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卒園式の隠し事④


 幼稚園に上がってから色んなことが変わった。ずっと家にいられなくなった。いつもお母さんと一緒だったのに、知らない人の家に放り込まれた感じ。そしてそこには先生がいた。怒った時は鬼より怖いけれど何でも知っていて、いろんなことを教えてくれて、一緒に考えてくれる、とっても偉い人だ。それとたくさんの友達ができた。仲の良い子もあまり喋らない子もいたけれど、幼稚園に通わなければ知り合うこともなかった。住んでる所が全然違うから。

 お別れの時が来たというのももちろん嫌なのだけれど、とにかく小学校という所に行きたくなかった。お兄ちゃん、お姉ちゃんによると、勉強ばっかりするらしい。6年間も通うらしい。今の友達、今の先生、今の場所がいいのに、そういういう訳にはいかないらしい。そういう風に決まっているそうだ。嫌だということはできない。卒園式とは、学校という地獄に送り出す悪魔の儀式。友達とのお別れ会。『先生、さようなら』と言っても、『また明日ね』とは返してくれない、最後の日。


 まだまだ子供で、手が掛かって、後先考えずにおバカな事ばかりやっている。そんな我が子がひとまず、最初の卒業を迎えることができた。脅すわけではないが、集団生活と学業はこれからが本番、ここからが大変ということは想像すらつかないだろう。この先、悩む姿に苦しむ姿、悔し涙に辛い涙を見ていくことになる。けれども心配ばかりの毎日はつまらない。楽しいこと、嬉しいこと、新しい発見をしていく我が子の卒園に、まずは乾杯。おめでとう、よく頑張りました。でもね、まだまだはじめの一歩。二歩目、三歩目を踏み出さなくてはなりません。幼稚園、先生、お友達とお別れの時です。少しずつ大人になっていきましょう、苦難を乗り切れるだけの知恵と勇気を身につける為に。いずれは守ってあげられなくなるから。


 毎年のことであり、2年に1回は年長組を担当する。それでも別れが辛いのは大人になってからも同じ、慣れることはない。私達との生活はみんなの人生のほんの一握り、ほんの米粒の様、しかも大人になってからの記憶にはほぼほぼ残らない2年間。けれどもその事実を虚しいと感じたことはない(大人になっても幼稚園の先生の名前を憶えている人がどれだけいるだろうか)。たとえ、忘却の宿命にあっても、この2年間が消滅することはない。

 ひとつだけ。願わくば、一人でもいいから正徳幼稚園でできた友人と大人になってからも交流を続けてほしい。連絡を取り続けてほしい。簡単なことではないし、多分に運も絡んでくることは百も承知だが、幼稚園からの腐れ縁で幼馴染なんだ、みたいなセリフは誰しも羨む財産となろう。あと10日、5日、3日、2日、明日・・・・・・お祝いが近付く程に悲しくなる。さぁ、顔を伏せていては何も見えない。自分の力で踏み出すのだ、子供も大人も。

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