そして入学式へ⑨
入学式の前日、同じマンションのお姉ちゃんが制服を着て遊びに来てくれた。この4月から中学に上がり、2学期を前に引っ越す予定のお姉ちゃんだ。
「あら~、恭子ちゃん。制服、とっても似合っているわよ、可愛い!進はお昼寝しちゃってるけど、要は部屋にいるから。さ、上がって、上がって。」
「お邪魔しま~す。」
コンコンと部屋をノックするお母さん。返事がない。もう1度。同じ。
「あらやだ、寝ちゃったかしら?要ちゃん、入るわよ。」
戸を開ければ、要はしっかり起きていた。床に座って、ひとりでトランプをしている。トランプでピラミッドを組んでいる。ピラミッドは1段目が完成して、2段目に突入。昨日、指先器用選手権みたいなテレビ番組をやっていたが、その真似をしているらしい。ひとまずそれは置いといて、全く・・・相も変わらぬ人並外れた集中力に、お姉ちゃんも口を押さえて笑っている。開けた扉を内側から、さっきより強めに叩くお母さん。さすがに気が付いた要が振り返り、お姉ちゃんを見つけるなり真新しい制服に抱きついた。要が年相応に戻る数少ない一幕。大好きなのだ、2人共。後ろで建設中のピラミッドが崩れても気にしない。この辺の切替えの早さも要らしい。
進がお昼寝中なので、場所を居間に移した。お母さんはお菓子とジュースを用意する為、台所へ。その隙にという訳ではないのだが、お姉ちゃんが制服のポケットから要への入学祝いを取り出した。
「要ちゃんにいい物持ってきたんだ。お家にカセットデッキあったよね。」
お姉ちゃんからのプレゼントはカセットテープ。要のお気に入りの曲をお姉ちゃんが録音したものだ。台紙にはトラックごとの曲名が書いてあって、漢字にはルビが振ってあった。
お姉ちゃんはピアノを習っていて、小学校では合唱の際などに伴奏を任せられるくらいの腕前。そんな恭子姉ちゃんだからクラシック音楽は人並み以上に精通しているのだが、最近はテレビゲームの音楽に魅かれていた。ゲームからオーケストラ同様の演奏が流れてくるのはまだ先だが、お姉ちゃん曰く、左手でごまかせないからメロディーの良し悪しがはっきりする。ピアノでちょっとアレンジを加えて弾いてみると、クラシックに似た曲調もあって実は奥が深いという。とても素敵だという。カセットにはアルバムのタイトルも記されていた。『ドラゴンクエストⅢ』。
【そして入学式へ 終】




