進の入院④
日曜の朝。お寝坊さんの両親を起こさないように2人で静かに、なるべく静かに、けれども結局騒がしくなってしまうのがお決まりで、楽しみだった。テレビも見放題だしね。しかし今朝は要が目を覚ますと扉の向こうが騒がしかった。二段ベッドの下の段を覗くと進がいない。はじめは自分が寝坊したのかと思ったが、日曜や祝日に両親よりも遅く起きた記憶はない。おそるおそる泥棒みたいに戸を開けたよう。その日に移ったのは、お母さんの腕の中でぐったりする進と、受話器を握るお父さん。何が起こっているかは分からなかったが、どういう状況かは寝惚け眼でも把握できた―自分にできることはない―隅っこの椅子に座ってずっとうつむいていた。視線を落としていても声は訊こえてくる。自分の家が触れたことのない言葉、呼吸、雑音で埋め尽くされていた。見たくないから、訊きたくないから、夢であってほしいから、顔を上げることができなかった。だからだろうか、家の外の音も映像が浮かび上がるくらいはっきりと訊き取ることができた。
救急車の音がマンションの前で止まった。普段は微妙に音痴なサイレンを響かせながら通り過ぎていくのに、ピタッと真下で停車したことが手に取るように見えてしまった。直にインターホンが鳴り、想像通りの人達が入ってきた。
救急車にはお母さんが同乗し、お父さんが車で後を追う。要はこのまま留守番だ。お父さんが有無も言わさず、要の意見を訊くことなく、逆走を許さず一方的に命令したのは、後にも先にもこの日、この時だけだった。要に選択の余地はなく、家にいなさいとだけ言われた。静かで落ち着いた口調と、厳しく鋭い目のアンバランスが、要の心臓をこれでもかと握りしめた。大人に余裕がないことを緊急事態と呼ぶ。けれど手伝うことも逃避することもできない。ただ家で待つ。留守の番なんて言えば訊こえはいいが、詰まる所は足手まといの力不足。信用されていないし、期待されていないし、切札にもなれない。大人になりたいと願った。力が欲しいと呪った。誰かを助けたいと希った。




