競輪しか勝たん
【東の島国 宿泊先ホテル 夜】
イグニスは長旅の疲れを癒すため、シンプルながら快適なホテルの一室に腰を下ろした。
壁掛けの薄型テレビが静かに光を放ち、チャンネルが自動で切り替わる。
サンライズシティでは奈落の瘴気の影響で電子機器の多くが使えず、テレビの映像を見るのは久々のことだった。
画面に映し出された競輪のCMが目に留まる。
疾走する選手たちの迫力ある映像、スピード感あふれるレースシーン、そして熱狂する観客の姿。
「競輪……か。これは面白そうだな」
イグニスは興味をそそられ、隣にいたロマーリオに尋ねた。
「ロマーリオ、競輪ってどういう賭け事なんだ?競馬とはどう違う?」
ロマーリオは笑みを浮かべて答える。
「競輪は自転車のレースでな、昼間のレースだけじゃなくて、ナイターや深夜のミッドナイトレースもあって、どんどん熱くなってるんだぜ」
「へえ、そんな時間までか。面白そうだな」
イグニスはすぐに目の前のスケジュールを確認し、翌夜のミッドナイトレースの観戦を決めた。
「じゃあ、近くの競輪場に行ってみよう。実際の雰囲気を味わいたい」
ロマーリオは嬉しそうに頷き、二人はその夜の静かな街を歩き出した。
【とある競輪場 F2最終日】
熱気と歓声が渦巻く競輪場。夜のミッドナイトレースが終盤に差し掛かっていた。
イグニスは手にした車券をじっと見つめながら、ロマーリオの横で真剣な表情を浮かべていた。
「まずは7レースからだな。ここで基本を掴もう」
ロマーリオは穏やかな口調で競輪のイロハを教える。
「この競輪場は、差しや捲りが決まりやすいんだ。逃げ切りはちょっと難しい」
「差しに弱くて、番手に差されやすい…か」
イグニスはメモを取りつつ、頭を巡らせた。
【車券選択】
イグニスはオッズ表に目を走らせた。
「逃げの選手がオッズも高くて魅力的だ…だが、リスクもあるな」
イグニスの中に迷いがでてくる。
「うーん、でも見た目の魅力に惑わされてしまうのは人間の性か」
結局、イグニスは逃げ選手を軸に、番手の選手にも少し賭ける形で車券を組んだ。
【レース開始】
ベルが鳴り響き、選手たちが一斉にペダルを踏み込む。
イグニスは目を凝らし、ラインの動きを追った。
序盤、イグニスの軸にした逃げ選手が先頭を切り、先行態勢を築く。
だが、ロマーリオの言葉通り、差し勢がじわじわと迫ってくる。
最終周回、番手の選手が勢いよく捲りを仕掛け、逃げた選手を追い抜く。
イグニスの心臓が高鳴った。
ゴールラインを越えたのは番手の差し選手。逃げ選手はわずかに届かず、イグニスの車券は外れた。
イグニスは悔しそうに眉をひそめたが、冷静に言った。
「オッズに惑わされてしまったな…逃げ選手のリスクを甘く見ていた」
ロマーリオは笑いながら肩を叩いた。
「最初は誰だってそうさ。でも、これが競輪の面白いところだ。経験を積めばわかってくる」
「なるほど…外したが、面白いな競輪!」
イグニスは次のレースに向けて気持ちを切り替えた。
【とある競輪場 F2最終日 第8レース ガールズ決勝】
イグニスとロマーリオは再びスタンドに腰を下ろし、第8レースのスタートを待っていた。
「今度はガールズの決勝だ。これが結構見どころなんだぜ」
ロマーリオは真剣な表情で続ける。
「ガールズは実力差が大きく、1番人気が圧倒的に強いことが多い。だから軸にしやすいんだ」
イグニスはテレビ画面に映る選手たちを見つめながら頷いた。
「なるほど。勝負が読みやすいってことか」
イグニスは1番人気の選手を軸に厚く賭けることを決断。
「これなら勝てる。しっかりと狙っていこう」
ロマーリオも笑みを浮かべた。
「良い判断だ。あとは実際のレースを楽しもう」
号砲とともに選手たちが一斉にペダルを踏み込み、激しい争いが始まる。
1番人気の選手は終始安定した走りで、他の選手を寄せ付けない。
最終周回、イグニスの心臓は高鳴った。
ゴール直前、1番人気の選手が堂々とトップでフィニッシュ。
【結果】
的中のアナウンスが場内に響き渡る。
イグニスは歓喜の笑みを浮かべ、ロマーリオと拳を合わせた。
「見事だ。やっぱり実力差があるとわかりやすいな」
「これで流れを取り戻せたな。次も慎重にいこう」
【とある競輪場 F2最終日 最終レース 男子決勝】
会場は一日中の熱気を帯び、最高潮の盛り上がりを見せていた。
イグニスはじっとオッズ表を見つめ、レースの流れやラインの動きを思い返していた。
「今回はオッズに惑わされない。ラインの力関係を読み切るんだ」
ロマーリオも頷きながら助言する。
「そうだ。競輪はラインで動く。単純な人気だけじゃない。そこを見極めるのが勝負師の腕だ」
イグニスは複数のラインに注目し、三連単のフォーメーションで勝負を仕掛ける。
「これで勝負だ」
号砲とともに選手たちが一斉にペダルを踏み込み、激しい攻防が繰り広げられる。
ライン同士の駆け引きが交錯し、混戦模様。
イグニスの読み通り、各ラインが一斉に動き出す。
駆け引きと勢いが入り混じり、会場は歓声と興奮に包まれる。
ゴール直前、三つ巴の激しい競り合い。
最後の最後まで順位は入れ替わり、写真判定の可能性も取りざたされた。
【結果】
判定の結果、イグニスが買った三連単の組み合わせが的中。会場は大きな歓声に包まれ、イグニスは力強く拳を握った。
「やった……やっと掴んだ」
ロマーリオも目を輝かせて笑った。
「見事だよ、イグニス。これが競輪の醍醐味だ」
大勝ちの興奮に包まれながら、イグニスは深く息を吐いた。
「今日は学びの多い一日だった。次もこの感覚を忘れずにいこう」
彼の目には、新たな勝負師としての自信が宿っていた。




