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個性・差別・才能・義務④




 徒競走もただ走って終わりではない。

「え~・・・もう1回だってさ。今度は音楽に合わせてだって。」

心底嫌そうな顔をした順也がこっそりと要に話し掛けた。要も唇を尖らせて頷く。2人共走ることは好きだったし、自分の走る順番がタイムを計る度に後ろへ回されていくのは、足が速いと褒められているみたいで嬉しかった。最終的に順也は最後から2番目、要は最終走者に選抜された。

 賛否両論あろうが、徒競走は足の遅い子から走り、最終走者はその学年のトップ4(フォー)。距離はだいたい50メートル。クラス関係なくタイムを計って走る順番を決めていくのだが、練習ではそこに至るまでが長かった。子供達にはつまらない、そして理解できない練習が繰り返される。いつもより先生達は厳しいし、ちゃんとしっかり、お喋りせずに言われた通り、頑張ってやっているんだけれども、どうして入場練習や行進の練習に走るよりもずっと沢山の時間をかけるのか。子供達にはさっぱり分からなかった。

 「どうして何度も何度も同じことをするんだろう。歩く方向も止まる位置も覚えたのにさ。」

お弁当の時間も順也の愚痴は止まらなかった。回りに、特に岡部先生には絶対悟られないようヒソヒソ声。繰り返し、繰り返しの反復練習に納得がいかなかったのだろう。

「行進だってさ、腕を振って足を上げてって、走る前に疲れっちゃうよね。」

一方で嫌な顔せず訊き役に徹している要の方は、行進やら入場練習に順也ほどは懲りていない様子だった。

 子供達には、どうして行進するかなんて理解できない。大人だって説明できない。だからこの点において溝が埋まることはない。どうしてわざわざ入場門に集合して、縦・横合わせて整列して、音楽に合わせて元気よく行進して、言葉も交わさず息を合わせて―そんな質問をする強気な子はいまいが―面倒臭くてつまらないだけ。できることは我慢強く耐えることだけ。


 「9秒4!?また速くなっているじゃないですかっ。年長組の子といい勝負ですよ。鈴本君が走る姿を上から見ていましたけど、フォームはハチャメチャですよ、それこそ鬼ごっこでもしている感じで。それで9秒4ですか~・・・凄い!たまにいるんですよね、才能というか。いくら練習しても短距離走は差が縮まりにくい。元々速い子が―」

 職員室でも要のタイムが話題に上がる。特にこういう種は男の方が熱心になりがち。自身の運動経験が豊富なほど、発見した原石に惚れ込んでしまう。夕方にはこんな感じで興奮するから岡部先生も大変だ。けれども嫌な気はしない。子供だなぁ、なんて思ってしまうが、子供のことを己のこと以上に喜べることは同僚として素直に尊敬できる。もちろん岡部先生だって表に出さないだけで、嬉しくないはずがない。加えて平等性は絶対の優先事項。成長を見守れるのは2年間だけ。まるで夢だったかのようにあまりに短い。そして悲しいかな、この頃の記憶や思い出は本人の頭にはほとんど残らない。だから私達が大切に大切に、物に、心に刻むのだ。

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