルかバハール、どちらにその同じ数字のカードが先に出るかを予想して賭けていただきます。ディーラーが順にカードを置きますので、最初に同じ数字のカードが出た列が勝利となります」
イグニスは頷き、チップをテーブルに置く。
「全力で……アンダルに賭ける」
イグニスはなんと、初挑戦のギャンブルでいきなり全ツをした。ディーラーがカードを交互に置き始める。イグニスの目は中央のターゲットカードと、次々と置かれるカードに釘付けだ。
「来い……来い……来い……」
アンダル側にターゲットカードが出てほしい。心の中で念じながら、手のひらは微かに汗ばんでいる。
「来るな……来るな……」
バハール側にターゲットカードが出ないことを祈る。心理の揺れが、全身の神経を張り詰めさせる。
カードは交互に置かれ、イグニスの心臓は鼓動を増す。アンダに少しでも近いカードが出るたび、彼の内心は歓喜に震え、バハールにそれが出ると小さく歯を食いしばる。
数局を終える頃、イグニスは読みを研ぎ澄まし、順番やデッキの偏り、微細なディーラーの仕草から確率を判断する。
「来い来い来い……!」
ついにターゲットカードがアンダ側に出た瞬間、歓喜の熱が体を駆け巡る。チップは倍に増え、全財産は約20,000Gに膨れ上がった。
エミリは敬語で微笑む。
「イグニス様、本日のご勝負はお見事でございました」
久々の大勝利に、イグニスは胸の内で小さく笑い、手元のチップを眺める。
「やはり……読みと集中力、そして少しの運だな」
勝利を確かめたイグニスは、ふと思い出す人物があった。久々の盟友、アルガード。現最強の冒険者だ。
【サンライズシティ 高級クラブ】
その夜、イグニスはアルガードと再会を果たす。豪奢な内装の高級クラブで、彼は勝利の余韻と共に全てを振る舞った。
「いやぁ……久しぶりだな、イグニス。元気そうでなりよりだ」
アルガードは深い笑みを浮かべ、グラスを傾けるイグニスは静かに頷き、夜景の光を背に微笑む。
二人は談笑をし、あっという間に時間は過ぎた。
「ありがとうイグニス、今日は久々に心底楽しめた」
「おう。また飲もうぜ、相棒!」
街の灯りが二人を照らし、カジノでの勝利と再会の喜びが、ひとときの安息を与えていた。




