個性・差別・才能・義務⑨
夕方の6時から7時は要と進がテレビを独占できる。お父さんはまだ帰ってこないし、お母さんは台所。2人にとってのちょっとしたゴールデンタイム。この時間帯に子供向け番組を流している曲が複数あるのもそういう理由だ。この日は2人仲良く『チェンジマン』。日常風景に突如怪人が現れて、それを追うように5色の戦隊ヒーローが登場する。この辺りから2人共画面に釘付けである。雑魚敵を蹴散らし、その回の怪人を追い詰めると巨大化するのだが、最後はヒーローも巨大ロボットに登場して、必殺技で撃破する。大人が観ると毎回変わり映えのしない、同じ事の繰り返しに思えてしまうのだが、そのお約束、決まり事、安心感が長年子供達を引き付けているのかもしれない。いつものヒーロー、いつもの変身、いつもの必殺技。違うのは怪人と次回予告だけ。本日も無事にヒーロー達が敵を打ち倒して、めでたしめでたし。
番組が終わったら、要と進はテーブルを拭いてお皿を並べる。この後は夕食とニュースの時間だ。2人にとってはこっちの番組の方がよほど同じに訊こえるのだった。
お父さんだってたまには真面目な話をする。なんだかんだお母さんの選んだ人だからな。チェンジマンは他の人に正体を明かさないんだってな。自分達が変身できることは秘密。強くて格好良くて、ロボットに乗れて、必殺技だって使える。そんな凄いこと、どうして他の人に内緒なんだろうな?要、ちゃんと覚えておくんだぞ。チェンジマンは確かにすごいけれども、決して偉い訳じゃない。凄いと偉いは同じじゃない。勘違いしちゃいけない。ヒーローだとかチェンジマンだということは、わざわざ自慢することじゃない。言い触らすことじゃない。たまたま神様が君達チェンジマンねと言っただけ。たまたま他の人は他の才能を送られただけ。たまたまの偶然で、どっちが上でどっちが下ということはないんだ。
要は地頭の良い子だ。お父さんがどうして急にこんな話を切り出したのか、何が言いたいのか、自分に何を望んでいるのかを、話を訊きながら瞬時に理解していた。だから父親の言う通りにする。何の為に?心配をかけない為に。
お父さんの話はもう少し続く。チェンジマンは悪者と戦うだろ。じゃあもしも、チェンジマンが敵と戦うことをやめてしまったら、さぼってしまったらどうなると思う?地球が悪い奴らに乗っ取られる?そうだよな。それとな、チェンジマンも悪者になってしまうんだ。凄い力を持っているのに、悪い奴らと戦う力を持っているのに、平和を守る力を持っているのに、それを世の為、人の為に使わないことは悪なんだ。神様から貰った才能は努力して、練習して、何度も磨いて、磨いて、自分の為だけじゃなく、みんなの為に使わなきゃいけない。それがヒーローの仕事、チェンジマンの使命なんだ。
お父さん自身も正直、自分で何を言っているのか、何を伝えたいのか分からなくなってしまった。本当は言えば足が速いな、凄いじゃないか、幼稚園で1番だもんなとべた誉めしてやりたかった。焦りもあって見切り発車で切り出したから、要を混乱させてしまったかもしれない。話している最中に失敗したかなぁ、なんて後悔しているようではどうしようもない。それ程までに不安と期待を掻き立てるものだった。
要は自己主張の激しい性格ではない。どちらかと言えば控えめで、大人しくて、回りに合わせて行動する。こういう子を最近では空気が読めると評するらしい。そんな可愛い息子に焦ってする話ではないとお父さんだって承知していた。それでも切り出さずにはいられなかった。それ程までに、要の足の速さは常軌を逸していた。
お父さんを後押ししてしまったもの―2学期の学びのまとめ―次のようなことが書かれていた。オブラートに包んで控えめ、遠目に記載されてはいたが、足が速すぎると。夢と希望と可能性に溢れた才能で、希有な存在。それは年齢を重ねるごとに、学年が上がる度に耳目を集める。刮目され、利用せんとする大人が現れる。本人の意思を尊重することなく動かさんとする。ご本人とご両親で予め、お話しされる機会を設けることをお勧めします。




