個性・差別・才能・義務⑦
そうだ、体操の授業という形を取れば、正々堂々と走り方を教えてあげられる。世紀の大発見でもしたかのような提案が採用され、クラスごとに体操の体験授業が行われる運びとなった。担当する先生は言うまでもない。尤も体操といってもでんぐり返しすらも危険が伴うので、ホントに軽く体を動かすだけ。
まずはお馴染みの曲に合わせてラジオ体操で準備運動。前に立つ先生と同じ動きをしながら上半身を解す。続いて屈伸、伸脚、アキレス腱を伸ばし、その後は10数えながらストレッチ。呼吸を止めないで~、ゆっくり息を吐きながら、ちょっとだけ痛い所でストップ・・・とここで気になることが1点。身体の硬い子が多い、多すぎる。もちろん緊張しているという意味ではなくて、言い方はアレだが関節の可動範囲がオジサン・オバサンなのだ。普段から運動する習慣がないのかもしれないし、食べ物の影響もあると訊くが、あまりよろしくない。あまりによろしくないので、予定よりも多くの時間をストレッチに費やした、1日、2日で効果の顕れるものではないが。さて、ストレッチを終えて本題に入ろう。走り方の講義である。
「それではスタートの練習から始めます。まずは先生のお手本をよく見て真似して下さい。このスタートの方法をクラウチングスタートと言います。」
どうして運動会の終わった後で、という質問は上がらなかった。そんなことより、先生の格好が気になってクスクスと笑い声が起きていた。あまるで野良猫が伸びをしているかのよう。
「短距離走はスタートが大切です。スタートしたらこういう風に少しずつ状態を起こしていきます。両腕は大きく真っ直ぐ振るようにしましょう。」
園庭で横一列に並んだすみれ年中組の子供達が見様見真似でダッシュを行う。なかなかうまくいかない子にはフォローも入れるが、基本は自由に。本人達は気付く由もないだろうが、これだけでもタイムを計ったらそれなりに速くなっているはずだ。先述と矛盾しているように訊こえるが、基礎、基本のない子供達であるから、それは足の速い子も遅い子も同じ。そして先生の睨んだ通り異質の走りを示す要。回りの子も薄々気付き始め、順也なんか自分のことのように満面の笑み。そんでもって先生はというと、鳥肌が止まらなかった。




