バカラしか勝たん
※本作は《奈落の果ての冒険譚》外伝。命がけの冒険から解放された男が挑む、もうひとつの戦場の物語…
ここはサンライズシティ。大都市にして、奈落を目指す冒険者の街。
その中央区にある巨大カジノ〈ゴールデン・フェニックス〉は、夢と絶望が交差する戦場だった。
そして今日もまた、炎のようなオーラを纏う、1人の男がその自動扉をくぐる――
「よう、運命さん。今日こそ俺に味方してくれよな」
そう呟いた男の名は、イグニス=イッシュバーン。
冒険者ランキングベスト5にして、Aランク依頼をクリアしても金が残らない男。
「……お客さま、残高のご確認を」
「大丈夫、2,000Gある。帰る頃には200万だな」
ちなみに1Gは約1ドルほどの価値である。
「前回もそうおっしゃって……」
「勝負ってのはな、勝つまでやるから勝負なんだよ!」
――前回の帰り、彼の財布のHPは限りなくゼロになっていた。今回、命懸けの依頼をこなして得た報酬を、早速ゼンツするようだ。
イグニスは、一直線にバカラのコーナーに向かう。
バカラ。
それは単純ゆえに奥深く、時に人を破滅させる魔性のゲーム。
だが、イグニスには確固たる信念があった。
バカラコーナーは静かだった。
テーブルの上に置かれたカードシューとチップケース。照明は柔らかく、赤みがかったゴールドが勝負の緊張感を包み込んでいる。
VIPテーブルNo.3。
イグニスは当然のように、中央の椅子にどっかりと腰を下ろした。
「おかえりなさいませ、イグニス様。本日もバカラで?」
ディーラーの女、名はエミリ。切れ長の目と紅のリップが印象的な美女で、イグニスお気に入りのディーラーだ。
「ああ。今日こそ、俺と運命の初デートだ。よろしくな」
軽口を叩きながら、イグニスはチップケースを開ける。所持金は2,000G。Aランク依頼の報酬すべてをここにブチ込んだ。
「さあて……今日は勝負の日や。ルールの確認、しとこうか」
「かしこまりました。〈ゴールデン・フェニックス〉では以下のハウスルールが適用されます」
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【バカラ:ゴールデン・フェニックス式 ハウスルール】
・使用デッキ:6デッキ(312枚)
・最初に各陣営へ2枚ずつ配布。条件により3枚目を自動で引く。
・プレイヤー(Player)、バンカー(Banker)、タイ(TIE)への賭けが可能。
・賭け上限:10,000G、下限:100G
・オッズ:
- Player勝利:1倍(返金)
- Banker勝利:0.95倍(5%ハウスコミッション)
- TIE:8倍
・TIE成立時、Player/Bankerへの賭けは全額返金(引き分け扱い)
・特殊ボーナス(VIPルール):
-「トリプルナチュラル」(ナチュラル9 vs ナチュラル9のTIE) → 15倍
- 「一撃逆転ドロー勝ち」(合計1〜3からの逆転) → +0.5倍ボーナス
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「ほう。特殊ボーナスは据え置きか。運さえあれば、イチかバチかで捲れるわけだな」
イグニスは顎を鳴らし、初手を宣言する。
「まずはプレイヤーに――全額BET!」
「2,000G、プレイヤーに確認いたしました」
カードが配られる。
プレイヤー:7
バンカー:5
プレイヤー勝利。
配当:+2,000G → 所持金:3,900G
「っしゃあぁ!開幕ストレート! 今日は運命が俺にキスしてる!」
第二ゲーム、1,000Gをバンカーへ。
プレイヤー:8
バンカー:9(ナチュラル)
バンカー勝利。0.95倍配当。+950G
所持金:4,850G
「はい完璧。出目の揺らぎを読んで、反対側に切り替える。これがコツや」
第三ゲーム、2,000GをバンカーにBET。
カードが配られる。
プレイヤー:3 → ドロー:6(合計9)
バンカー:4 → ドロー:5(合計9)
――引き分け(TIE)
「む、まさかのTIE。まあ、返金やからダメージなし」
第四ゲーム、フルベット3,900G、TIEに全賭け。
ざわつく周囲。
「え、TIE!? 一点張り……まじかよ……」
「またやりやがった。あれ、伝説になるか破産のどっちかなんだよな……」
カード配布。
プレイヤー:6 → ドロー:2(合計8)
バンカー:8 → ドロー:0(合計8)
再び、TIE。オッズ8倍。配当:31,200G
「どやぁぁァッ!! これがイグニス流! 心で感じて、運で勝つッ!」
周囲はどよめき、カジノの控室では監視員たちが慌ただしく動き出していた。
「TIE2連発……? あの冒険者、本気で読み切ってるのか?」
「次は止めないと……上限10,000G、超えさせるなよ!」
だがイグニスは、チップを指ではじいて笑う。
「なあエミリ。あと3回勝ったら、今夜……一緒にディナーでもどうや?」
エミリのプロフェッショナルな笑顔が、わずかに崩れた気がした。
――そして、次なる勝負が始まる。
「次、プレイヤーに10,000Gや。倍プッシュ、入るぜ」
果たして、イグニスの運命は…!?