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進の入院⑤


 昨日の夕飯の残りを独りで口に運びながら、テレビのニュースを流していた。しんとした誰もいない家の中では、意味の分からないニュースでも賑わってくれていた方がマシだった。それでもアニメを観る気にはなれなかった。進の目は虚ろでどこを見ているかも分からない。声も掛けられず、お父さんもお母さんも眉間にしわを寄せて戸惑っていた。要だけその場に取り残されていて、何もできない、何をしたらいいか分からない、見ているだけ、見ることすら耐えtられない。命じられたのは留守番。邪魔で足手まといで意味がないから家にいろ。もちろんそんな類のことは一言も吐かれていない。お父さんとお母さんが一緒だから進は大丈夫、心配するな。それでも要を襲う不安、悔しさ、動揺。ご飯は全然おいしくなかった。味も匂いも食感もなし。突然、ここ以外の世界が平穏に見えた。自分達以外の人間が幸せに思えた。自分だけが、自分達だけが苦しんでいるように感じた。

 10時を少し回った頃、2人が帰ってきた。進は1週間ほど入院することになった。帰宅した2人は落ち着きを取り戻していて、要を気遣いながら進の着替えを準備したり、タンスの引き出しを開けたり閉めたり、簡単な食事を摂りながら、要にも分かるように進の病状を説明した。遊走精巣―おちんちんの玉が上の方に上がってしまう病気―手術すればすぐに良くなるけれども、1週間ほどの入院が必要。寂しいけれど我慢しような。

 その日は公園に行くこともなく、ずっと家にいた要。さほど変わった様子もなく過ごしていたが唐突に、思い出したように独りでウォーリーを探し始めた。進に請われて一緒に開くことはあっても、要だけで絵本を読む姿は見たことがなかった。時折、首をひねりながら絵本と睨めっこする要。どうもうまく探せないらしい。それでも辛抱強く、いつもの探偵の世界をお休みして、絵本の世界を探索していた。


 学校や習い事で忙しいはずなのに、同じマンションのお兄ちゃん、お姉ちゃんがちょくちょく顔を出してくれた。中にはお菓子を差し入れてくれる子も。予定よりも少し早まって進は金曜日に退院することになるのだが、月曜から木曜までの間、どれだけ心の支えになったことか。それは要だけではなくお母さんも含めて。もしも要が幼稚園を休みたいと言い出したら、止めることはできなかったかもしれない。止めなかっただろう。突然のことだったし、今回ばかりは致し方ない。こういう状況であれば目の届く所にいてくれた方が安心でもあった。連絡ノートを使って岡部先生の耳にも入れてはあるものの、幼稚園に迷惑をかける訳にもいかない。そして、結果的には何も怒らなかった。ほぼほぼいつも通り。そう・・・進が入院してからも普段と変わらぬように振る舞う要の姿に助けられた、と同時に痛々しくもあった。強く厳しくの一方で、時に弱さを出してほしいというのは、大人の身勝手な願いだろうか。

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