麻雀しか勝たん
【東の島国 ロマーリオの宿泊部屋 夜】
G1での惨敗から数日。
日本に来たとき、約800万円あったイグニスの資金は、豪遊と競輪・競馬などの賭け事でみるみる減り、滞在二週間にして残り500万円を切っていた。
ロマーリオは、ベッドに腰かけたイグニスをじっと見つめ、ため息をついた。
「……このペースじゃ、あと一ヶ月でスッカラカンだぞ」
「だがロマーリオ、俺は勝負師だ。負けても取り返せば──」
「その考え方が一番危ねえんだよ」
ロマーリオは苦笑し、机の上から一枚のチラシを差し出した。そこには「健康マージャン教室」という文字と、明るく笑う老若男女の写真が並んでいた。
「これは……なんだ?」
「麻雀だ。テーブルゲームだが、頭を使う。ルールさえ覚えれば金をかけなくても遊べる。ギャンブルの虫干しにはちょうどいい」
「……マージャン……か。聞いたことはあるが、やったことはない」
「じゃあ決まりだ。明日、雀荘に行くぞ。金賭けないやつな」
【東の島国 市街地 雀荘「風の館」】
翌日。
狭い階段を上がった先、木の看板に「雀荘 風の館」と刻まれた店があった。扉を開けると、電子卓の軽快な牌混ぜ音と、タバコの香りが迎えてくれる。
ロマーリオは店員に声をかけ、初心者卓を用意してもらった。
「イグニス、この四角い牌を使って、役を作って上がるのが目的だ。まずは数字と漢字を覚えろ」
「ふむ……これは将棋やチェスのような戦略性がありそうだな」
【初戦】
最初の半荘、イグニスは完全に翻弄された。
捨てた牌をすぐに相手にロンされ、役の完成形もよくわからない。
「なぜだ!? 俺は同じ種類を揃えていたはず……」
「それだけじゃダメだ。役がなきゃ上がれないし、他人の捨て牌も読まなきゃいけないんだ」
イグニスは悔しげに唇を噛み、二戦目に挑んだ。
【数日後】
数日通ううちに、イグニスは牌効率や待ちの形を覚え、他家の河(捨て牌)を読み始めた。
「……なるほど、あの捨て方はピンズ待ちか。じゃあこれは安全牌だ」
読み通り、相手のテンパイをかわし、自分がリーチをかける。
「リーチ、一発ツモ!」
白と赤の点棒を受け取るイグニスの顔に、久々の笑みが浮かんだ。
ロマーリオは感心したように頷いた。
「なかなか筋がいいじゃねえか。賭けない麻雀でも、十分楽しめるだろ?」
「確かに……これは奥が深いな。ギャンブルではないが、勝負の感覚は十分にある」
イグニスは牌を指で弾き、静かに言った。
「次はもっと上手く打ってみせる。俺は勝負事なら、何だって極めたい」
雀荘のざわめきの中、彼の瞳には再び挑戦者の輝きが戻っていた。




