進の入院②
さて、進の特技も紹介しておかないと、ズルいと怒られてしまう。彼の得意分野は『まちがい探し』。軽い気持ちでどっちが早く見つけられるかなんてやると、まぁびっくりするくらいすぐに発見する。あまりにすんなり見つけるので答えを知っていたのではと疑ってしまうレベルだ。コツは?と訊くと、右目で右の絵、左目で左の絵を見るなんて、カメレオンみたいなことを言う。そんな進の愛読書が『ウォーリーをさがせ』。鈴本家の本棚には10冊近く並んでいて、要がいない時にはしばしばひとりで探していた。進はウォーリーを探すと同時に絵本の、絵の世界に没頭する。ウォーリーの居所を覚えてしまったらそれでおしまいではなく、お次の楽しみはウォーリーの世界を楽しむこと。この世界と同じようにひとりひとり違う顔、髪形、服装の人々。海外旅行、異文化コミュニケーション、タイムトラベル。要と比べて落ち着きのない進だったが、この時ばかりはお兄ちゃん張りの集中力を発揮する。2度目以降のウォーリーの何が楽しいのかと不思議に感じてしまう人間には逆立ちしても理解できない世界が、進の眼前には広がっているのだった。
進は絵が上手だった。要がぽりぽり頭を掻きながら苦笑いするくらいセンスが違う。例えばね、りんごひとつ描くにしたって正面、上から、下から、一口かじられたりんご・・・絵の下手っぴな人は正面から見た1個のりんごしか描けないの。お題で『一口かじられたりんご』なんて出された日には、どこから描き始めたらいいのか分からなくなってしまう。それと色の使い方。要も塗り絵は上手なのだが、固定観念にとらわれて遊びがない。地面は茶色で、空は青。太陽は赤で雲は白。そこに異なる色を混ぜたり、全く別の色彩で冒険をしない。反対に進の方は常に違う色、違和感を伴う色塗りを試みる。そしてこれが、たまに美しくまとまることがあるから面白い。文字の世界ではなく絵の世界に没頭する、才ある人間の特技なのかもしれない。ただし悲しいかな、こういった冒険心、探求心、チャレンジ精神といったある種の特殊能力も大人になるにつれて霧散してしまう。




