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進の入院①

 2人で仲良くトランプをしていた。神経衰弱が要と進のお気に入り。ゲーム中、絶え間なく記憶する作業が続くから好みじゃないという人も多いかもしれないが、全くの未経験という人はいなかろう。ルールは単純だし、ご当地ルールみたいなややこしい決まりもない。さて、親からすると、トランプで遊んでくれるのは都合が良い。静かだし、滑って転んで怪我をする心配もない。たまにちらっと覗いてやればいい。そう、ふと盗み見た時に神経衰弱をやっているというのは分かったのだが、何かがおかしかった。裏返しのトランプが綺麗に整列されている。この頃の子供であれば、向きはぐしゃぐしゃが普通だ。わざわざ縦・横揃えて並べない。そんなに神経質な子供達だったかしら(要はともかく進は・・・)と、お母さんが首を傾げるのも無理はない。そんな違和感を後押しするようにゲームの進みが遅い、遅すぎた。もっとこう、ぱっぱとめくって一喜一憂してという展開が子供らしいのに、悩む時間が長かった。ゲームがなかなか動かなかった。とても静かな、どうにも静か過ぎるトランプゲームであった。そして決定的だったのが、この神経衰弱はずっと要のターン。要がずっとカードをめくり続ける。対面に座る進はじっと動かない。じ~っと要の手だけを見つめている。テンポよくめくる時もあれば長考して間を置くこともあったが、要は黙々とペアを作り続けた。着々と場のカードを減らしていった。

 2人は気付かない。そして声を掛けることをためらうお母さん。要の邪魔をしないようにというよりも、脳が目の前の出来事を現実のものとして理解することに困惑していた。きっとどこかに種か仕掛けがあるはずだ。そうでなければ説明がつかない。どれくらい要の後ろに立っていただろうか。5分か10分か、それとも1分程度だったのか。時間の感覚がズレてしまうくらい眼前の光景に見惚れてしまった。最後は残り6枚から2枚めくって、初めて異なる数字が出現。あ~~~・・・・・・と進が残念そうに、ついでに2人の気持ちも代弁するみたいに、まるで止めていた息を吐き出すように深く声を上げ、要も大きく天を仰いだ。ここでようやく母親の存在に気が付いた。相も変わらずの大した集中力である。 

 

 要と目があって、どう声を掛けるか迷ってしまったお母さん。仰け反り見上げる要と、手を腰の後ろで組んで視線を落とすお母さん。自然と2人の口元が緩み、お母さんがしゃがみ込むと進が揚々と解説してくれた。

 まずはカードを表側、数字が見えるように並べる。この時バラバラではなく、縦と横を揃えてやらないと要が覚えられない。お母さんも薄々感付いていたが、やはり要は数字の並びを記憶していた。しばしの間、要とトランプの睨めっこが続く。暗記が済んで要が合図をしたら進がトランプを裏返し、ゲーム本来の形に戻したら準備完了。要がひたすらにペアを作っていく。黙々と同じ数字のカードを重ねていき、今回は惜しくもあと6枚ということだ。ミスなしで全部めくれたこともあるのと訊けば、何度もあるよ。さも当然のように、誇らしげに胸を張って答える弟君(おとうとくん)であった。なんちゅうゲームをしているんだか・・・心の中で思わず突っ込むお母さんであった。

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