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アリス・レポート 異世界人見聞録  作者: con
風来坊と記者
5/6

灼熱地獄の決着

このエピソードで第1章を終えます。

「何が鬼なら灼熱地獄だ。俺が鬼なら──お前は悪魔だろうが!」


確かに、この戦いはもはや“戦士”というより“暗殺者”だ。


「いいのか? この灼熱地獄の炎を防いでも、その防護壁の中じゃ酸欠で死ぬぞ?」


「そうか……攻撃が厄介なら、武器そのものを使えないようにすればいい。

 今、この灼熱の中で防護壁を解除すれば、炎の餌食……だが、このままだと酸欠で倒れる。」


口にすると、本当にえげつない戦い方よね。

林道さん……あなた、一体何者なの?


「舐められたもんだな! こんな程度の窮地、あの戦争じゃ何度も超えてるんだよ!!

スキル【金属変化(メタル・チェンジ)】──大剣!」


金田は、灼熱地獄の中でも平然とスキルを発動。

瞬時に大剣を作り出すと、その剣を豪快に薙ぎ払って、周囲の炎を一気に吹き飛ばした。


……こんな化け物、本当に勝てるの……?



「!? 奴はどこだ?」


「何を? 林道さん?」


気づけば、林道さんの姿が消えていた。


「そんな……さっきまで“あそこ”にいたのに!?」


「逃げたのか? いや、ここまで追い詰めておいて逃げるか……?」


ザンッ!


突如、金田の腕や脚が斬られ、血飛沫が舞い上がる。


「まさか……これがお前のスキルか?」


「ああ。これが俺のスキル【静かなる林(ミス・ディレクション)】だ。」


そして、いつの間にか金田の背後に、林道さんが姿を現していた。


「このスキルは“認識阻害”だ。俺は消えていたわけじゃない。

ただ、俺を見ている相手に“俺の存在”を認識できなくさせる能力――。

お前のスキルと比べると地味だがな。」


ミス・ディレクション……聞いたことがある。

手品の技法で、観客の注意をある一点に集中させ、その隙に別のことを行うトリック――。


それをスキルとして発動するなんて……!


「そして、それだけ出血していたら──お前のスキル、もう使えないだろ?」


「てめぇ……俺の弱点を……!」


「弱点?」


「金属変化──触れた物を金属に変化させる、すげぇ能力だが……

欠点は、不純物――“錆”が入ると変化できなくなること……」


「錆……? まさか、“血”!?」


「なぜ気づいた?」


「確信はなかったが……お前、さっきアリスが山賊に攻撃した時、ブラック・ジャックにはスキルを使わず攻撃しなかった。

金属の量からすれば、俺の鉄球より大きなものを作れるはずだ。

だが──袋の中にどんな状態の硬貨があるか、分からなかったんだろ?」


「それだけの情報で、そこまで判断したのか?」


「ああ。経験者ほど、不確定なものは使わない。

それに、ここまでスキルを使ってくるなら──試す判断材料としては十分だ。」


すごい、と思った。

単純に能力の高さで勝つのではなく、相手の能力や行動を読んで戦う――

この“駆け引き”ができるのが、あの戦争を生き抜いた人たちの世界なんだ。


「まぁ〜、あとは監獄で監視にでも話しな」


シュタ!


その刹那、林道さんは金田の首めがけて何かの攻撃を放った──

速すぎて、私には見えなかった。金田はそのまま倒れた。


「これだけ派手に燃やせば、近隣の憲兵も来るだろう」


「このボヤ騒ぎは、それが目的だったんですか? てっきり破壊趣味かと」


「俺のことを何だと思ってやがる……まぁいい、撤退するぞ」


「えっ、どうしてですか? 林道さんの活躍でこの街は──」


「バカか。俺の仕事は“調査”だ。

戦闘は偶発的に起きたに過ぎない。それに、憲兵が保護下に置けば、今回みたいなことはそうそう起きない」


林道は、教会に張り付けにされている人たちを見つめていた。


「……これ以上やると、憲兵の仕事を奪うことになる」


林道さんは近くの民家の花壇に歩み寄り、土に触れて何かを確認していた?


