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奈落の果てのギャンブラー!  作者: 黒瀬雷牙
上級冒険者の日常(2)
24/50

ハイ&ローは勝てん

 イグニスは調子に乗っていた。連続で的中したハイ&ローの感覚が、全身に心地よい熱を走らせる。


「ここまで来たら……少し賭け金を増やしてみるか」


 最初のチップは約1,000G。連勝の余韻に背中を押され、イグニスは半分ほどのチップを積み上げ、大勝負に挑む。


「ハイ……」


 カードをめくる手にわずかな震えもなく、イグニスの瞳は冷静そのもの。しかし、数字は予想と反対に転がる。


「……え?」


 一度目のミス。だが、まだ微笑みを浮かべ、次の勝負に挑む。


「ロー……」


 またしても外れる。焦りが顔に少し現れるが、イグニスは冷静を装う。


 周囲の村人たちは気づき始めた。最初の連勝の印象が強かっただけに、次々と外すイグニスの姿にざわめきが広がる。


 調子に乗って積み上げた500Gほどのチップはあっという間に減り、残りわずかになった。


「くっ……」


 イグニスは歯を食いしばる。連勝の余韻で慢心していた自分を悔いるが、もう手遅れだった。


 最後の一局、イグニスは残ったチップすべてを賭ける。心のどこかで「ここで流れを取り戻す」と信じて。


「ハイ……」


 だが、カードは無情にも反対の数字を示す。残ったチップも、全て相手に渡った。


 村の広場は静まり返り、イグニスは深く息を吐く。調子に乗った代償は大きく、興奮と余韻は跡形もなく消え去った。


「……やはり、甘くはないな」


 彼の瞳には悔しさと冷静さが混ざる。勝ち続ける快感に酔った自分を戒めつつ、経験として胸に刻む。


 村人たちはそっと笑みを浮かべる。敗者の悔しさを知らない者ではないと、今のイグニスを認めたのだ。


【ミルフィア村 翌朝】


 夜明け前の空は淡い橙色に染まり、村は静かに目を覚ましていた。


 イグニスは荷を整え、馬車に乗り込む。小さな宿の前には、昨夜のハイ&ローを見守っていた村人たちが立ち、手を振って見送ってくれる。


「おお、イグニスさん! また来てくれよな!」


 少年が元気に叫ぶと、村の老人や商人たちも笑顔で頷き、声を揃えた。


「次は負けないようにな!」


 イグニスは微笑み、軽く手を振りながら答える。


「ありがとう、また必ず遊びに来るよ」


 馬車はゆっくりと村の門を抜け、金色の朝日に照らされた草原を進む。村の屋根や木々が遠ざかっていく。


 道中、昨夜の敗北や連勝の余韻を思い返し、イグニスは小さく笑みを浮かべる。経験として胸に刻み、次の勝負への力に変えていく。


 馬車は広大な平原を越え、森を抜け、小川を渡る。

 道沿いには小さな村や農家が点在し、村人たちが朝の仕事に励む姿が見える。


 イグニスは窓から景色を眺めながら、サンライズシティの方向を思う。


「もうすぐ……あの街か」


 心の中でつぶやき、馬車の揺れに身を委ねる。

 旅の疲れはあったが、奈落で鍛えた体と精神が、再び挑む力を与えてくれる。


【グランドリオン領 サンライズシティ】


 午後、馬車はついにサンライズシティの門に到着する。城壁や高くそびえる塔、広がる市街地の賑わいに、イグニスの瞳が光る。


 街の中心から漂う人々のざわめき、馬や荷車の音、香ばしい食材の匂い……すべてが活気に満ちている。


 イグニスは深く息を吸い、背筋を伸ばした。


「よし、帰ってきた……さあ、ここからだ。俺はこの街の勝負を制してみせる」


 馬車を降り、荷を引きながら街の路地を進む。彼の足取りには、敗北を糧にした冷静さと、新たな挑戦への熱が混ざっていた。

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