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奈落の果てのギャンブラー!  作者: 黒瀬雷牙
東の島国編(1)
21/50

麻雀は勝てん?

【東の島国 雀荘「風の館」 数週間後】


 健康麻雀に通い始めてから、イグニスはめきめきと腕を上げた。

 牌効率、河読み、点数計算──最初は戸惑った細かいルールも、今ではほとんど苦もなくこなせる。


「フフ、今日もトップだ。ロマーリオ、どうだ?」


「やるじゃねえか。だが、お前ちょっと勝ちすぎて目立ってきてるぞ」


 ロマーリオの警告を、イグニスは半ば冗談と受け流した。


 ある日、雀荘の片隅で、スーツ姿の男がイグニスをじっと見つめていた。

 口元には薄い笑み。目は獲物を観察する猛禽のように鋭い。


「……あんた、強いな。こんな場所じゃ物足りねえだろ?」


 男は低い声で囁き、名刺を差し出した。

 そこには店名も住所もなく、ただ「吉岡」とだけ書かれている。


「……興味があれば、夜中にここへ来な」


【裏の雀荘】


 指定された路地裏のビルの一室。

 防音の重い扉を開けると、紫煙とアルコールの匂いが漂い、昼の雀荘とは全く違う空気が満ちていた。


「ようこそ、こっちは本物の勝負の場だ」


 吉岡は笑いながら、分厚いチップケースを開けた。

 金額は、1点1000円。トップなら数十万円、ラスなら同額のマイナス。半荘一回で人生が変わる額だ。


 ロマーリオは険しい顔をした。


「イグニス、やめとけ。ここは遊びじゃねえ」


「……俺は勝負師だ。挑戦しない理由はない」


 最初の半荘、イグニスは驚くほど順調だった。

 的確な読みとツモで和了を重ね、3万点のトップ。50万円近い勝ち。


「……悪くない。ここでも通用するな」


 吉岡も笑みを浮かべた。


「やっぱり強いな。次はもう少し面子を変えてやろう」


 面子が変わった途端、流れが急激に悪化した。

 リーチをかけてもツモられ、放銃すれば満貫や倍満。捨て牌を読んでも、相手の待ちはことごとく裏をかかれる。


「……おかしい……こんなに読めないはずは……」


 それでもイグニスは意地になり、負けを取り返そうと高額の点棒を賭け続けた。


 深夜3時。

 残りの手持ちは200万円を切り、最後の半荘も吉岡の放ったリーチ一発で裏ドラが乗り、倍満。


「ロン。3万2千だ。精算だな」


 チップをはじく音が、やけに重く響いた。

 点棒計算の後、イグニスの負け額は──

 マイナス198万円。


 路地裏に出ると、冷たい夜風が頬を打った。

 ロマーリオが深いため息をつく。


「だから言ったろ……あれはイカサマだ。吉岡の連中は、牌をすり替えるのも目配せで仕込むのも慣れてる」


「……俺が……負けた……」


 イグニスの拳は震えていた。悔しさと、見抜けなかった自分への怒りで。


「次は……奴らの手口を見破って勝つ。あの200万、必ず取り返す」


 暗い夜の中、その声だけが確かな熱を帯びて響いた。

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