時間割りと時間泥棒⑧
社会人になってからは時間に追われ、支配され、急かされるように毎日が過ぎていく。イヤだ、嫌だと束縛から逃れようと足掻いてみてもどうにもならず、やがて反骨心も失せて元の元鞘。いかん、いかん、小難しいことを考えても進展しない。アパートで夕食の支度をしながら進との約束を果たさんと作戦を練る岡部先生であった。
「分かりました。そうしたら先生も考えてみるから、鈴本君も考えてみて下さい。」
「なにを?」
「時計を好きになる方法。」
大好きな遊びを時間を理由に切り上げてしまう時計が嫌いということで宜しいか。好き勝手、好き放題、好きなだけ自分の時間に費やしたいのだろうが、さすがにそれは許可できない。だから岡部先生、考えた。時計を好きになってもらおう。時計に興味を持ってもらおう。どうにかこうにか、時間を使う遊びを見つけよう。
岡部先生、野口先生からストップウォッチを借りてきた、3個ほど。すみれ組の皆にちょっとしたゲームを紹介する。
「ストップウォッチの右ボタンを押せばスタート、もう1回右のボタンを押すとストップです。ストップした状態で左のボタンを押せばリセット、数字がセロに戻ります。さぁ、ストップウォッチを見ないで10秒ぴったりで止められるかやってみましょう。けっこう難しいですよ。」
白状しよう、教育上の目的なんてありはしない。大した知恵も使わないゲームに違いないが、こういう方が子供達は熱中する。無意味なことを楽しむ余裕があるのだ。ストップウォッチなんて玩具を渡されたら止まらない。それこそ時間を忘れて没頭する。それと、3個というのも功を奏した。ストップウォッチを手にする3人を中心に輪ができ、入園数週間の子供達の距離が縮まった。時間やら時計からは離れてしまった気がしないでもないが、とりあえずは良しとしよう。進も笑顔でゲームに参加していた。




