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理由⑧
先生もクラスの皆も分かっていました。彼女は自分の吃音が悲しくて泣いているのではない。他の人を待たせてしまう、迷惑を掛けてしまうことが辛くて仕方なかった。現にクラスで彼女をからかう連中はいなかったし、会話を急かす奴等もいなかった。大丈夫だよ、気にしないで、ゆっくりでいいよ。その気遣いが嬉しくて、でもその気配りに応えられない自分がもどかしくて、涙が零れたのでしょう。
誰も、何も悪くないのです。そんな時、先生はどうしたと思いますか?当時の担任の先生っはね、黒板に『友達』と『信頼』という漢字を書くと、いきなり大声で笑い始めました。ガッハッハッと大袈裟に大笑いしながら、両手で皆も笑えと煽ったのです。最初はクラス中がぽかんとしていましたが、先生の馬鹿笑いがず~っと続くものですから一人、二人と真似し始めます。三人、四人・・・七人、八人・・・・・・それでは足りません。クラスのみんなが同じように笑うまで先生は止まりません。他の全員が笑っても、彼女を待ち続けます。彼女が笑わなければ全員が揃いません。先生は彼女に近付き、肩に手を置き笑い続け、そしてついに彼女も、もしかしたら仕方なく、声を出して笑い出しました。