「……まぁ、このくらいは許されるだろ」


木製の義手が花壇の土に触れた瞬間、何もなかった場所から色とりどりの花が咲き誇った。


「せめて、墓前の花だけは用意してやるよ」


「林道さん……」


そのとき──


「あの、おじさん、お姉ちゃん!」


村娘たちが、私たちの前に並んだ。改めて見ると、彼女たちはひどい怪我をしていた。


「助けに来てくれて、ありがとう!」


「おじさんたちのことは、忘れないよ!」


「バカだな。俺たちのことは、忘れろ」


林道さんは村娘の前にしゃがみ、優しく語りかけた。

さっきまでの鋭い目つきではなく、穏やかな目をしていた。


「これからは、生き残ったみんなで生き抜くんだ。それが、俺たちへの感謝の気持ちってもんだ」


立ち上がった林道さんは、ゆっくりと私の方へ歩いてきた。


「それじゃ、行くぞ」


「えっ?」


そう言うと、私を脇に抱えた。まるで荷物のような扱いに、思わず驚いたその瞬間──


「おお、ライラ!」


「お父さん!?」


向こうから、大勢の大人たちが現れた。見たところ、この村の人たちだ。


「うん、お兄ちゃんたちが助けてくれて……あれ? お兄ちゃんは?」


「もしかして──!?」


そう言った瞬間、林道さんに口をふさがれて、そのまま彼は立ち去った。

……もしかして、私を抱えたのはスキルを発動させるため?

そして、喋れば効果が消えてしまうから……?


そんな思いにふけっていたら、いつの間にか、あの丘の近くに戻っていた。


「ここまで来れば大丈夫だろ……ったく、余計なことしかしねえな、お前は……」


塞いでいた手を離すと、私をあっさりと地面に下ろした。

私は呻き声をあげながら、立ち上がった。


「痛い〜、もう少し優しくしてくださいよ!」


「はいはい、それはわる〜ございました。」


腹は立つが、林道さんの姿には先ほどの戦闘でついたと思われる小さな切り傷がいくつもあり、所々から血が滲んでいた。


「仕方ないですね。私が包帯巻きますよ」


「バーカ、そんなのいらねぇよ。見てみろよ、この腕を」


「何を馬鹿なこと言ってるんですか? さっきまであんなに……あれ? 血が出てない。カサブタくらいしかない? もしかしてポーションか回復魔法を?」


「惜しいな。正解は──この義手さ。

こいつは、ハイポーションが群生している場所に生えている“大木”から作られていてな。

生命エネルギーを通すと、副作用として俺のダメージも回復するんだよ」


「そうか、だから破壊されたあとも自己修復機能があるのは、薬草地帯にある大木から作られたからなんですね……」


しかし、そんな貴重な大木を義手に使うなんて……

この林道さん、やっぱりますます怪しいな。



「決めました!」


「はぁ? 急にどうした? クスリでもキメたのか?」


「違いますよ、林道 巧さん。あなたを取材させてください!」


「だから断っただろ? さっきの戦いを見ただろ?

俺のやり方は、英雄様みたいな華やかな戦いじゃないんだ」


「わかってますよ、そんなことは……」


確かに、子供の頃に思い描いていたような英雄譚は書けないかもしれない。

でも──さっきの出来事のようなことは、終戦後の今でも、どこにでも起きている。

それを伝えることが、ジャーナリストの卵である私の役割だ。


「でも、今の現状は世間が知るべきです。

そうじゃなければ、何のために10年前、大戦から学んだんですか!」


「理想が高いのは結構だが……これからは金田みたいに、お前が憧れてた異世界人が敵になることもある。もっと見たくない現実にも直面するぞ?」


「わかってます!」


きっと、私の進む道は危険に満ちている。……でも、


『助けに来てくれて、ありがとう!』


──あの言葉を知った今、もう引き返したくない。


「……はぁ〜、面倒な小娘を寄越したな、ラビめ」


「誰が面倒な小娘ですか!」


「耳元で喚くな……お前が行動を許可されるかは、俺の雇い主に聞いてみろ」


「雇い主……まさか、マフィアのボスとかですか?」


「さぁ〜な。どうする? マフィアのボスだったら、辞めるか?」


この人……今のは圧をかけての警告じゃない!

完全に、からかった目をしてる!


「舐めないでくださいよ! 上等ですよ。マフィアだろうが国王でも魔王でも、伝説のドラゴンでも、行ってやりますから!!」


「お前のその減らず口が、どこまで通用するか見ものだな」


そして、私たちは帰路へと向かって歩き出した。


これは──

謎の風来坊・林道 巧という異世界人と、私・アリスが記録する、戦後の異世界人の物語。


そう、これは──


アリス・レポート 異世界人見聞録


の、始まりである。

異世界人


この世界とは異なる世界から現れた存在。

彼らがこの世界の住人と決定的に異なる点は、以下の2つである。


儀式なしに、すでに戦人との契約がされている。


異界の門をくぐった影響か、固有スキルを所持している。



そのスキルは、類似性はあれど基本的には本人にしか使えないオリジナルスキル。

多種多様な能力が存在するが、基本的には発動条件を満たさなければ効果を発揮できない。

条件を満たさなければ、スキルそのものが発動しない。


現在もなお、不明な点は多い──。

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